旋回時の沈下率



 上図はあるハングメーカーが公表したポーラーカーブで、赤が初級機、黒が上級機です。それなりに性能の差が見られます。単に飛行距離を伸ばしたいなら、滑空比の良い黒がずっと有利でしょう。では高度を上げたい場合はどうでしょう。やはり黒の性能は絶対でしょうか。

 ポーラーカーブからも分かるように、直進中は失速直前まで速度を落とした状態で沈下が最も少なく、それは旋回中でも言えるのですが、さらに旋回ではバンク角によっても沈下が大きくなります。それは誰もが感じていますから、少しでも沈下を抑えるためになるべくバンクを浅くして、フラットに回ろうとします。しかしそのために旋回半径が大きくなったり気流に弾かれたりしてサーマルに入りきれず、結局上がれないという場面も多く見られます。

最小沈下率
(m/s)
その時の対気速度
(m/s)
最良滑空比
赤(初級機)-1.199
黒(上級機)-0.81114
 グラフから読み取った右の数値を基に、旋回中にバンク角によって沈下がどの程度になるかを、自分で考えた理屈で計算してみました。実際にはさらに沈下を大きくする要素があると思いますが、とりあえず、「荷重が大きくなると最良滑空比の線に沿ってポーラーカーブがスライドする」というウソくさい話を信じて計算した結果です。




 それぞれの機体で考えれば、30度くらいのバンクでも沈下はまだそれほど大きくならないと言えます。約2割増し程度です。ですからフラットな旋回を気にしてリフトを外すくらいなら、少しくらい効率が悪くなっても自分が狙ったコースへ進めるようにしっかりとバンクをかけてサーマルにしがみ付いた方が上がれる可能性は大きいと思います。

 しかし赤と黒を比べてみると、旋回時でもやはり性能の差が現れており、基本的な最小沈下率の良い機体が常に有利で、バンクが深くなるほどその差も大きくなるように見えます。

 でも、初級機の方が有利な要素がひとつあります。それは低速性能です。いかに速度を落として飛べるか、これは大きなアドバンテージになり得ます。

 たとえばサーマルが小さくて半径20m以下で旋回したい時、黒は40度近くまで傾けないと飛んでいられません。しかし低速が効く赤は、バンク角25度以下で旋回できるのです。



 浅いバンクで飛べるなら沈下は抑えられます。すると絶対的と思えた沈下率の差がだんだん縮まってきます。そしてついに初級機が上級機に勝つ条件が見えてきます。



 半径17m以下の旋回では赤が黒を上回ってしまうのです。その時の沈下率はなんとたったの1.4m/s 程度。充分現実的に逆転しうる数値でしょう。低速をちゃんとコントロールできれば、ファルコンが並み居るキングポストレスに勝つこともあるということです。

 円運動の回転半径は、基本的に速度の二乗に比例して大きくなります。それは逆に言えば、速度を半分にすれば、回転半径は4分の1になるのです。グライダーの旋回時の半径は事情がもう少し複雑ですが、低速性能が大きく影響するのは確かです。大きなサーマルでも、リフトの強いコア部分があるものです。そこに効率良く絡むにはやはり低速で小さく旋回できれば有利です。センタリングにおいて最良滑空比はあまり意味がありません。しかし速度の差は、たった 9m/s と 11m/s の違いでこれだけの逆転が起こり得るのです。上がりたかったら、低速域でも機体をしっかりコントロールできるようにしましょう。

 ただしあくまでグラフから読み取った数値だけを基にしていますから、その点はご承知ください。実際にはきっと翼左右の速度差や横滑りによる効率の悪化のような要素が有って、初級機ほどその損失が大きいのでしょう。それでもこの下剋上は充分に有りうると思います。バンクはかける時はかけて、しかしできる限り速度を落として飛べれば一番いいということです。まあ簡単ではないですけどね、ギリギリの低速で機体を自由にコントロールするのは。

 ・・・・やってみる?


2006/11

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