騒がしいほどの部屋の中心に佇む僕。
 来たときはきれいなペンションのダイニングだったはずのそこは、今や見るも無残に散らかっている。
 周りを見れば、散らかった物の山。
 騒いだりすでに横になっている人たちが好き勝手にその惨状に加わっている。
 現実を忘れようと、手にしたグラスを口につけようとして、腕が動かせないことを思い出した。
 ため息をついてあきらめて、改めて僕は思う。



どうして、こんなことになったんだろう、と。



リトルバスターズ、スキー旅行に行く! 第四話



 時間を少しさかのぼって、夕暮れ時。
 今日の一大イベントだった恭介と来ヶ谷さんの勝負も終わって僕たちは借りているペンションに戻ってきた。
 帰りの送迎バスの中は二人の勝負の話題でもちきりだった。
 あそこはすごかった、でもあれはちょっと危険だよ、とみんな思い思いにあの熱い勝負を振り返っている。
 当然というか、あれだけ目立った二人は他のプレイヤーにも注目の的だったらしい。
 同じように近くの貸しペンションを借りてる人たちがバスの中で二人を囲っていたのはすごく印象に残っている。

「クーちゃ〜ん、そこのお塩とって〜」
「これですか? はいです」
「うん、ありがと〜。あ、りんちゃんとはるちゃんはテーブルの上に料理並べて〜」
「……(ちりん)」
「あいさっ」

 女子一同が中心になって夕食の準備をしてくれていた。
 その中のリーダー役を担ってたのは、意外にも小毬さん。
 元々料理(お菓子作りがほとんどだけど)が出来るし、可笑しいことでもないんだけど普段が普段だけに珍しい光景だ。

「……サラダ、一丁上がりです」
「肉じゃがもそろそろできますです」
「それじゃあ、それも終わったら持っていって〜。あ、クーちゃんははるちゃんに代わってもらって代わりに先に洗いものしちゃって」
「わかりましたっ」
「おお、これが噂のクド公の肉じゃがですか〜どれどれ」
「わふ〜! つまみ食いしちゃダメです!」
「えぇ〜、いいじゃんちょっとくらいー」
「ダメです。ちゃんと皆さんが揃うまで我慢なのです」
「ちぇ、頭固いぞークド公のくせにー!」
「はるちゃーん、勝手に食べちゃダメだよ〜」
「うう、小毬ちゃんまで私をいぢめる……」

 ハラハラと涙を流しながら、葉留佳さんは料理を運んでいく。
 いつもどおり、どたばたとしてはいるけどスムーズに夕食の準備は進んでいく。
 誰にでも得意分野ってやっぱりあるんだなぁ、と妙な関心をしてしまう。

「理樹く〜ん、そっちのほうはどう?」
「あ、うん。大丈夫だよ。ちゃんと見張ってる……って、鈴! その二人止めて!!」
「ちょっと目を離したすきに勝手に食うなっ!!」

 一瞬目を離したすきに素早くテーブルに近づいた二人を、鈴が纏めて蹴り飛ばす。
 ドガンっ、といい音を立てて壁にぶつかった二人は同時に「スミマセン」と謝っている。
 この二人の見張りが僕に任された仕事だった。
 もうちょっと大人しく待ってられればいいのに、この二人は隙あらばつまみ食いをしようとする。
 ネジの外れてない謙吾なら一緒になって止めてくれるのに、外れてるときは真人とおなじくらい手がかかる。

「と、とりあえずは大丈夫だよ……」
「う、うんー……そのまま二人が帰ってくるまでお願い〜」

 そう声がして、小毬さんが料理に集中しだす。
 ……ちなみに、振り返ったら監視対象者が3人に増えていたのはきっと気のせいだろう。

「まったく、クド公もケチですネ」
「ほんとだぜ、あんなうまそうなもん目の前にしてお預けなんて……」
「なに、落ち付け。いずれ必ず理樹にも隙が――
「そんなこと目の前で言われて目を離すわけないでしょ……」
「……しまったぁぁぁぁぁ!!」

