サーマルで上がりたい

 サーマルで上げるためには高度ロスの少ない定常旋回が出来ることが必須事項です。定常旋回とは、バンク角と速さを一定に保ったままいつまでも続けられる旋回のこと、つまりコーディネーテッドターンです。

 ここで言う高度ロスの少ない旋回とはバンク角の浅い旋回という意味ではありません。それでは直径30メートルのサーマルは永遠に使えません。バンク角は必要な時は必要です。練習するべきなのは、あらゆるバンク角において常に最小沈下速度、つまりニュートラル近辺あるいはそれより前方のピッチを保って定常旋回ができるようにする事です。

 それにはどんなバンク角で旋回中でもニュートラル位置が分かるように、余計な力を可能な限り抜いて飛べるようになる必要があります。機体の特性によりバンクを一定に保つために常にロール方向の体重移動が必要なことがありますが、それをキープしつつも、ピッチ方向はニュートラルを感じ取ってそれを保てるようにします。そこが旋回のちょっと難しい所ですが、それさえ飲み込めれば常にその機体の最高の性能で飛べることになります。

 定常旋回がそんなに重要なのかと思われるかもしれませんが、直線飛行ではフラつかず一定速度でまっすぐ飛ぶのが当たり前なのと同じように、旋回においてはフラつかず一定の速さでキレイならせんを描く定常旋回が当たり前なのです。これが出来ないのはまっすぐ飛べないのと同じことで高度をロスする効率の悪い飛びになるばかりでなく、飛んでいるうちにあらぬ方向へずれてせっかく入ったサーマルをはずすことにもなりますし、また本当のサーマルとスティックサーマルの区別がつかなくなってしまいます。スティックサーマルとは不適切なピッチコントロールで自分から上下動をしてしまい、それをサーマルと勘違いしてしまう状態のことです。(スティックとはセールプレーンの操縦桿のことです。)

 それに安定した定常旋回ができないと、いざという時に山の中で自信を持って回せません。自分がどれだけのスペースがあれば旋回できるかは練習の中で把握していくものであり、常に最悪の場合の逃げ道も考えたスペースを確保してから旋回を開始するべきですが、いつもフラフラして軌道も決まらない、いつ失速するかも知れないような旋回をしていたら、とても山の中で回せるものではありません。結果的にほとんどのチャンスを逃す事になります。そのような事にならないためにも、しっかりとした定常旋回にすぐに入れることはとても大事な事です。

 バンク角度は45度くらいまで出来れば実際にはきっと充分でしょう。センタリング中にはそれ以上の角度でターンする事もありますが、それはほとんどの場合一時的であり、定常旋回としてはバンクが深過ぎるとあまりメリットがありません。基本的にバンク30度くらいの旋回がしっかりできると、実用的には良いように感じます。まずはこの30度バンクでニュートラルをキープした定常旋回を、そしてそこからどのようにバンクを変えてもすぐに安定した旋回に入れるように練習しましょう。また直線飛行から旋回へ、旋回から直線飛行へ、無駄なく迅速に移行できるようにも練習しましょう。

 きれいな定常旋回は目印のない空間で正確にセンタリングする際の大事な基準です。基準となる定常旋回がしっかりと安定してきたら、次はセンタリングの練習です。センタリングとは旋回の円の中心位置をずらしてサーマルに合わせていくこと。形が分からないサーマルに乗り続けるためには、センタリングで常により良いリフトの場所を探しながら飛ばなければいけません。

 基本として旋回中心を自分で決めた一定方向に移動していく、リズムを持った連続旋回を練習しましょう。軌跡は斜めにつぶしたコイルバネのようなイメージです。中心をずらすにはバンクを周期的に変化させる事と、ピッチを変化させる事、基本的にその二つをミックスしてコントロールすることになりますが、傾向としてはバンク角の深い旋回ほどピッチ操作が主体になります。どういうタイミングで操作すれば自分の思った方向に中心を移動できるかをなるべく正確に覚えましょう。

 どの程度センターが移動しているかを正確に知るのは難しいですが、もともとはっきりした形の見えないサーマルを相手にするものですから、結果的に上昇率が良くなればそれで良いので、その場で移動量をうまく合わせることが先決です。様々な風の条件下で練習を繰り返すうちに自分なりのイメージもできてくるでしょう。

 サーマルに合わせるにはベストヘディング、ワーストヘディング、サージといった基本的なパターンがありますが、このへんは雑誌等にもいろいろ書いてありますから自分で情報収集し、実践して覚えてください。旋回の練習は多くの要素を含んでおり、練習にはそれなりの時間が必要です。安定したリッジコンディションの時などは基本を確認する絶好のチャンスです。サーマルで上がりたかったら、のほほんと浮いていないで目的を明確に持って練習に励みましょう。



 さて、定常旋回もセンタリングも出来る、山の中でも大丈夫ならば、あとは実践あるのみです。

 ・3秒迷ったら、乗れるはずのサーマルも逃してしまいます。積極的に回してみるクセをつけましょう。

 ・サーマルは3秒待ってから回せとよく言われます。実際かなり良いタイミングだと思いますが、3秒たってから体重移動を始めたら旋回はその数秒後になってしまいます。準備は早くしておきましょう。準備を早くするためにはバリオに頼らず自分の感覚を大事にすること。バリオは自分の感覚をあとから判定してくれる計器です。

 ・上がりたい気持ちが先走ってサーマルに入った時にリフトに合わせてノーズを上げてしまうと、失速に近くなってロールが効かず旋回できないままサーマルを通り過ぎてしまうことになります。サーマルの縁で片翼を上げられた時も同じです。リフトを感じたら上がりたい気持ちをおさえて、まず速度を保ってバンクをかける事を最優先に考えましょう。

 ・サーマルを探しながら失速寸前の速度で飛ぶのも良くありません。前項と同じで、結局サーマルに遭遇した時に外にはじかれてしまいます。サーマルの中心と思える方向へすぐにバンクをかけられる事が大事です。

 ・大きさの分からないサーマルに対してバンク角をどのように決めるかですが、簡単で確率の高い方法は、リフトの強さとバンク角度を比例させることです。感じるリフトが強ければ強いほどバンクを深くして入り込んで一周回ってみます。リフトのある場所から離れない事を優先に考えて、高度を失わない程度でなるべく小さく回ってみるということです。それで上がれそうだと判断したら、徐々にバンクを緩めてより上昇率の高い旋回にしていけば良いのです。そして回りながら、次にどちらへセンタリングしていけば良いか判断できるように、常にリフトの分布を感じ取りながら飛ぶようにします。これも計器よりも先に自分の身体で感じて判断するべきです。

 ・センタリングしている他の機体を地上からじっと観察する事はとても参考になります。自分に同程度の技術があれば、他の人がどんな操作をしているかが見えてくるでしょう。そこでその操作から機体が実際にはどういう動きをするのかを客観的に観察していれば、自分の飛びをイメージするのに大いに役立つはずです。



 うまくサーマルにからめるようになれば飛行時間は延び、加速的に経験を積めるようになりますから、ここがハングを楽しめるようになるかどうかの一つの分かれ目とも言えます。そして操縦技術としてはソアリング出来るようになっても、神の目を持たない我々が的確にサーマルを探り当ててより良いフライトをするためには、鋭い感覚、集中力、知識、観察力、想像力、勘、時に度胸、時に慎重さ、さまざまな要素がからんで終わりが無い。だからこそハングは面白いです。でも楽しむためには地道な努力も必要です。まずは練習、練習。

2006/09

戻る