車が揺れる。
いや、揺れるなんてものじゃない。
滑る、回る、跳ねる。
「きゃああああああああああああ!!」
「うわっおわっ!! 跳ねてる、なんか跳ねてるぞこれ!?」
「ちょ、きょ、恭介! 危ない、危ないよ!!」
必死になって窓の上についてる手すりみたいなやつを掴む。
ほかのみんなも座席にしがみ付いたり、真人や健吾、来ヶ谷さんが必死になって押さえている。
運転している恭介も、普段の余裕が全くない!
「話しかけるな理樹! さすがに、集中してないと……うおっ! あっぶねぇ!!」
「わわわわわ、こ、これはちょっとシャレになってませんヨ!?」
「……ふっ」
「わふー!? 西園さんが気絶してしまわれましたっ!?」
「くっ、恭介氏……もう少し安全に運転を」
「仕方ないだろ! こっちだってしたくてしてるんじゃないぞ!」
「うおっ! クド公あぶねぇ! しっかりつかまってやがれ!!」
「わふー! す、すみませんです」
「三枝も、少し騒ぐな……! 流石に支えるのがキツイ……」
「っと、すみませんですよ……でも、流石にこれはチョット怖すぎるよー!!」
「うわわわわわ!! ど、どあがー!?」
「小毬君!」
「こまりちゃん!!」
「し、しししししししぬかとおもったあぁぁぁぁぁ…・…!」
ゲレンデへ向かう途中、車の中は蜂の巣をつっついたかのように大騒ぎになっていた。
いや、昔つっついたことがあるからはっきり言える。
今のこれはそれ以上に騒がしく危険なことになっている。
「が……崖が見えるよ……はう」
「こまりちゃんも気絶したぞ!?」
「パニっくになられるより、マシだ。今のうちに引き上げるぞ」
「っとりゃああああ!!」
「真人真人! そのまま鍵しめちゃって! 開くと危ないから!」
「んなこといっても、これ鍵かかんねぇぞ!?」
「ああ、安物のレンタカーだからそこは壊れたままらしい」
「そんなことだけ冷静に言うなぁぁぁ! 真人、そのまま抑えてろ! 能美はこっちで押さえておく!」
「おう! まかせな!」
今の状況を端的に言えば、こういうことだ。
ガードレールのない、圧雪になった山道を突き進んでいた。
リトルバスターズ、スキー旅行に行く! 第二話
「し、死ぬかと思ったよ〜……」
「いや、悪い悪い。まさかあんな山道になってるとは思わなくてな」
「きょーすけのせいだぞ。近道しようなんていいだすからこんなことになるんだ」
「いや、ホントすまなかった。けど、みんな無事に着いたからいいじゃねーか」
「ホントだな……帰りは絶対普通の道を選ばせるからな」
あの怒涛の強硬行軍のあと、なんとか無事に目的のスキー場にたどりついた。
ペンションの鍵はあらかじめ受け取ってあるので、とりあえず荷物を置くためにもいったん中に入った。
「さて、なんとか無事辿り着いたわけだ」
「ほんと、運良くね……」
「……早速スキーに向かおうと思うんだが、未経験者は何人いるんだ?」
僕の言葉はスルーしながら、恭介は続ける。
まぁ、無事にたどり着いたからいいんだけど……
「とりあえず、俺たち5人はやったことがある。一応全員上級者コースまでなら行けるだろう」
「私も上級くらいなら余裕だ。ここにあるらしいエクストラコースとやらにむしろ興味があるな」
「お、来ヶ谷もか。俺もだ。後で一勝負どうだ?」
「ほう、恭介氏直々にご指名か。面白い。直接対決なぞそうそうないからな。是非とも受けて立とう」
「謙吾! 俺たちも勝負しようぜ!」
「ふ、望むところだ」
早くも一部の人たちは盛り上がっている。
エクストラ……上級の上なんだろうけど、どれだけ傾斜があるんだろう?
