スクール生のためのコントロール・前後編

 ここでは前後の操作、つまりピッチコントロールについて、そしてテイクオフ時の操作について説明します。

 ピッチコントロール(迎え角、ノーズの上向き角度のコントロール)は、簡単に言えば飛行速度のコントロールになります。ノーズを下げると飛行速度は速くなり、ノーズを上げると遅くなります。自動車のアクセルペダルのようなものです。ただしノーズを上げればいくらでもゆっくり飛べるかというと、そうは行きません。ある程度ノーズを上げると揚力を急激に失う「失速」と言われる現象が起きますから、ゆっくり飛ぶにも限界があります。

 失速は飛行機全般に起こる現象で、迎角を上げすぎて失速すると飛行機は急激に落下し危険ですからノーズは上げ過ぎないようにしないといけません。では実際にノーズをどのくらいの角度にしていれば良いのか。その基準となるのがいわゆる「ニュートラル」です。ニュートラルの角度はアップライトから手を離せば機体がパイロットに教えてくれます。

 適度な向かい風を受けると、機体は浮き上がってきます。そこでアップライトからゆっくり手の力を抜くと、機体は自ら一定の迎角を保ち、左右に傾かなければバーから完全に手を離してもパイロットの頭上で浮いた状態で安定します。それがピッチのニュートラル角度です。ニュートラルは空中を飛んでいる時も同様で機体が自ら一定の迎角を保ち、それに応じた一定速度を保とうとしますので、安定した気流の中なら完全に手離しのまま飛ぶこともできます。

 適切に調整された機体は、ニュートラル状態で失速にならない程度の安全な低速を保つようになっています。その位置よりコントロールバーを前に押し出せば減速して失速し、後方に引き込めば増速して自由に速度調整ができる、失速域と安定域の境目に近い速度を機体は自然に保とうとするわけです。ですのでニュートラルの位置を感じ取れれば、そこを基準にしてピッチ操作をすることでいつも失速せずに安全で的確なスピードコントロールをしながら飛ぶことができるのです。これは、高高度飛行をするようになっても、上級機になっても変わらない大事な基本です。

 アップライトから手を離せばニュートラルの位置がわかる。単純な事なのですが、しかしそれが練習生にとっては難しい。実際のコントロールでは前後だけでなく常に左右の傾きも修正しないといけないからです。練習場で手を離せるのは機体が左右水平で直進している時だけですから、早く左右のコントロールの要領をつかんで、少しでも多く直進する時間を作り、アップライトから力を抜ける時間を作れるように練習してください。力を抜くことさえできれば、ニュートラルの把握は簡単です。



 では、左右は安定させられるものとして、テイクオフ時の加速の仕方です。上に書いたように機体は有る程度の速度になると自ら安定しますが、その速度に達するまではパイロットが機体の迎角を適当に保持しながら加速してやらなければいけません。アップライトを持って機体を押せば自然にノーズが上がろうとしますから、それを抑えながら走り出します。アップライトを肘の内側あたりの上腕で押して加速し、手先はノーズが上がらないようにアップライト下部を後方に抑え込んでいないといけません。この力のかけ方を忘れないでください。機体全体の加速は上腕の役目、手先はノーズが上がらないように抑えること。これを忘れて上腕をアップライトから離して手先で押したら確実にノーズが上を向いて失敗します。

 上腕でアップライトを押して加速し、機体が浮いてきてスイングラインを通して身体が吊り上げられるのを感じたら、ここで上腕をアップライトから離して肘を下げ、滑らかに手を持ち替えます。この状態ではパイロットを浮かせる力は無くとも機体だけはすでに大気の中を滑空していますから上腕を離しても安定しています。そしてここから機体を加速するのは、身体全体でスイングラインを引っ張って加速します。手先で押すのではありません。手はさらに速度を出すために軽くアップライトを引くことはあっても、前に押してはいけません。このことを忘れないでください。

 まとめてもう一度言います。

○テイクオフの過程において手先でアップライトを前に押すという動作は有りません。
○機体が十分に浮かずスイングラインが張らないうちは上腕で押して加速です。手先ではありません。
○機体が浮いてスイングラインが張ったらスイングラインで引っ張って加速です。手先ではありません。

 そしてもうひとつ大事なこと。走り出しの上腕で押す体勢から、スイングラインで引っ張る体勢へ、機体の姿勢を変化させないように滑らかに移行することです。この移行時の動作が粗雑なために迎角が急に変化したり、左右に傾いたりしてうまく浮けないという場面を多く見かけます。滑らかな移行のためには、最初の上腕で押す段階のときに機体の浮きに合わせて肘を徐々に上に上げていき、つまり機体を上方向に平行移動させていき、スイングラインがしっかりと張って身体が吊り上げられる状態に意図的に持っていくのです。それから上腕をアップライトから離して肘を下げ、スイングラインで引っ張る体勢に移るようにします。

 これらを守ればテイクオフは大抵うまくいくでしょう。スイングラインで引っ張る体勢になったら、あとは身体が浮くまでどんどん走って加速するだけです。

 ここまでテイクオフの説明でニュートラルという言葉を出しませんでしたが、テイクオフでもやはりニュートラルは重要です。理想的には走り出してスイングラインが張って手を持ち替える時までに、すでにニュートラル位置を感じ取れているべきです。その時にニュートラルになっていれば、持ち替えはアップライトに余計な力を全く加えずスムーズに出来るでしょう。気流が安定しているなら離陸するまでずっとニュートラルを保っていてもかまいません。つまり持ち替えたあとはアップライトから手を離してスイングラインを引っ張る事だけで機体を加速して離陸することもできるということです。風によっては意識的に少し速度を増した状態で離陸したいこともありますが、その場合でも基準となるニュートラル位置がわからなければ、自分がどれだけアップライトを引いているのかわかりません。走りながら自分は今アップライトを押しているのか引いているのか、それを感じ取れないと本当に安定したテイクオフはできないのです。

 実際には左右の修正もあるため、いきなりニュートラルを感じ取れと言ってもなかなか出来ないかもしれません。まずは走り出す前に決めた迎角をきっちり保ちながら走ることを目指しましょう。それができればとりあえずは飛べます。

 そして冒頭にピッチコントロールは飛行速度のコントロールだと言いましたが、さらに言えば急なノーズの上げ下げは機体の一時的な上昇下降になりますし、飛行速度を変えると滑空角度も変わります。それらの機体の挙動を経験し利用して、風に応じ状況に応じた適切なコントロールができるように練習していきましょう。



2014/06 改

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