ロワール川流域(Val de Loire)地区
王侯貴族たちに愛されたロワール地方
かつてロワール地方一帯は、封建領主や貴族が住むフランスの中心でもあったところです。その栄華の跡がいたるところに残っています。ルイ15世の愛人マダム・ド・ポンパドールが済んだ豪奢なシュノンソー城、英仏百年戦争の時にジャンヌ・ダルクを迎え入れたというシノン城、ロワールの真珠といわれる美しい館アゼ・ル・リドーなどがここにあります。
今日のロワールは「フランスの庭園」と呼ばれる美しい観光地です。この歴史ある風光明媚な地から生まれるワインが、いかに繊細で魅力的かお解かりいただけるでしょう。
葡萄の栽培面積は広く、また造り出されるワインの種類の多様さはフランスでも一、二を争います。甘口から辛口までの白ワイン、深みのある赤ワインなども産しますが、なかでも甘口白ワインの評価は高いです。ロワールのワインはフルーティーでフレッシュです。
ナント(Pays Nantais)地区
この地区のAOCワインは白ワインのみ。その代表的な白ワインは『ミュスカデ』です。同名のぶどう品種から造られる酸味の爽やかな辛口のワインです。
ナントでは、1709年冬、海水も凍るほどの異常気象に見舞われ、葡萄畑は全滅してしまいました。その後、それまで栽培されていた黒葡萄に代わり、白ぶどうの植え付けが盛んに行われ、その内の一つが今日この地区を代表するムロン・ド・ブルゴーニュ、またの名をミュスカデと呼ばれる霜害に強い品種です。
ミュスカデを使用して、酸味が若々しい軽快な辛口タイプの白ワインを造りだし、『シュール・リー』という技法により、さらに旨みと新鮮みを高めていきます。
シュール・リーとは・・・
シュール(Sur)・・上、リー(Lie)・・澱。直訳すれば『澱の上』で、ナント地区では古くから行われてきた伝統的なワイン造りの技法です。ワイン発酵後のタンク内に発生した澱を澱引きせずに、翌春までワインと澱を低温で接触させておくき、翌春澱上の上澄みのワインを瓶に詰めます。
その為、澱からワインへとアミノ酸などの旨みが溶けだす作用によって、ワインは香り高くコクをもつようになります。また、発酵中に生じた炭酸ガスがワインに弾けるようなフレッシュさも与えてくれます。
『ミュスカデ・シュール・リー』(Musucadet Sur Lie)
酸味にボリュームがあり、花の香りや、フレッシュでミネラル分に富んでいるのが特徴の白ワイン。すっきりとしたフレッシュ感、デリケートな香りを持ち、特に魚介類とよく合うワインとして有名です。
生ガキとミュスカデ・シュール・リーがよく合うと言われます。これはミュスカデのフレッシュな酸味が、レモンをちょっとたらすのと同じような効果を生ガキの味わいに与えるからです。他には、鰹のたたき、鯛の刺身、鰯やホタテのハーブマリネ、タコのスペイン風などに合います。
よく冷やして(9〜11℃)若々しく新鮮な味わいを楽しんで下さい。フレッシュで、さっぱりとして、キレのよい美味しさです。
アンジュー(Anjou)・ソミュール(Saumur)地区
ソミュールは「アンジューの真珠」と詠われる、フランスの典型的な地方都市です。白亜質の石灰岩土壌の土中に、ワインを熟成・貯蔵させるのに理想的な温度条件を持つ地下倉庫が縦横に張り巡らされており、一説には延べ約1,000qもあるとのことです。
白ワインは、遅摘みや貴腐菌の作用で出来る甘口のものや、しっかりした辛口まで様々なタイプが造られています。また、飲みやすく穏やかな酸味の薄甘口から軽快な辛口までのロゼワインを、果実味溢れる軽やかな赤ワインを造っています。アンジューのロゼワインは、『ロゼ・ダンジュー』が代名詞になっているほど人気があり、主に爽やかな酸味とやや甘い口当たりのチャーミングなワインです。
『ロゼ・ダンジュー』(Rose d’Anjou)
爽やかな酸味と自然の甘さがバランスよく調和した味わいです。フルーティーで喉の渇きをいやしてくれるような軽やかな口当たりです。きれいなサーモンピンク色が特徴です。
ほのかな甘口のロゼ・ダンジューに合うのは、少し塩辛い素材を使ったお料理で、甘味と塩味がお互いの旨味を引き出す相乗効果があります。ハムやツナなどを使ったお惣菜にピッタリです。
充分に冷やすと(8℃位)フルーティーな香りが際立ち、爽やかに味わえます。
トゥーレーヌ(Touraine)地区
ルネッサンス文化が花開き、ワイン以外にも野菜や果実、花々などが豊かに育つトゥーレーヌ地域は「フランスの庭園」 の中心地。
年間を通して温暖な気候に恵まれたこの地域一帯から『トゥーレーヌ』の名を冠するワインが産出されています。
白ワインは、辛口から甘口まで様々なタイプのものが造られ、いずれも若い内に飲めますが、良い作柄に恵まれた年には、熟成を経て素晴らしいワインとなるものがあります。