「私も一応経験はあります。ただ、移動がめいんでしたので上級者こーすはおそらくむりですー……」
「いや、無理に滑る必要もないと思うよ。楽しく滑れれば一番だし」
「それもそーですね。わかりましたっ! 頑張って上級者こーすもくりあーしてみせますです!」
「いや、まぁクドがそうしたいんならいいんだけどね……」
「……それに、上級者こーすにいけるようになれば……リキとも一緒に……」
「ん、何か言った?」
「い、いえいえっ何も言ってないです! ……わふー……」
「うーん……私は経験ないよー。ソリなら滑ったことあるけど」
思案顔でそういうのは小毬さん。
そういえば昨日もそんなこといってたっけ。
「私もないですよ〜。実はスキーとか初めてだったりします」
「わたしもありません。そもそも、雪山に来たことすら初めてです」
「にゃはは、みおちん私と一緒ですね。一緒にソリでもかっ飛ばしますかー」
「それは遠慮しておきます」
「がーん!」
西園さんはイメージ通り、葉留佳さんは少し以外かもしれない。
ソリの誘いを袖にされて派手にショックを受けている葉留佳さん。
でも、葉留佳さんの誘いをそのまま受けるのも少し怖い。たとえば、山のてっぺんからソリで直滑降とかしだしそうだ。
「ふむ、やったことがないのは3人か」
「スキーとボードくらいなら私が教えよう。流石に雪上バイクは運転できんが」
「いや、誰も乗ろうと思わないしまず免許がないと運転できないから」
「なにー! はるちん少し楽しみにしてたのにー!」
「いや、あたりまえでしょ!? 第一スキーしに来たんだから普通に滑ろうよ!」
「ま、その3人は交代で教えていこう。なに、基本さえ覚えれば初級コースくらいならすぐ滑れるようになる」
「はいっ! がんばります!」
「こまりちゃん、スキーならあたしも教えられるかもしれない。一緒に滑ろう」
「うん〜よろしくね、鈴ちゃん」
「それじゃあ、早速ゲレンデに繰り出すとしよう。ウェアや板がない奴は受付で借りること。その代金も含まれてるからな」
「よっしゃ! 一番乗りだ!」
「まて、させるかぁ!!」
早速駆け出していく馬鹿二人。
せっかく持ってきたウェアもスキー板も持たずにあの二人はなにするつもりなんだろう……
「バカだな、あの二人」
「ま、いつものことだろ。すぐ気付いて戻ってくるさ。その間に各自、部屋に荷物を運んでおくこと。
2階にある部屋の奥が女子、手前が男子だ。今いるここは食堂、隣はリビングだ。持ってきた食材はそこに片付けておこう。
反対側の廊下の突き当りが風呂。なんと、温泉だ」
「わ〜い温泉だー♪」
「温泉です〜♪ もしかして、露天風呂なのでしょうか!?」
「もちろん。じっくりお湯につかりながら雪見酒なんてのも、洒落てていいな」
「ふむ、それもまた乙なものだな。小毬君やクドリャフカ君のお酌で飲む雪見酒……ああ、想像しただけでクルな」
「不穏当な発言はやめようね来ヶ谷さん……温泉は一つだけなの?」
見るからに表情が崩れて小毬さんとクドを見つめている来ヶ谷さん。
あーあぁ……二人とも脅えて震えちゃってるし。
「いや、ちゃんと別れてるぞ。男湯と女湯、しっかりとな。それだけじゃないぞ、なんと混浴もある」
「なっ! こ、こんよく!?」
「うわぁ……それはちょっと、恥ずかしいかも……」
「ふむ、鈴君と小毬君を侍らせて混浴風呂か。『へっへっへ、鈴も小毬さんも僕のものだぜ。ああ、恥じらう姿も可愛いよはぁはぁ』か。
理樹君もなかなかスキ者だな」
「しないから! ていうかそんなこと考えてないから!」
「『けど、心の奥底では少し期待している僕だった』」
「だから勝手にナレーション付けないでよっ」
「ま、入るか入らないかは各自の自由だ。水着とか用意してみんなで入ればよかったかもな」
「あ、それなら楽しそうでいいかも〜」
「水着……ですか。それなら、まぁ」
「にゃはは、それは楽しそうですね」
「いけません! お風呂に水着で入るなんてじゃどーなのです。本当はタオルをお湯につけるのもまなー違反なのです」
「ふむ、つまり今日はクドリャフカ君の裸が見放題か。それは楽しみだ」