 ため息をひとつ吐いて、早く二人が帰ってこないかと思う。
 今日一番の主役の二人、来ヶ谷さんと恭介は現在買い出しに出かけていた。
 なんで二人が行くのかはよく分からないが、代わりに行こうと提案したら二人に断られた。
 まあ、車で下まで降りなきゃいけないからどっちにしても恭介は行かなきゃなんだけど。

「ただいま。待たせたな」
「少し遅れたな……ふむ、だがちょうどいいか」

 そう考えていたらちょうど二人が帰ってきた。
 手にはたくさんのビニール袋。中身は全部飲み物だ。
 食材は昨日のうちに既に恭介が買っていてくれたのだが、飲み物を買い忘れたのだ。

「おかえり。二人じゃ疲れたでしょ。持つよ」
「ああ、んじゃまだ車の中にあるからそっちを頼む。真人、謙吾。お前らも手伝え」
「ん、おうっ。いいぜ」
「……それだけ買って、まだあるのか?」

 謙吾は二人が両手に持った紙袋を見ながら訝しげにそういう。
 けど、二人はニヤリと笑っただけで何も返さなかった。
 ……なんかたくらんでそうな顔だ、あれは。

「まあいいさ」

 謙吾も同じことは思ったのか、溜息をつきつつそれ以上は追及せずに車へと向かった。

 3人で車の中にあるものを全部降ろす。
 ……いったい何をどれだけ買ってきたんだあの二人は。
 段ボールケースが軽く5つはある。
 中にはペットボトル、瓶、缶といろいろな種類の飲み物が入っている。

「わふー! 大量なのです〜」
「これは……飲みきれるのでしょうか?」
「うわぁ、いっぱい買ったねぇ……」
「これくらいよゆーでしょー。だって今日だけじゃなくて明日も騒ぐんですから!」
「あ、なるほど。それでこれだけあるんだ」

 そういえば2泊3日の旅行だった。
 明日の分もあると考えれば、まあ飲みきれなくもない量だった。

「ま、そういうことだ。それより早く食おうぜ。流石に腹が減ってしょうがない」
「うむ、ちょうど支度も終わったところか」
「うん〜。二人ともなーいすタイミングです」

 エプロン姿のまま、小毬さんはにこやかにそう言う。
 既にテーブルの上にはみんなが作ってくれた料理が並んでいる。
 クドがそのまわりでせっせとコップを置いて西園さんは適当に飲み物を出して並べている。

「よーしっ、うん! これで完成です♪」

 和洋折衷、多種多様なとりあわせの料理が並んだディナーが完成する。
 スパゲティーの隣に肉じゃががあって、その隣にはホイコーローが並んでるあたりかなり謎だけど……
 一応パーティーに定番のチキンやフライドポテト、野菜スティックなんかも用意されていた。

「ご苦労だったな、小毬」
「うむ、おねーさんが褒めてあげよう」
「ううん、みんな手伝ってくれたから」

 にこやかにそういう小毬さんに、恭介が音頭を任せた。
 少し戸惑った小毬さんだったけど、すぐにこほんと一つ咳払いをして、高らかに宣言する。

「それじゃあ、今日一日おつかれさまでしたー。ちゃんとよく噛んで食べましょう」

 小学校の給食のような挨拶だった。

「それじゃあ、みんなで」

『いただきまーす!!』



 こうして、夜の楽しいパーティーが始まったのだった。








 そう、ここまでは普通だったんだ。
 みんなで楽しく立食パーティーをして、いつもみたいに真人と謙吾が料理の取り合いをする。
 葉留佳さんがクドの料理をわざと取って悪戯したり、その間に西園さんにさっと欲しいものを取られてショックを受けている。
 小毬さんは自分の食事もそこそこに、台所とダイニングをせっせと行き来して空いたお皿を片づけたり、新しい料理を出したりと忙しい。
 鈴も途中からそれを手伝い出して、そこを後ろから来ヶ谷さんに捕捉されて「うにゃぁ!!」と叫んだりしていた。
 途中からは、いつ作ったのかケーキが出てきたりで更にパーティーの場は盛り上がる。