また、すみれ色がかったルビー色の上質な赤ワインは、若飲みタイプからコクのある熟成タイプまで造られています。
『トゥーレーヌ』(Touraine)
白ワインは辛口が多く、赤ワインはアッサンブラージュ(調合)した熟成タイプのワインができます。
白ワインも健康に良いと知っていましたか?とくに辛口の白ワインは殺菌効果を持っていて、カキや刺身、寿司などの生ものを食べる時に合わせて飲むと、その効果が発揮されます。
「トゥーレーヌ」のワインは冷やすと美味しさが生き返ります。辛口の白ワインは8〜12℃、半辛口の白ワインや軽快な赤ワインは10〜14℃が目安ですが、お好みや季節に合わせて加減してみてください。
シノン(Chinon)地区
温暖な気候に恵まれ、多くの詩人、作家が賛美した美しく実り豊かなロワール地方の中心部で、詩人ラブレーの故郷。この地区ではカベルネ・フラン種を使用した大変美しいワイン「シノン」が造られています。
日照に恵まれた土地で、デュフォー(粘土石灰質土壌)からなる斜面の畑からは肉づきの良いワインが出来ます。また、平地の畑からは繊細でフルーティーな若飲みタイプのワインができます。
『シノン』(Chinon)
シノンの赤はワインは、フランスでも名高く、スミレやカシスの香りと心地よいブーケをもつ優雅なワインです。若いうちに飲むこともできますが、超熟するとブーケが豊かに花開きます。美しいルビー色、スミレの香り、まろやかなタンニンをお楽しみください。
お料理と合わせるのなら、ウナギや蒲焼、焼き鳥などの照り焼きにするような料理が良く合います。軽いタイプにはサワラの西京焼、重いタイプならブリの照り焼、すき焼きなども合います。
飲み頃温度は14℃〜18℃が目安です。
サンセール(Sancerre)地区
まさにフランスの中央部にあたる中央フランス地域。古都ブルジェ市を囲むように丘陵地にぶどう畑が広がっています。ロワール河に面したサンセールの町周辺のぶどう産地からはソーヴィニヨン・ブラン種を使用した素晴らしい辛口白ワイン「サンセール」が生まれます。
この地域では同様に「メヌトー・サロン」、「カンシー」、「ルイィ」も生産されています。また、ピノ・ノワール種から赤ワインやロゼも造られています。
サンセール(Sancerre)
サンセールの白ワインは、生き生きとした爽やかさと豊かな果実香が特徴です。特に低木の草の香り、また時にはアカシア、ジャスミンの甘い香りを含んだ味わいが魅力です。ひと口含めば、爽やかで果実味豊かな味わいが広がる、親しみ易くて凛としたワインです。また、赤ワインやロゼも全体の軽快な味わいが特徴です。
お料理と合わせるなら魚介料理が最適です。鰯のハーブマリネ、鯛の刺身、鮎の塩焼き、生ガキやその他タコやイカ、ホタテなどに良く合います。
飲み頃温度は、やや冷たい8〜12℃が最適です。
ブルグイユ(Bourgueil)地区
「フランスの庭園」の中心地の西側にあたるブルグイユ地方では、カベルネ・フラン種を使用した素晴らしい赤ワイン「ブルグイユ」が造られています。
山間にあるこの土地は穏やかな気候風土で、土壌は石灰質です。年と共に花開いていく長熟タイプの非常に香り豊かなワインができます。
ブルグイユ(Bourgueil)
ブルグイユの赤ワインは、隣接するシノン地区の赤ワインと並ぶ最良のワインです。奇麗な紫紅色で、野バラの香り、やわらかな果実味が印象的。清涼な心地よさが余韻に残るワインです。
お料理と合わせるなら、さわやかなタイプの赤ワインですから、お肉ならしゃぶしゃぶ、お魚なら鰹のたたき、マグロのタルタル風などがお勧めです。
飲み頃温度は14〜18℃が目安です。
ヴーヴレイ(Vouvray)地区
ロワール河中流にあるトゥール市に隣接するブーブレイ地区からは、シュナン・ブラン種を使用した素晴らしい白ワイン「ブーブレイ」が生まれます。
また、ここはバルザックの作品の舞台にもなった名高き地です。
ぶどう畑は断崖に開かれた白亜質土壌の山腹に広がっています。ここはシュナン・ブラン種がその特質を最高に開花させるタイプの土壌です。
素晴らしく繊細な白ワイン、ヴーヴレイ。フルーティーで軽やかなフレッシュさが香ります。
ヴーヴレイ(Vouvray)
ブーブレイは年毎の気象条件の変化によって、仕上がりが異なってきます。恵まれた年にはぶどうは遅摘みされ半甘口となり、とくに素晴らしい年には甘口のワインとなります。天然の糖分が充分でない場合には辛口のワインとなります。
若いうちから繊細で心地よいワインであるブーブレイは熟成とともに熟した果実やハチミツなどの芳醇な香りをもってきます。
半甘口ワインは、残糖間のあるみりんや醤油、砂糖を使用する和風料理によく合います。煮魚、うなぎの蒲焼やあなごの焼き物などにぴったりです。
甘口タイプは10〜14℃、半甘口、辛口タイプは6〜10℃が美味しく飲める目安ですが、季節やお好みに合わせて加減してみてください。