守護霊は いる (不幸中のチョー幸い)


それは真西のとても良いリッジコンディションの日。
3名中の最後にテイクオフした樋口さんは、飛び出した途端に左肩の異状を感じた。
力が入らずバーを引けない。

実はテイクオフ直前にランチャーの上で風のためにひっくり返りそうになり、周囲にいたギャラリーに手助けしてもらったそうだ。どうやらその時、肩にかなり無理な力がかかったらしい。

危険を感じた樋口さんは腕を肘ごとベースバーにかけて降ろしにかかる。幸い風は荒れておらず、わりと安定して飛行できた。しかし腕に力が戻る気配はなく、一時的なものではないようだ。一刻も早く降りなければならない。力が入らないので、ターンもなるべく避けたい。リフトバンドをはずれて、とりあえずまっすぐ南下し、適当なポイントで折り返してランディングを目指すことにする。

高度は確かに下がった。だがこの日の風は見事な真西。予想外に吹き抜けが強く最後の距離が伸ばせない。メインランディングには届きそうもないが、それでも少しでもメインに近い場所を目指し、樋口さんは田んぼをたどりながら北上する。そしていよいよ地面が近づいた。風に正対し、アプローチコースに入る。安定した風の中でゆっくりと降下し、あと6〜7メートルというその時だった。

風が死んだ。あまりに突然だった。(BGM 地上の星)

アプローチコースの前方50メートルには、「暮 し を 守 る 松 の 森」。

防砂林があった。ウインドシャドウだった。

失速。最悪の高度だった。

グライダーは真下を向いて加速的に落下し、どうやってもかわせない。

「まずい!」 樋口は思った。「大ケガか、それともヘタをすれば・・」

なすすべなく機体は落ちた。

その瞬間を真上から見ていた男がいた。五十嵐だった。

五十嵐の目には、不思議な光景が映っていた。

「・・・うしろの百太郎が・・・」 ウソ



機体は真下を向いて地面に激突した。500m以上の上空から見ていても分かるほど瞬間両翼が激しくしなり、ただ事ではない衝撃だった。あの勢いで地面に叩きつけられたら・・・・・。しかし樋口さんの身体の真下には、なんと幸いにも幅2メートルほどの用水路があったのだ。機体は用水路の両土手の部分で止まり、身体は用水路の真ん中めがけて落ちたため、どこにもぶつからなかった。ワイヤーにでもこすったのか、額に擦り傷ができたが、本当にそれだけで済んでしまったのである。

衝突の瞬間のかわし方も、きっと上手かったのだろう。それにしてもなんという運の良さ。聞けば樋口さんの息子さんも、昔バイクの事故で宙に投げ出されて川を一本飛び越えたそうだが、落ちたところが草地で、まるで無傷だったという。守護霊は絶対いると思った。樋口さんの家族には、かなり強力な守護霊がついているにちがいない。

機体はリーディングエッジとベースバーを破損。ベースバーは身体がぶつかって折れ、その分衝撃を吸収してくれたのだろう。あとは土手に直接ぶつかった部分だけ。真正面の衝撃には機体って意外と強いかもしれない。いや、これも守護霊か?

しかし守護霊に関心ばかりもしていられない。今回は自分の知識不足を痛感しました。もちろんウインドシャドウに進入した本人も気付かなかったわけですが、それを上空からのほほんと見物していた自分が悲しかったです。
大した高さに見えない防砂林でも、風が強ければかなり後方まで影響するのですね。教訓になりました。

多くの人の体験談を聞くのは大切です。皆さんも安全のために情報交換はできるだけ行いましょう。人の話をちゃんと聞いて理解しようとする姿勢が大切だと思います。フライト後、酔っ払いのろれつの回らない話しの中に、自分を救う、そして他の人をも救える一言がまぎれているかもしれません。

その後、樋口さんは肩の痛みにだいぶ悩まされたようでしたが、8月に復活できました。 めでたし めでたし。

レポート 五十嵐