大晦日まであと3日まで迫った12月29日の夜。
学校に残ったわずかな学生の内の僕たちは、食堂に集まって恭介をぽかんとみていた。
「……わりぃ、恭介。どうやらちゃんと聞き取れなかったみてぇだ」
苦い顔をしながら、真人がそういう。
僕も同じように何を言ってるかわからず、ぽかんと恭介を見ている。
他のみんなも同じようだった。
唯一、来ヶ谷さんだけがいつも通り不敵に笑って恭介をみている。
「すまねぇが、もう一回言ってくれねーか」
「そうか、ならもう一度言おう」
一拍の間をおいて、恭介はさっきより更にはっきりと宣言する。
「みんなでスキーに行くぞ」
リトルバスターズ、スキー旅行に行く! 第一話
「出発は明日だ。朝早くからの出発になるから、みんな――」
「ちょっと待て恭介」
「ん、なんだ真人?」
こめかみを押さえながら、真人がゆっくりと立ち上がる。
そして、さっきより更に苦々しい顔で告げる。
「……馬鹿か?」
「馬鹿とは心外だな。何が不満なんだ」
「大有りだよ。まずいきなり過ぎる。次にどうやって行く。更にはいきなりそんな金が用意できるか、おまけにいきなり過ぎる!」
「こいつまた同じこと二回言ってるぞ」
「鈴、ありきたりだけど言うしかないんだよ。真人だって本位じゃないんだよきっと」
「普通に間違えただけだよ! ごめんなさいでしたー!」
いつも通り変な事を言ってるけど、真人の言ってることは確かにあってる。
「確かにいきなり過ぎるな。第一、宿や移動手段、それにかかる代金はどうするんだ」
謙吾も同意するように言う。
というか、呆れたような眼で恭介を見てる。
「移動手段は既にレンタカーを手配してある。前の修学旅行とおなじ奴だが、そこは我慢してくれ。
宿に関しても問題ない。貸しペンションだが一軒押さえてある。というか、そこしか使えないんだが」
「?」
妙な言い回しをする恭介。
その答えは、すぐに恭介の口から放たれた。
「実は、こんなものが当たった」
そう言ってスッ、胸元からと取りだされる封筒。
よくあるようなお祝い用の封筒で、『特賞』と書かれていた。
「商店街の福引の特賞、団体様スキーツアーの招待券だ」
その一言に、みんなが一斉にどよめきだつ!
「ふぇええええ!? と、特賞!?」
「特賞なんて初めてみました!」
「まじかよ恭介! すげーじゃねえか」
「商店街の福引というと、あれか。この間私から持って行ったものか」
「あ、僕も持って行かれたっけ」
「ふむ、そういえばそんなこともあったな」
あと一枚で出来るからくれといわれてあげたことがあったっけ、そういえば。
「でも、さすが恭介さんですね。まさか特賞を引き当ててくるなんて」
「ええ。あの商店街の福引は当たらない事で有名なんですが……」
「なにぃ!? それはさぎじゃないのか?」
「ああ。だから回す前に一度中身を開けさせた。最終日なのに特賞も出てなかったから半ばごり押しだったが……
案の定、特賞の玉なんて入ってなかった」
「それはまた、なんとも言えないね……」
「で、用意させて引いたら見事当たった、って所だ」
「すごい強運デスネ……」
「元々みんなが引いていて残りの玉が少なかったんだ。で、全力で回して中身を攪拌しまくった。適当に上から入れただけだから
普通に回したんじゃまず当たらないからな」
その様子を想像する。
苦虫をつぶしたような顔で金色に光る球を入れる商店街の人と、嬉々としてあのガラガラを全力で回している恭介。
その後、出てきた金色の球に唖然とする係員と一気に沸き立つ聴衆の人たち。
ああ……これでまた恭介は一つ有名になっちゃったんだ。
しばらくは恭介と一緒に歩くと色んな視線を浴びそうだ。
「理由はわかった。でもよ、なんで明日なんだよ」
「その期限が明日までだからだ。元々、商店街のおっさんたちが景品用のお金を流用して旅行に使う予定だったらしい」
「着服か。あの商店街は終わったな」
冷めた顔でそう言う来ヶ谷さん。
確かに、そんなことをしたんじゃ今後あの商店街は客足は遠のきそうだ。
「んで、その人数がちょうど10人。これはもう行くしかないだろ」
「なるほど、それは確かに行かねばもったいないな」
「ああ。そういうことなら全然構わねぇぜ。ふっ、ついに俺の筋肉の真価を発揮する時が来たか……」
「確かに、今回は真人の筋肉も役に立ちそうだね」
「おうよっ。見てろよ理樹、俺の筋肉が白銀の斜面を滑走する姿を」
「きしょいわっ!」
いや、確かに筋肉が斜面を滑走する様を直接イメージすると気持ち悪いけど、スキーウェアを着た真人が滑る姿とイメージすると中々様になってる気がする。
……ちょっとだけ威圧感がある気がしなくもないけど。
「ふわ〜スキーなんて初めてだよ〜♪」
「小毬さん、スキー初めてですかっ」
「うん、ちっちゃい頃にスキー場に行ったことはあるけど、そりしかやったことないの」
「んじゃ小毬ちゃん、私と一緒に山のてっぺんからそりで一気に滑走しましょう」
「ふぇ!? そ、それはちょっと怖い〜」
想像したのか、がくがくと震えながら涙目になる小毬さん。
いや、それ以前にそりじゃ山頂まで登らせてくれないから……
「クドリャフカ君はスキーをしたことはあるのか?」
「はい。昔お爺様と一緒にロシアにいた頃にしたことがあります。移動の大半がスキーだったので大変でした」
「能美さんの海外生活がとても気になる発言ですね……」
「うむ、そのオモシロ冒険譚は今夜じっくりと私のベッドの中で聞くとして」
