私が体験した「ヒヤリ・ハット」事例です。 以前から、どのような形でやっていくのが良いかしばらく思案していました。 しかし、先ずは始めてみようと思いここへ投稿しておくことにしました。 今後も思い出したものを追加していきたいと思います。 どのようなものであるかは「ヒヤリ・ハット」で検索すればよく解ります。 「ハインリッヒの法則」でも良いです。 以下、一部抜粋 “重大な災害や事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例。文字通り、突発的な事象やミスにヒヤリとしたり、ハッとしたりするもの。重大な事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいた、とされる。 ヒヤリ・ハットは結果として事故に至らなかったものであるので、直接の関係者は「ああよかった」と直ぐに忘れがちである。そこで、職場や作業現場などでは、敢えて各個人が経験したヒヤリ・ハットの情報を公開させ、蓄積、共有することで、重大な労働災害の発生を未然に防止する活動が行われる。” 一部抜粋ここまで。 「ヒヤリ」としたこと「ハッ」としたことの事例を他の人にも知ってもらい、それらに起因する事故を未然防止することが目的です。 事例を沢山知っておくことで、自分が遭遇する色々な状況から似たような危険要素を察知し、危険を回避してほしいと思うのです。 実際に自身で経験してしまうのは大変怖いことです。そして、状況がちょっと違ったら大事故になる可能性があります。 特に、経験の少ない初級者にはこのような事例を沢山伝えておきたいと思っています。 そしてこれは、私自身の安全管理意識再確認のためのものでもあります。 楽しく飛ぶこと、リッジでも、サーマルでも、高度を獲得して楽しく飛ぶための技術を高めるのは誰でも求めることだと思います。 そして、そのための情報交換は自然に行われていることだと思います。 しかし、安全管理に関する情報交換はあまりなされていないように思います。 安全でなければ楽しくありません。安全でなくなったら、飛ぶための技術は意味がなくなります。 私以外の「ヒヤリ・ハット」も沢山公開してもらい同じように掲載し、色々な状況での様々な危険要素に関する情報を皆で共有することにより、安全で楽しいフライトができるようにと願っています。 そしてそれが、色々な経験を積んできているパイロットとしての務めでもあり、役割のひとつでもあると思います。 1.リッジの強風にはまった。 高高度を飛び始めてから1年後程度だったと思う。その日は絶好のリッジコンディション。 必ずトップアウトできると信じて早々にTOした。 そして、その日のフライヤーの中では一番最初にトップアウトした。(と思う。今から20年以上も前のことなので正確な記憶ではない) 山を上から見下ろし、良い気分で一本目を飛んだ。 非常に寒く腹がすいたので、一旦降りて腹ごしらえをした。 野積館(今の大幸。その頃は海側にも出入り口があり、食堂も営業していた)で昼食を済ませ、リフライトに上がった。 2本目も必ずトップアウトできると信じてTOした。 信じた通り、楽にどんどん高度を上げていく。北のボールから尾根の辺りだった。 しかし、何となく変な様子に気づいた。風が強過ぎて風上側、ランディングへ向けて進めないのではないか? そこで、風に正対してみた。ベースバーの一箇所に定点を決め、地上の位置と見比べることで地面に対して前進しているかどうかを見た。 後退していた。確実に山に近づいていた。焦った。しかし、慌ててはいけない。パニックになっては危険回避行動ができない。 風に正対した状態でベースバーを強く引き込み、対気速度を上げた。 あまり強く引きすぎるとヨーイングが発生してしまいコントロールできなくなる。 ギリギリのところまで引き込み、再度対地位置の関係を見てみた。僅かづつではあるが、海の方へ前進していた。 その位置で腕に力を込め続け、耐えた。その時の機体は「カプリ」。バープレッシャーは重かったようだ。 