福島県境越えのクロカンに挑戦


弥彦友の会 本田敏夫

10月19日 晴れ

西の風3m、昨日からの寒気が残る絶好の日和となった。
2台のランチャーを前に20機以上がセットアップに大忙しだ。中でも自身を含めて弥彦のリジッド全5機が顔をそろえたのも初めてのことだ。

正面を見回せば樹木はざわざわ揺れだし、上空にサーマル雲も出てきた。前山から寺泊方面に伸びる海岸線はややぼーっと霞立ち緩やかに細い白波をたてている。時間は11時になりようやく動きがでてきた。トップにはこのごろ新進気鋭の大塚くんがテークオフ。最初は渋くてどうかなと思ったが西生寺あたりで持ち直してきて、それを見て私も続いた。時間は11時10分。このハング界の大先輩Y氏に「いっぱい飛んでね。70キロは飛ばないでね」とにこにこ顔で念を押されてのテークオフだった。

出てまもなく南の通称「白井山」の手前コーナーから一気に上昇風にのり上げてゆく。弥彦山頂を難なくクリア、どんどん高度をかせぎ1000mラインを上下する快適なソアリングができる。北の多宝山に2度往復するなどクロカンに出るタイミングを見るが、沈下が大きく我慢すること1時間。しだいにサーマルが発達し、北の尾根筋や南の吹き抜けのポイントでは高度1200m位となる。南の吹き抜けで西風にのりながらついに1350m以上を獲得。雲底に着くことで迷うことはもう何もなかった。12時50分、東にルートをとりクロカンの旅にでる。

雲、雲と見据えながらも気持ちは冷静にと自分に言い聞かせた。眼下に広がる越後平野は刈りいれもほぼ終了し、モザイク状の田圃の中に大小の集落、縦横に走る道路が目に映った。携帯していた無線機は弥彦山頂でのソアリング中にマイクをつかんだ際に、接続端子までひっぱり外れてしまいアップライトに括り付けていた。

高度は800mまでにも落ちて、まだもって落ちっぱなしなのでどうなるかと思ったが、高速道を横切って中ノ口川に近くなってようやく弱いながらもサーマルを拾うことができる。一時は500m位にまで落とされていた。850mまで回復するが、大きく蛇行する信濃川から田上方面にルートをとる。今度は400mにまで落とされ、前方に田上町役場が見えてきた。

加茂川の分水嶺上空を横切り、またしても田上までかとがっかりしていた頃だった。どーんと大きいサーマルに行き当たった。わずか3分ほどに1400mに達し雲底につけた。いろいろ目に映るが躊躇はしていられない。大沢峠を越えて菅名岳を目指す。大沢峠を通過。村松に入った頃には900mを切っていた。いいサーマルはまったくなく穏やかで無風状態だ。田上でのさっきの1400mまで獲得したことが嘘のように静かな感じがした。

村松を通過すると菅名山塊は意外と早かった。サーマルに行き当たらず、大蔵山頂(864m)と同高度で手前の西斜面を横切った。紅葉の菅名岳をゆっくり見る間もなく丸山尾根を通過し、馬下方面に逃げるしかなかった。高度は800mを切り西風が出てきた。安田風と呼ばれるこの地域特有の風だ。高圧線を通過し、菅名岳のビッグサーマルをつかむことができず、ルートを阿賀野川を横切り五頭連峰方面に気持ちを切り替えた直後だった。バリオが突然ピ、ピ、ピピとなり始めた。無意識にも「来た、来た、来た、来た」とつい声を張り上げた。

西風にのってゆっくり移動しながら一気に1350mに達した。ついさっきまで気がつかなかったが、発達した雲のつながりが阿賀野川上流に沿って繋がっていた。前方には三川スキー場のゲレンデが見渡せ、津川の山並みがすぐそこにあった。発達した雲に吸い込まれるのが怖くてベースバーをやや引いた。さっきの五頭行きはもうなく、チャンス到来とばかり川上に沿って走った。

車では通い慣れた49号線は、上空からは小さくて細くて、蛇行した様子がよく観察できた。対地速度は60km/h前後を指していた。五十島、白崎を通過。津川町の上空で高度850m。左の北方向に棒掛山(1025m)がどっしりとあり、飯豊の連山は顔を見せなかった。雲は途切れてきて風も弱くなった。津川でいいサーマルがほしかったがかなわず、そのまま49号線に沿って東進した。福取トンネル上空を通過、鳥井峠もクリア。この時福島県に入ったことを確信した。

前方には思いもよらず磐梯山(1819m)が顔をのぞかせていた。周りは山、山。もうひとつ車峠の山越えは断念せざるをえなかった。ランディング場所をさがしながらのフライトはプレッシャーも少しあったが、しまいに高度を700m、600mと落としてしまった。下に見る集落の田んぼに的をしぼった。49号線の脇とした。いったんその先のトンネル入り口付近まで行き、戻ってからファイナルに入ることにした。山間は気流がかなり荒れていて機体もふられた。風がどちらから吹いているのかわからなかった。考えている間もなく高度は落ちてきた。

思い切ってイメージどおりに左ターンで弧を描いてランディングに入った。その時にフォローをかかえたことに気づいたがもうそのまま突っ込むしかなかった。フォローで入ったぶん少し風下に流されてしまう。直線に入りフラップを最大に引きこむが失速ぎみになり、また田んぼの目標としたターゲットに強引に降ろそうとしたことで左翼がさがった。バランスをとり体重移動をした。思ったように回復できないまま、7mほどの桐の木の樹上にベースバーが当たり、なぎ折っていた。「なぎ折っていた」と記したのは一瞬目を閉じてわからなかった。目を開けたときには田んぼに着地する寸前でちゃんと両足で降り立った。桐の木にぶつけたことで右アップライトを真っ二つに折ったが、ランディング進入時のように折れたアップライトをしっかり握っており、ノーズを下にした形で機体をやんわり着地することができた。

そのまま機体をわきの農道に少し移動する。時間は14時20分を過ぎていた。回収のことが先決と思った。ケイタイは持っていたが山間では圏外と思い対岸の民家に急いだ。2分と歩かない橋の上で荷車を引いた耕運機の人に出会う。そこでケイタイが通じることが分かった。ここの地名を聞くとともに自分の状況も相手に伝えた。地元集落の「佐藤峰男さん」と言った。すぐさま弥彦のメンバーI氏に連絡。あいにく自宅に帰っていて今出ることができなかった。池田氏に連絡し了解を得た。

暗くなり始めた5時20分になり池田氏が到着。津川インターから高速道にのる。黒崎パーキングでうどんを食べる。巻 潟東インターで下車。野積のショップに8時に帰還。すっかり宴席は出来上がっていたようだが、遅くまで私を待っていてくれて有難かった。

主なフライト記録

※ランディング地点
 福島県西会津町宝坂字白坂

※直線飛行距離(GPS計測)
 70km

※総飛行距離(GPS計測)
 163km

※最高獲得高度
 1400m(海抜)

※総飛行時間
 3時間10分

2003,11,10 記

●飛行軌跡画像 (ファイルサイズ570キロバイト)

●カシミール用トラックデータ (高度データはありません。また弥彦周辺のデータが切れています。)