 この流れの中で、気付くべきだったんだ。
 一番騒ぐべき彼が大人しく、目立たなかったことに。

 気づいたのは、既に色々手遅れになってどうしようもないところまで来たところだった。







「りきく〜んっ」
「うわっ!?」

 突然肩の上に重みを感じて、危うく手にしてた飲み物を落としそうになった。
 何かが首に巻きついて、なにやら想像しちゃいけないような柔らかいものが背中に当たっている。
 ふわっと真横からほのかに甘い匂いがして振り向こうとして、そこにある顔に驚いた。

「え、あ? え、こ、こまりさん!?」
「えへへ〜理樹君、楽しんでるぅ?」

 いつも以上に上機嫌な小毬さんに、後ろから抱きつかれていた!
 いきなりの事態に、思わずパニックになりかけたのを無理やり押さえる。

「う、うん……楽しんでるけど、どうしたのさ」

 戸惑いながらも、身じろぎしてそっと小毬さんとの距離を開けようとする。
 この姿勢があまりにも恥ずかしいからそうしたかったんだけど、それが小毬さんには面白くなかったらしい。
 「む〜」と言いながらより強く力を込められて、完全に捕らえられてしまった。
 これじゃ、さりげなくほどくことは無理そうだった。

「ううん、ただ理樹君が一人でいたからつまらないのかな、って思って」
「そんなことないよ」

 真人と謙吾がバカなことをやって、そこにさらに葉留佳さんが悪ノリして騒ぎを大きくしたところを鈴が成敗している。
 かと思えば、その横でクドが来ヶ谷さんにつかまって可愛がられていたり、それを西園さんはデジカメに収めていたりする。
 昼間あれだけ騒いだのに、みんな元気だと思う。
 それを眺めてるだけでも、既に十分楽しい。
 だから、とりあえず少しだけ離れてほしい――
 そう言おうとした瞬間、再び小毬さんが口を開く。

「料理は美味しかったぁ?」
「うん、美味しかったよ。流石小毬さんだね」
「えへへ〜。作ったのはみんなでだけどねぇ」

 ふにゃんと融けるような笑顔でうれしそうに言う。
 その顔を見てるとこっちまで嬉しくなってくる。
 ……けど、なんか妙に小毬さんのしゃべり方が変に甘い感じがする。
 なんだろう……

「そだ。クッキーもつくってみたりしました〜」
「え、まだ作ってたの?」
「ケーキを焼いたついでに種を仕込んだだけだからプレーンクッキーだけどね」

 そういって小毬さんは一つクッキーを取りだす。
 ああ、甘い匂いはこれだったのか。

「というわけで、おひとつどうぞ〜」
「あ、うん。それじゃあ遠慮なく……」

 すかっ
 小毬さんから受け取ろうとした手が空を切った。
 あれ、っと思いながらもう一度手を伸ばすと、小毬さんは再びクッキーを遠ざける。

「あの……」
「のんのん。違うよ〜理樹君」

 頭に疑問符を浮かべながら小毬さんを見る。
 ……その時小毬さんの目に、怪しい光を見た気がした。
 そして、次の瞬間にはそれの意味を知る。

「はい、理樹君。あーん」
「え、いや……」
「……私の作ったクッキー、食べたくない?」
「いや、そうじゃなくて……」

 ただ恥ずかしいから、自分で食べれるって言いたかったんだけど。
 けど、小毬さんはしばらく思案した後、突然閃いたように顔をきらめかせて、ついで真っ赤になる。
 そして逡巡した後、おもむろにそれを口にはさんだ。

「えぇ!? なんでいきなりそうなるのさ!」
「んん、んんんん〜(訳:はい、理樹君〜)」

 いきなりクッキーを口にくわえて、食べさせようしてくる小毬さんに流石に突っ込みを入れてしまう。
 というか、変だ。
 思えば抱きつかれた所から普段の小毬さんの行動とはすこしずれている。
 よく分からないけど、とりあえず小毬さんのテンションは変な方向に上がっていた。