かなり強く引き込み速度を出しているのに、バリオは鳴り続け高度は上昇を続けていたようだ。 腕力をかなり強く使っていたので、時間が長くなると腕が痺れてきた。 そして、ちょっと気を抜くと後退してしまい、折角前進してきた距離が無駄になってしまう。 体が持たなくなってはコントロールできなくなる。 時々少しのロスの中で腕を緩め、血液の循環を良くしながら痺れをほぐして飛行を続けた。 かなりの長時間同じ体勢を続け、何とか海岸上空まで辿り着いた時、やっと強い緊張から開放された。 その後は高度処理をして安全に降りたと思うのだが、そこまでは記憶に無い。 2.LDへ辿り着けない 私がHGを始めてから最初の大会だった。私は新人として参加し、新人賞も設けられていた。 その日のコンディションは俗に言う「ぶっ飛び」だったと思う。 競技方法は、数箇所の決められた位置にカラー単色の大きなシートを広げておき、その色を見てくるというもの。 見てきた位置の距離によって得点が違う。 ウエスト・ウインド1期生の一人は既に飛び終えていた。一つ目の目標物を確認してランディングへ向かったように見えた。 コンディションがはっきりしない中、私もTOして一つ目の目標の位置へ向かった。 一つ目の目標物を確認できたので、LDの方向を見てみた。 まだ十分高度がある。次の目標物を見れるかもしれないと思い、2番目の位置へ向かった。 2番目の目標物が近付くにつれて、高度ロスが大きくなる。LDへ辿り着けるか時々LDの方を見ては確認していた。 途中で、2番目の目標物を確認する前にもう危ないと思い、進路を変えてLDへ向かった。 高度ロスが早く、地面がどんどん近付いてきた。LDまでは辿り着けないと判断し、降りる位置を選定した。 既に海岸沿いへは来ていたので、ある程度の広い平地があればよかった。位置は決めたが風向に配慮する余裕は無かった。 風の強さは極弱かったが、フォローではあったような気がする。降りた場所は固い土の地面だった。 立ち上がろうとした中途半端な状態で、ボディーランのような形になった。 膝を曲げて地面にこすったため、膝はひどく擦り剥けて血だらけ。ズボンの膝はボロボロになった。 ベースバーに手を置いた状態だったため、手のひらの一部も擦り剥いた。 その頃の初級者が使っていたハーネスは「ニーハンガー」と呼ばれるものだった。 素材は今のものと似たようなものでできていた。今一般的に使われているものに比べて簡素なつくりだった。 胸から股下を覆うもので体を支え、膝下に足を支えるものを巻きつける。 各部をロープで吊り、カラビナに連結される。従って、体の露出部分が多かった。 3.空中接触 初期の「スポーツ」に乗っていた頃のこと。 リッジ-コンディションに近かったような気がするのだが、よく覚えていない。 そのとき私はなかなか高度を獲得できないまま、北の前山の海側で南を向いて飛んでいた。 リッジ風を受けて高度を稼ごうとしていたため、割と山肌に近かった。 その時、対向してこちらへ向かって飛んでくる機体が見えた。 そのまま進むと私の右側を通過していくように見えた。 ルールでは次のようになっている。 「同高度で向い合い回避が必要な場合、お互いが右によけてすれ違う。 但し、山肌ですれ違う場合は山を左に見る機体が右によけて進路を譲る。」 今回の場合、進路が重なっていれば私が進路を右に変える必要がある。 しかし、そのときの状況では対向してくる機体が私の右側を進行していくように見えた。 また、相手の方が少し高い高度に見えた。 私が進路を右に変えた場合、対向してくる機体の前方を横切っていく形になり、かえって邪魔になり危険も高まると考えた。 それで、そのまま進行し、対向する機体が私の右上側を通過するのを待とうとした。 ところが、その機体がだんだんと私の方へ近付いてくる。高度も同程度になってきた。 今から進路を右に変えても間に合わない。左には山肌がある。引き込んで高度を下げても山肌が迫る。 対応策が見つからないままどんどん近付いた。 極接近したところで危険と判断し、コントロールバーを思い切り引き込んだ。 相手の機体とすれ違った時、接触の衝撃を感じた。 