やるときは やるよ!(やっぱり出ました)


 いい日だったんだよ、ほんとに。
真西のほど良いリッジの日曜日で20人近く飛んだ全員がソアリングしていた。梅雨入りしたのにとても爽やかで、視界もかなり良く斑尾山が見えたというから、飛んだ人はさぞや気持ちよかったに違いない。初飛び後間もないK山君も前山の上でテイクオフレベルより上がって延々2時間半もソアっていた。

テイクオフから見ても青空の中を色とりどりの機体がにぎやかに行き交い、多くのギャラリーが歓声を上げて見上げていた。そんな中で上空から手を振る誠ちゃん。よろこぶギャラリー。よくある光景だが、彼にとっては・・・。思えばこれが彼の不運の始まりだったのかもしれない。

2時間、3時間とフライトを満喫したフライヤーたちは、ほぼ真西2m前後の風の中でも、その時々の風の偏りを見て北か南を基本にアプローチコースを決めてランディングし、そろそろ全員無事帰還かと思っていた頃。
なにやらメイン区画の土手の上が騒がしい。

「さては誰か松林に降りやがったな。たいした風じゃないんだから南北狙いで行けばいいのに、面倒な事しちゃったな・・」

土手裏の松林の上はわりと安全だ。てっぺんがそろった林にバサッと降りれば、身体も機体もほとんど無傷だろう。実は自分も前に一度降りたことがあるが、ソフトなものだ。もちろん機体の回収はそれなりに大変だけどね、松もだんだん高くなってきてるし。でも今日は人数多いからまだ楽かな。

などと思っていたら、遠くから救急車の音が近づいてくる。

「え・・、ま・さ・か?」

ゲゲッ、駐車場に入ってきたぞ。

「おいおい、何だ何だ、いったい誰が何したんだ??」

なんと誠ちゃんだ。松林の上かと思ったら、そこを抜け切って土手の裏の地面に落ちたらしい。顔から血を流し、自己診断ではどうやら両腕をやってしまった様子。大変じゃないか、急いで病院だ。
しかし救助メンバーに支えられて土手の下から這い上がりながら、やはり彼は言ってしまった。

「やるときは やるよ!」

出たー! お約束だー! 面白すぎるけどそんな決めゼリフ言ってる場合かー! 顔から流血しながら言うと、コワイものがあるぞ。早く病院行けっての。

そして池田、井塚、鷲津氏が付き添い(濃いメンバーだなあ)、救急車は長岡赤十字病院へ。こんなメンバーで病院行って迷惑じゃないだろうか? 先に病院に電話して、警察呼んだりしないように頼んでおいた方が・・・・あ、余計な心配でしたね。
救急車の中で、

「う、イタイ、もうちょっとゆっくり走れませんかね」

「しかし失敗したよなあ。普通に南向きに降りてれば なんてこと無かったのに」

「両腕だと困るなあ。ずっと誰かに付いててもらわないと何にもできないし」

「けど失業中でまだ良かったかもね」

「やー、長岡遠いなあ、まだですかね、もう痛いんだから、急いでくれませんかね。」

→ 最初に戻る


と、エンドレスにしゃべるのは本人ではなく井塚さんだ。誠ちゃんの思った事を全て代わりにしゃべってくれる。けが人に負担をかけないための井塚さんのやさしい気配り、ではないのは言うまでも無い。


そんな調子で病院へ。それから数時間後、誠ちゃんも含め全員がショップに戻ってきた。顔は打撲程度、左腕は表面の傷だけで結局何とも無く、右上腕が粉砕骨折。利き腕だけど、それでも片腕だけで良かった。その日は一旦自宅へ帰り、翌日新潟の病院で治療を受けて、手術後2週間の入院という結果になりました。

墜落時の状況だが、南へ向かって浜に近づいたが、最後に一度山側へ振ってから西を向いてアプローチした。が、シンクもあって高度が下がった。さらに運悪く土手のすぐ手前に大きな木が一本立ちはだかってコースをふさいでいだ。木の手前で押し出して失速。ところがその場所は意外と深い。失速からノーズが下を向きながら地面に激突したとのこと。これって凄くヤバイ落ち方じゃないの。運が悪けりゃ首をやっちゃってたかもしれないのに、よく片腕骨折程度で済んだものだ。やっぱ誠ちゃん丈夫だなあ。

浜から見ていたSさんの証言では、「かなり遠くで松林の陰に見えなくなったので、誠ちゃんは駐車場に降りたんだろうと思った。スゴイことするなあと思った。」と言ってました。相当低いコース取りだったようです。先に降りた他の人たちはすべて南北で普通に降りてたし、無理に西向きに進入することなかったんだけどね。

でも西に入りたい気持ちも分かる。南北に広大な砂浜のランディングは風向きが合っていればなんのプレッシャーもないけど、西風を横に受ける場合読みがハズレてフォロー成分が入ったら、やはり確実なフレアストップは難しい。できることなら弱い西風でも正対して入りたい。でもグライダーの性能が良くなってきた分、狙い通りのスポットランディングは難しくなってきている。川に沿って低空でアプローチするという技を使う人もいるが、それだってそれなりに正確な読みとコントロールが必要だ。

リスクの大きさを考えれば、サイドでも南北を基本にアプローチし、少々のサイドフォローでも確実にフレアを決められるように技術に磨きをかけておくべきでしょう。もちろんその時の風の強さ、機体の性能によって選択肢は様々だけど、判断に迷うような微妙な条件の場合、やっぱ南北が基本だろうと思う。

と言いながら、自分も昨年それで失敗したようなものでして、あまり大口は叩けないのでした。

レポート 五十嵐