「む、少年。ずるいじゃないか、一人でお楽しみタイムとは」
「エロいな〜エロいな理樹くんは〜」
「リキ、え、ええええエッチなのはよくないと思います!」
「クッキーを口移しなんて、神北さんも積極的ね♪」
「…………」

 気が付けば、みんなの注目の的になっていた!
 見てるなら助けてくれればいいのに、みんなはすでに観戦モードだった。
 ……というか、みんなも何人かどこか普段と様子が違う。

「んんん〜(訳:はやく〜)」
「って小毬さんもひとまず待って! とりあえず恥ずかしいから口うつしはやめて!! というか、そんなこと気軽にしちゃダメだよっ」
「はっはっは、いいじゃないか理樹。熱々で俺はいいと思うぞ。なに、盛大に祝ってやろう」
「くそぅ、理樹のやつ、オレというルームメイトがいながら小毬のほうがいいのかよっ!」
「謙吾は何勘違いしてるのさ! 真人も、気色悪いこと言わないでよっ!」
「あははっ! なに、理樹君と真人君は出来ちゃってるの? 禁断の愛? でも、組み合わせとしては恭介さんの組み合わせの方がいいと思うな」
「えー、真人君の方が面白くない、みおちん?」
「面白くないよっ! というか、なんか西園さんキャラ違わない!?」
「ん〜ん〜ん〜(は〜や〜く〜)!」
「だから小毬さんも一旦冷静になって! みんななんかテンション変だよ!?」

 明らかにちょっとおかしくなった小毬さんを流石に引きはがして、おかしくなったみんなを見る。
 不満そうにぷくーっと膨れてるけど、気にしてる余裕はない。
 西園さんはなんか変に明るいし、謙吾はいつも以上にネジがぶっ飛んでいる。
 他のみんなも無駄に静かだったり、いつもどおり変だったりテンションが変な方向に上がっている。

「うむ、理樹君の疑問の答えはきっとコレだろう」

 戸惑ってる僕に、来ヶ谷さんは楽しそうに何かを投げてよこす。
 解放された腕でそれを慌ててキャッチすると、妙にカラフルなアルミ缶だった。
 よく見なくても、アルコール飲料だった。

「って、お酒!?」
「うむ、アルコールだ」
「いや、まさか、もしかして全部……?」
「無論、みんなの飲み物の中に混ぜさせてもらった」

 言われて、あわてて自分が持っていたグラスの匂いをかいでみる。
 ……云われなければ分からないくらい、微かにアルコールの匂いがした。
 けど、それは僕の持ってるウーロン茶に限って言えばだ。
 改めてよく見渡せば、明らかにジュースとは違う色の飲み物がたくさんグラスにはいってるのが目に入る。
 他の飲み物の匂いも全部探ってみると、全てからお酒の匂いがする。
 ……どう考えても故意に混ぜられている。

「お、どうやらみんないい感じに盛り上がってきたな」
「恭介! まさか、お酒混ぜたの恭介なの!?」
「ああ。パーティーの序盤にこっそりとな」

 どこかから戻ってきた恭介が、妙な道具を机の上に並べて悪びれもなくそんな事を言った。
 初めから恭介が静かなのを疑問に思えばよかった。
 よく考えれば率先して楽しんでいないのはおかしいのに……!

「なんでこんなことするのさっ」
「だってそっちのほうが盛り上がるだろ? 大丈夫、どれも少量しか入れていない」
「少量でも十分みんな酔っぱらってるよ! 勝手に入れちゃダメでしょ!」
「なに、健康には問題ない量だ。少しすれば抜ける。それに、そいつらは自分から飲んで酔っ払ったんだぞ?」
「……どういうこと?」
「普通にみんな、置いてあった缶ビールやカクテルを取って飲んだということだ。恭介氏が混ぜた分はただのきっかけにすぎない」
「全然気付かなかった……」