その後、相手の機体は正常に飛んでいくように見えた。 自分の機体を見回すと、キングポストが倒れているような影とランディングワイヤー、ラフラインが風になびいているのが見えた。 私は機体に衝撃を与えないよう穏やかな操作をしてランディングへ向かい安全に着地した。 私の機体は、ランディングワイヤが断線してキングポストが倒れていた。 相手の機体はその後もしばらく飛んでいたようだ。降りてきてから確認したところ、相手側は接触するまで私に気づかなかったという。 そして機体の損傷は無かったようだ。コントロールバーの右下角が接触したらしい。 4.大会でポイント獲得のため、強いリッジ風の中、雨乞山のポイント撮影 1998年11月15日、弥彦スカイグランプリ、荒鷲カップ。 このときの競技方法はアウトアンドリターン。 地上の幾つかの地点を設定し、上空からカメラにより決められた方法で撮影してくるというもの。 モノクロフィルムを使用し、現像は競技者がそれぞれ行い、写真にするための焼付けはしない。 スライド‐プロジェクターのような装置でフィルムに写っている位置を確認し、ポイントをつけていく。 今迄の大会の中で、この日は最も面白かったと感じている。 この日は強めのリッジコンディション、西風だった。 多くの選手が高得点を獲得できる飛びをしているように見えた。 私も決められている地点をなるべく効率よく撮影していった。 その頃は、決められている地点の中に「雨乞山」というのがあった。割と、はまりやすいという地点でもあった。 現在では、はまりやすくて危険であるということから、競技ポイントから除外されている。 当日のような強い西風の場合、はまってしまうと海岸の方へ出てこれなくなる可能性がある。 それでも私は得点を稼ぐことを考えた。しかし、もちろん安全を確保することが大前提である。 適切と思える高度を獲得してから雨乞山へ進路を向けた。 しかし、西風が強いため機体のノーズは殆ど真西を向いている。偏流をとりながら目的地へ近付く。 LDへ戻ることできるかを確認するため、1.で紹介した方法を頻繁に試行し、十分な対地速度で海側へ進むことができることを確認しながら進行した。結構長時間かかったように記憶している。 撮影した後はヨーイングを抑えられるギリギリまで加速し、先ず海側へ向けて進んだ。 この時の機体は初期の「スポーツ」コントロールが軽くて扱いやすく、機体重量も軽いというので定評があった。 ただしスピードはそれほどでない。だからなおさら1.の方法で確認しながら飛んだ。 そしてこのときは安全に終えることができた。この例は「ヒヤリ」としたことでも「ハッ」としたことでもない。 しかし、ちょっとした状況の変化により、例えば風が強まった場合には、海側へ進めなくなっていたことも考えられる。 安全確保には余裕を持たせておくことも必要だという例で掲げた。 5.雲中飛行 いつ頃であったかは覚えていない。 以前、上級者から、「高度を獲得するために意識して雲の中に入ることがある」と聞いたことがあった。 その日のコンディションは覚えていないが、高度を獲得してソアリングしていたと思う。 そして、それほど大きくない雲がいくつか有ったのだと思う。 高度は十分高く、山からも十分離れていたのだと思う。それで安全を確保できると思い雲の中に入ってみた。 強い湿り気を感じ、同時に、どちらを向いても真っ白だった。機体がどの方向を向いているのか全く分からなくなった。 もし他の機体と出会っても避けられないと思って怖くなった。その後穏やかな操作をして雲から抜け出した。 雲の中に入っていた時間は短かったが、抜け出したとき、考えていた方向とは全く違う方向を向いていた。 以前、上級者からは上記のように聞いていたのではあったが、視界を失うような雲に入ることは避けるべきだと思った。 それ以降、雲は避けるようにし、迫ってきたときは、大急ぎで安全な方向へ逃げるようにしている。 ブラブラ雲さんの雲ではありませんのでお間違いなく。 6.あわやスタチン 機体が何であったかは覚えていない。 