「わふ!? べ、べべべべベッドの中ですか!?」
「理樹君は経験者なのか?」
「うん、前に何度か恭介たちと一緒に行ったことがあるから。一応上級者コースまではいけるよ」
「ほう、それはなかなか」
「理樹くんの意外な才能の発見ですネ」
「いや、好きで滑れるようになったわけじゃないから……」
「はえ? どーゆーことですか?」
僕たちの会話を聞いてたのか、恭介が楽しそうに笑ってる。
思い出す。恭介と真人に無理やり連れていかれて滑らされた上級者コース。
中級者コースを飛び越えていきなり連れて行かれたもんだから、泣きながら滑った記憶がある。
二人はさっさと滑って行っちゃったし(それでも恭介は僕が見えるところでちゃんと見ててくれたけど)、あの時は一人じゃリフトに乗れなかった。
散々斜面のデコボコに引っかかって転んで、下に降りる頃には中級者コースまでなら平気で滑れるようになっていた。
今でこそ、そのおかげでスキーが出来るようになったと思えるけど、あのときは本気で怖かった。
なんとか無事に滑り降りた後、恭介がお祖父さんにこっ酷く叱られてるのは今でも印象に残っている。
「ま、とにかくそういうわけだ。出発は早朝の4時だ。2泊3日の予定だが、朝から目いっぱい遊ぶために早く出ることとする。
そのため、今日はしっかり寝ておくこと。いいな?」
全員の返事が一斉に上がる。
もはやみんなの予定など聞くまでもなく、全員が了承する。
元々、みんなで年越しまで遊びつくす予定を立てていたから問題はない。
むしろ、年越しをスキー場で過ごせることになって全員浮かれ立っている。
みんな一斉に明日の支度をするために解散し、各自の部屋へと散っていく。
楽しく、同時にちょっとした事件も含めた波瀾万丈のリトルバスターズのスキー旅行は、こうして始まった。
あとがき verしぐれ堂マスコット's
「はいっ! というわけで始まっちゃった『リトルバスターズ!』のドタバタSS、スキー旅行(仮)!」
「始めましての方は初めまして。既にご存知の方はお久しぶり。しぐれ堂のあとがき担当キャラの翠です」
「そして命でーす。……ところで翠? あんた性格変わってない?」
「作者の都合、だそうよ。詳しくは管理人の別SS、私たちも(敵役だけど)メインクラスで出てくる長編SSをご覧ください」
「といっても、まだ未完で最終改訂版は公開してないけどね♪」
「まぁ、そのことは置いておきましょう。今回はリトルバスターズSSのあとがき役よ」
「っと、そうだった。基本的に、今後管理人のスイが書くSSのあとがきは私達が担当することになってるよ」
「懐かしいネタでいうならS様と助手M、って感じに覚えるといいわ」
「ちょっと翠! そのネタ分かる人少ないから多分! っていうか、あたしの方がS役なの!? どーしてあんたがL様なのよ」
「んー……まぁ、なんとなく、かしら。とりあえずあとがきを始めましょう」
「っと、そうだった」
「と、いうわけで〜。今回はKeyの作品『リトルバスターズ!』のSSになるよ」
「ジャンル的にはドタバタ中編コメディ、あたりかな……? 10話以内には完成するらしいわね」
「まだ作成途中だけど、作者のスイは『うわー、どう考えてもやりたいことやるととあるゲーム二つと内容かぶってる』って嘆いてるよ……」
「まぁ、ありきたりなネタだし、片方は王道を売りにしてるゲームだしね。開き直ることにしたらしいわよ」
「まぁ、リトバススキー旅行 ver筆者スイって感じだね」
「とりあえずスイからのコメントを読みます……自分と同じ読みの名前って調子がなんだか調子が狂うわね」
「いいからいいから。さて、まずは能美クドリャフカと直枝理樹について」
「スキーができるっていう設定は適当に決めたらしいわ。ちなみにスイ内部では、実際にはできなさそう、って感じらしいけど」
「今回は出来る方が都合がいいらしいよ。逆に、ぱっとみ出来そうな三枝葉留佳は出来ない設定みたい」
「あの家庭状況じゃスキーになんて行けてないだろう、というのが理由らしいわ。まぁ、納得ね」
「つぎに、現状のリトルバスターズ! の人間関係について」
「refrain後、固定のキャラとくっ付いてない状態らしいわね。これはスイの書くSSでは基本設定になるらしいわね」
「そっちのほうが色々出来てオモシロソーだしね♪ ただ、好きなキャラをひいきする可能性が高いとは言っちゃってるけど」
「それは今後のお楽しみ、ってことで。作者からの手紙はこれで終わりね」
「それじゃあ、最後に次回予告いってみよー!」
「次のお話は、ペンションについてからとスキーを始めるあたりまで、かしら。道中の様子を描くかは未定、って言ってるわね」
「あー、あとあと! これと同時進行でリトバス中編SSが他二つ、リトバスは出てこないけどメインSSの「world end」の計4個があるから、
ぶっちゃけちゃえば更新頻度は結構ランダムみたい」
「まぁ、元々『同じ作品描き続けるの疲れるー! たまには息抜き必要だよね、うん』って理由で書きだしたものだし」
「というわけで、次の更新は未定! 但し、展開は大雑把には出来てるから『ヤル気さえあれば』すぐに更新する、って言ってるわね」
「それじゃあ、次のあとがきまでばいばーい」
「更新が果てしなく遠いですが、メインSSの『WORLD END』もよろしければ気にかけてあげてください。苦労してるみたいだけど書いてるようだから」
戻る(リトバスSS) TOP 次へ(2話)