「わふっ!? いえ、あのその……」
自分でいって自爆してるクド。
けど、温泉はちょっと楽しみかもしれない。疲れた体を癒すのにもちょうどいいし。
「ま、それは夜のお楽しみってことでだ……さっさと片付けて遊びに行くか」
おーっ!! とみんなで叫ぶ。
楽しい一日の始まりだ。
「それじゃあ、悪いな鈴、理樹、来ヶ谷。一足先に滑ってくる」
「うん、楽しんできてね」
「恭介氏、さっきの勝負忘れないように。精々ウォームアップに励んでくるといい」
「ああ、お前こそ、教えるのに熱中しすぎて忘れるなよ。俺は遠慮しないぜ?」
「ふふ、楽しみにしているよ」
不敵な笑みを互いに見せ合って、恭介はリフトの方へと滑っていく。
まだまばらなゲレンデでガラガラなリフトに一直線に突き進んでいくあの様子は、最初から上級者コースに行く気だ。きっと。
「では、私も行ってきますです。あとで交代に来ますね」
「うん、クドも楽しんでくるといい」
「なに、交代が来る前に基礎は教え切って見せるさ。戻ってくる頃にはみんなで滑れる」
自信満々の顔で断言する来ヶ谷さん。
来ヶ谷さんがそう言ったからには、きっと来ヶ谷さんが教える相手は本当に滑れるようになってそうだ。
……とてつもないスパルタを受けることで。
クドもきれいなスケーティングでリフトへと向かっていく。
体育の成績はそんなに良くなかったとおもうけど、スキーに慣れてるっていうのは本当みたいだ。
「さて、では始めるとしようか」
「うぃっす! よろしくですよコーチ達!」
「一生懸命がんばるよ〜」
「……お手柔らかにお願いいたします」
三者三様の返事でもって応える生徒三人。
とりあえず、小毬さんと葉留佳さんはとってもやる気だ。
「ふむ、ちょうど生徒3人、コーチ役3人だな。一対一で教えるのが手っ取り早いか」
「そうだね。覚える速度も違うだろうし」
「ならこまりちゃん、やろう。あたしが教えよう」
「うん。よろしくね、りんちゃん〜」
笑顔で言って、鈴の所へ進もうとする小毬さん。
けど
「わひゃ!?」
その場で勢いよく転倒した!
「だいじょうぶか!? こまりちゃん」
「うん〜大丈夫ー。うう、滑るよ〜」
「いや、スキーなんだから当たり前だろう……」
あきれ顔で言う来ヶ谷さんに、思わず同意する。
初っ端から前途多難な小毬さん。
立ち上がろうとしてもう一度転ぶのもお約束だ。
鈴が困った顔でこっちを見てくる。
……残念だけど、一度言った以上小毬さんは鈴の生徒だ。
小毬さんは物覚えが速いから、きっと大丈夫だろう。たぶん。
でも、鈴が上手くコーチングできるかどうか……やっぱり少し不安になってきた。
「ふむ、ではおねーさんは葉留佳君に手ほどきしてやろう」
「うぃっす! よろしくッス姉御」
「ふふふ、2時間で上級者コースを制覇できるようにしてやろう」
「いや、そんなスパルタじゃなくても……ふつーでいいデスヨ、姉御」
「ダメだ許さん」
「ええー!?」
「私に教わる以上、手加減はせんぞ。とりあえず初級者コースに行こう。葉留佳君は何より実践が一番だろう」
「いや〜りきくんへるぷみ〜」
はっはっはと高笑いして葉留佳さんを引きずってリフトへと向かう来ヶ谷さん。
スキー板を履いて人を軽々と引きずっていくのは正直凄いと思う。
ごめん、葉留佳さん。僕には来ヶ谷さんは止められそうにないよ。
ドナドナをBGMに、葉留佳さんは初級者コースへと旅立っていった。
……とりあえず、無事だけ祈っておこう。
「それじゃあ、始めようか西園さん」
「はい。よろしくお願いします、直枝さん」
「ん、っと・・・…」
「そうそう、内側のエッジで蹴るみたいに。左足でけったらすぐに足を地面から離して、右足だけで立つみたいに」
「これは……少々かっこ悪いですね」
「最初はしょうがないよ。なれるとスムーズにできるからさ。ともかく、スケーティングができないと平地で動けないから」
「ストックで進んではいけないのでしょうか?」
「うーん、いけなくはないと思うけど、やっぱり基礎だから覚えた方がいいよ。エッジの使い方とか、滑るのにもつながってくるしね」