TOする時、ノーズが上がらないようにと、意識してノーズを下げて走り出した。 ところが、ランチャー台の最後まで来ても揚力を感じない。 大急ぎでコントロールバーを押し出した。 ギリギリで風をはらみ、スタチンすることなくTOできた。 ノーズを下げすぎていたようだ。 7.あわやスタチン2 機体が何であったかは覚えていない。 TOする時、持ち上げてから足が離れるまでの間で、いつもと違う何かの方法を試そうとしていたような気がするのだが、それが何であったか覚えていない。 走りながら、右翼が草と擦れる音が聞こえた。 足が離れても右翼が何かと擦れる音が聞こえ、機体は右方向へ回された。 必死に左へ向けようとするが、北を向いたまま右翼は草木と擦れているようだ。 目の前には大きな木が迫ってきた。 あの木に正面衝突かと思ったとき、機体は左を向いた。 スタチンには至らずに済んだ。 8.降りてから強風で裏返し 機体はラミナールSTだった。通称「つのなし」と呼ばれる形のものでランディングワイヤーとキングポストが無い。 ランディングが割と強い北風の中で、エレベーター降下のようにしてセーフティランディングした。 足が地面に着いたとき、風に押されて後ずさりした。 その時、キールのテールエンドが地面についてしまった。 そこを支点にして裏返されてしまった。 キングポストが無いために、セールは全面が地面に張り付いた形になった。 その状態では自分でカラビナを外すこともできず、他の人から助けてもらって事なきを得た。 9.走り始めてすぐにノーズアップ 機体はラミナールST。 既に慣れていて、TOも特に問題ないとは思っていたが、それでも再確認をしたいと以前から考えていた。 校長先生がいたので、ランチャー台に上がってTO直前にノーズアングルを見てもらった。 ちょうど良い角度を維持していると腕力をかなり使う。 それでもその状態を保って走り出した。 ところが、走り出してすぐにノーズが上がってしまい十分に加速することができなかった。 この機体に乗ってからは一番と思えるノーズ上げのTOになってしまった。 大切なのは、走っているとき、加速しているときのノーズアングルである。 走り出す前にいくら良い角度であっても、その時に無理な力を使っていては走り始めてすぐに姿勢が変わってしまう。 走り始めるときにちょうど良い角度に持っていくこと、そしてそれを維持することが必要である。 機体の、地上で静止しているときのバランスはそれぞれ皆違う。 「スポーツ」の時はかなりテールヘビーだった。 静止時にバランスを保つためには、他の機体に比べテールの位置がかなり高かった。つまりノーズを下げていた。 アップライトを持ち、無理な力を入れない状態で機体を持ち上げると、TOするのにそのままちょうど良いノーズアングルになった。 ラミナールSTの場合は「スポーツ」に比べてずっとノーズヘビーだ。 無理な力を入れないで機体を持ち上げると、かなりのノーズアップになる。 走り出す直前にノーズを少しづつ下げていき、ちょうど良くなったところで走り出す。 始めの1歩は歩く程度の早さ。その後どんどん加速してTO。今はこれを特別意識することなくやっている。 機体夫々にバランス、特性が異なり、操作する人間も夫々やりやすい方法が異なると思う。 だから、上記の方法が他の人にも当てはまるとは限らない。 ここに記載したものは、その時の精神状態の影響や、他にも影響している要素があるかもしれないと考え、事象の前後や経緯もなるべく詳細に分かるように心がけました。 そのため、余計かもしれないと思われる部分も含めて書きました。 しかし、20年以上も前のものもあり、内容が正確で無い可能性があります。 もしも上記の事例に関して記憶のある方がいらっしゃいましたらお知らせ下さい。内容を修正したいと思います。 参考に 一般災害における事故(負傷)率 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/sonota/021001i.htm 古い年代の資料ですが、このページの下のほうです。 ここまで、2009/04/21 内田 |