 始まりからずっと、ウーロン茶を飲んでたから他の飲み物にまで目を回してなかった。
 というか、あれだけ量があると思ったらこんなのまで買い込んでたのかこの二人は。

「ま、誰かが見守って分量を調整してやれば、そう酷いことにもならないだろ」
「もう十分手遅れな気もするけどね……」

 ダイニングを見回して、今の惨状を改めて眺める。

 謙吾と真人は、まぁまだマトモだ。普段よりテンションがさらに高いだけで、普段とそう行動は変わらない。
 恭介と来ヶ谷さんも一見問題はない。ただ、この二人は元が元だから、飲んでいてもいなくてもきっとあまり変わりない気がするけど……
 クドは、少し怪しい。
 見るからに顔も赤いし、なによりもうすでにふらふらとし始めてる。
 小毬さんは言うまでもなく、もう完全に酔っぱらってる。
 ひたすら上機嫌なのはいいけど、とにかく何かと絡んでる。今もクドに絡んで楽しく笑っている。
 葉留佳さんも同じで、一緒になってクドで遊んでる。
 普段とあまり変わらないけど、普段以上にブレーキが壊れてるようなきがする。
 反対に鈴は、ひたすら静かだ。
 表情を全く動かさずに、ただただグラスを傾けてる姿は、正直少し怖い。

 ……最大の変化は、西園さんだ。
 とにかく明るい。もはや別人ていっても差し支えがない。考えてることは普段とあまり変わらなそうだけど……

「というわけだ。理樹君も開き直って飲むといい」
「いや、まぁあるなら少しは飲むけど……恭介はさっきから何してるの?」
「ん、ああ。バーテン」

 そういって、恭介は銀色に光る容器……シェイカーだっけ?
 そこから薄桃色のカクテルを注いでそれをまた綺麗な仕草でこっちの方に滑らせてくる。
 ……いつからここはバーになったのだろう。
 来ヶ谷さんの前で止まったそれを、本人も当たり前のように受けとって飲んでいる。

 よく見ると、恭介の姿は上着だけ脱いだ制服姿になっている。
 たぶん、わざわざこのために着替えたのだろう。そっちのほうがバーテンダーに見えるから。

「理樹もどうだ?」
「え、じゃあ……なんか適当に軽いので」
「ふむ、なら適当に作ってみよう」

 そういって恭介はまた適当にいくつか液体をシェイカーにいれて映画で見たことあるようなやり方でそれをシェイクする。
 やがてできたものをカクテルグラスにいれて、さっと横に滑らす。
 狙ったように僕の前で止まるそれを、受取る。
 ……わざわざそんな離れてやらないで、目の前で作ればこんなことしなくていいのにとはあえて突っ込まない。

「……あ、さっぱりしてておいしい」
「だろう? パーティー料理は脂っこいのが多かったからな。爽やかなのがいいだろう」
「ふむ、青い珊瑚礁か」

 来ヶ谷さんの言ったそれが、このカクテルの名前らしい。
 淡い透き通った緑色の中に、小さく赤いサクランボが沈んでいる。言われれば、そうみえなくもない。
 すっきりした飲み口で、とりあえず飲みやすかった。

「あー! 理樹くんと姉御ばっかりずるーい! 私ものむー!」
「わふー……私も少し、興味があります〜」
「いや、クドはもう飲まない方がいいんじゃ」
「私だけ仲間外れですかっ。リキは私を仲間外れにするのですね……どーせどーせわたしなんか……」
「いや、そうじゃなくてさ……」

 ぶつぶつと言い出したクドを宥めるようにいうけど、クドはひたすらテーブルに突っ伏したままぶつぶつと何事かと呟き続けてる。

「まあ、軽いのなら問題ないだろ。リクエストはあるか?」
「いいのですか!? えっと、それじゃあなにか甘いのがいいです」
「私はなんかこう、ドーンと来るやつ!」
「オーケー。それじゃあ少し待ってろ」

 二人はうれしそうに両手をあげてキッチンとダイニングの境にあるカウンターに座る。
 席が足りないから、代わりに僕は立ちあがってクドに譲る。
 まあ、この二人がいれば本当に酷いことになる前には止めてくれるだろう。
 ……本当に酷くなるまでは止めないだろうけど。