とりあえず基礎のスケーティングから教えること1時間。
なんとか西園さんは平地で進めるようになってきた。
来ヶ谷さんと葉留佳さんははじめからコースに出て実地のスパルタメニュー。
上から時折ぎゃーって声が聞こえては「もういやー、かえるー」「はっはっは、まだまだ。少しずつ上手くはなってるじゃないか」
というやり取りをしながらひたすら昇っては滑る(背中を押してるだけともいう)を繰り返している。
鈴と小毬さんは、やっぱりというか早かった。
スケーティングこそ最初口で説明しようとして手間取ってたみたいだけど、一度実践して見せる。
といって鈴が初級者コースからすべるのを見せた後は早かった。
すでに二人で初級者コースから仲良く滑り下りるくらいには上達していた。
「……なんとかコツがつかめました」
「お疲れ様。うん、それができればとりあえずリフトまでは一人で進んでいけるから」
「少し疲れました」
ウッドデッキに寄りかかりながら、西園さんは一息つく。
スキーは結構筋肉を使うから、完全にインドアな西園さんには少しつらかったらしい。
休んでる間に、中に入ってココアを買ってくる。
「はい、甘いの取れば少しは疲れも取れると思って」
「ありがとうございます。……温かい」
しばらく手を温めるように缶を転がしてから、プルタブを開けて口をつけ始める。
コクコクと、結構速い速度で開けていく。
「やっぱり疲れてた?」
「はい。あと、少し冷えます」
「実際に滑り出すと結構暑いけどね。それじゃあ、それ飲み終わったら一度滑ってみようか」
「え……もう、ですか?」
不安そうな顔でそういう西園さん。
その気持ちは、正直よく分かる。ぼくも昔おんなじことを恭介にいったから。
だから、僕はあの時の恭介と同じことを返す。
「うん。スケーティングはもう覚えたしね。後は実際に滑ってみるだけだよ。転んでもいいから、ゆっくり進んでみよう」
「転ぶのは少し恥ずかしいですね……」
「でも、スキーって転んでなんぼって所もあるから。とりあえず行ってみよう?」
「……わかりました。行くだけ行ってみます」
「うん。あ、そうだ。確か短めの林間コースがあったからそっちにしてみる?なだらかだからスケーティングでもいけるし」
「そうですね。そちらのほうがいいです」
「それじゃ、そっちにいってみよう。リフトに乗るのと降りるのもちょっとコツがいるんだけど、最初は僕がリードするから」
「直枝さんがリード……むしろ直枝さんはリードされる側が理想なのですが」
「え?」
「いえ、なんでもないです。それでは、エスコートをお願いしますね」
「ははっ。かしこまりました、お嬢様」
少しおどけて見せた西園さんに合わせるように、そういってみた。
あとがき
「はい、と言うわけで第二話でした〜」
「今回の作者からのメッセージ『なんで西園さんがメインっぽくなってるんだろう?』」
「別に西園さんメインなSSでもないのにね〜。まぁ、しいて言えば成り行き?」
「ちなみに、作者はスキーに行ったのは小学生の頃一回だけらしいわね。一生懸命思い出して書いてるとか」
「だ・か・ら! スキーの表現とか知識で間違ったところがあってもいじめちゃダメだよ! こっそりグサッと指摘してあげるだけにしよう」
「それじゃあまり変わらないでしょう……さて、次回は引き続きスキーです」
「今度は理樹くんも自由に滑るのかな? たぶんメインは来ヶ谷vs恭介のエクストラコースレーシング!」
「傾斜なんと45度。これは地元にあるスキー場を参考にしてるらしいわ」
「ちなみに、山の45度ってかなり急だよ〜分度器を思い出してみると分かりやすいよ。90度が真上だから、そのちょうど中間」
「滑り降りるにはかなり実力がいるわね。おまけにこぶもそれなりにあるわ」
「というわけで、次回もおたのしみに〜」
「感想はメールかBBSでよろしくお願いいたします。書いていただけると作者がそれなりに狂喜乱舞いたします」

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