 とりあえず、そこを離れて別の所に行こうとしたら腕をぐいっと引っ張られて無理やり座らされた。
 不満そうに顔を膨らませたままの小毬さんと、小悪魔的に笑う西園さんだった……。
 というか、まだ膨らんだままだったんだ小毬さん。

「ぷー……理樹君は冷たいです」
「いや、そんなこと言われても……」
「いいもん……どうせ、私の作ったクッキーなんておいしくないもん」
「あれは、小毬さんが渡してくれないから」
「ちゃんとあげようとしたよ? けど理樹君、受け取ってくれなかった」
「それは、あんな渡し方じゃ……」

 恥ずかしいから受け取れるわけがない。
 けど、それは今の小毬さんには通じないらしい。
 ぷくーっと頬を脹らましたまま、そっぽ向いて「私、怒ってるんだよ」と言外にアピールしている。 
 それを、隣に座った西園さんはただ楽しそうに笑って見ている。

「それは理樹君が悪いね。これは、罰が必要かな」
「罰って……僕が悪いんだ……」
「もちろんよ。女の子のお誘いを蹴るなんて紳士的じゃないよ」
「いや、紳士ならあそこは受けちゃダメだと思う」
「そんなのはどうでもいいの」

 言った本人に否定された。

「というわけで、神北さんはどんな罰がいいと思う?」
「うーんとねー」

 哀れな羊を間にはさんで、二人の小悪魔が声をはばかることなく楽しそうに話している。
 ……ちなみに、逃げようとしても二人に腕を押さえられてて逃げられなかった。

「やっぱり、ここはあれじゃないかな?」
「あれかな〜」

 二人して顔を見合せて、笑って何かを通じ合っている。
 そういえば、この二人の組み合わせって言うのも珍しいかもしれない。
 けど、できればこの状況で意気投合はしないでほしかった……。

「というわけで」
「というわけで〜」

 腕を確保したまま、二人はポケットからそれぞれ布のようなものを取り出した。

「おめかししましょ〜」
「やっぱり女装だよね♪」

 笑顔でその手に持ったリボンを僕に見せてきた。

「いや、それはゴメン!」
「うわっ」
「わぁ!」

 次の瞬間には僕は二人の腕を振りほどいて全力でその二人から逃げを打った!
 けど、酔っぱらった二人も容赦がなかった。

「りんちゃーん!」
「井ノ原さん、宮沢さん、確保して!」
「……」
「なに、筋肉の出番か!?」
「ようし、任せろ!」
「って、何でこんな時だけみんな積極的なのさ!」

 この三人相手で逃げ切れるわけがない。
 あっという間に3人に両手足を押さえられて床に組み伏せられる。
 西園さんも楽しそうに僕の腕を押さえている。
 そして僕の頭の方には、ニコニコした顔で色とりどりのリボンを持った小毬さん。
 今ほど、小毬さんの笑顔が怖い時はなかった。

「じゃあ理樹ちゃん〜。れーっつ、どれすあーっぷ♪」

 笑顔のまま、小毬さんは僕を色々と飾り付けていった……









あとがき



命「というわけで、第4話でした〜」
翠「こんばんわ、あとがき係の翠と命です」
命「今回は初日の宴・前半戦です」
翠「作者からのメッセージです『こまりんのシーンは特に羽目を外してみました。……一応ブレーキもかけましたよ?』」
命「うーん……どこでブレーキかかったんだろう?」
翠「たぶんあそこじゃないかな? 口うつしクッキー」
命「理樹くんが受け取らなかったところ?」
翠「たぶん……」
命「ブレーキ……かなぁ。まあいいか。えっと、この話は実は半分で切られてます」
翠「元々は4話で初日・夜の話は全部終わる予定だったからね」
命「でも、めんどくさいと書かないかもしれない、とも言ってるみたい」
翠「理由は、なくてもストーリーに関係ないから、とか」
命「でも元々ストーリーもへったくれもないのにねー」
翠「ほんとね。まあ、後編の内容は酔っぱらいのままね」
命「それでは、弟5話でまたあいましょ〜」






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