ムラサメ 散る (グラインダーじゃないの)


2003年7月2日。梅雨の合い間、よい天気の水曜日。
水曜のヌシと化した栢さん、最近ノッてる樋口さん、惰性の五十嵐の三名がテイクオフにいた。
かなり弱そうだがサーマル雲が湧いているのが見える。

「うーん、どうかなー、行ってみるかあ」 と、五十嵐発進。

上がれそうで上がれない。やっぱりサーマルがセコい。ちょっと早すぎたみたい。
いつものようにメリハリのないフライトを披露してランディングに向かう。
吹流しは弱い西北西。南からやや斜めにメインランディングを狙うことにする。

「さて、今日 も しっかりフレアを決めるぞー」

アプローチに入り、高度10メートルくらいで南の練習場近くまで来た。

「お、けっこう近くに降りられそうだな、よしよし、そろそろ足を・・・ありっ?」

ここに来てバリオがピッピッピッピッ。なんかやけに調子よく鳴ってるし。

五十嵐は思った。このままだとかなり伸びそうだ。歩くのイヤだ。だいぶ低いけど、
今なら高度が落ちないし、いっぺん振ってリフトをはずして降りればイケるだろう。

でコース変更。いったん山側へ振って、それからすぐ海側を向く。

「いい感じー。かえって近い所に降りられそうー」

五十嵐のもくろみでは ニュートラル速度なら 浜の砂付け用の柵の上 3〜4mを通過
しそうな感じだったので、柵スレスレまで引き込み加速して降りればバッチリのはずだった。
はずだった。 はずだった。 はずだった。・・・・


「んげっ!」

沈む! いきなり沈む! まるでサーマルの脇のシンクにつかまったように沈む。
なんのことはない、ほんとにシンクにつかまったのだ。

「しかしこんな地上付近でこんなシンクってあるか普通? インチキだっ!!」

などと思ったのは落ちたあとのハナシ。それどころではなかった。
もう逃げようが無い。シンクに入る前に速度を落としすぎていた。ベースバーをめいっぱい
押し出しても、もうあまり速度は落ちず、ただむなしく沈下していく。目の前には柵。
プローン姿勢のまま、衝突確定である。

「こんなことならフェアードベースバーの先端を研いでおくんだった。そうしたら柵を
スパスパッとカットして無事に降りられたのにぃ」


などと思ったのも、やはり落ちたあとのハナシ。もう柵と真っ向勝負するしかない。
相手は3連のジェットストリームアタックの態勢で待ち構える。
五十嵐は名刀ムラサメを両腕で突き出し、突進する。「勝負!!!」

結果。一列目はなぎ倒したが、二列目は強かった。五十嵐は顔に刀傷を負い、
強烈なアッパーを喰らった衝撃か、首から背中の筋肉がガタガタ。息が苦しい。
下を見ると、なんとムラサメが折れているのが目に入った。
見てしまったせいか、やたら脈が上がり、呼吸がさらに苦しい。
顔から血をボタボタたらし、痛くて上がらない頭を自分の手で持ち上げながら
やっとの思いでハーネスから這い出て、そのままマグロ状態で助けを待つ。
幸か不幸か、海岸にいた数名の人々は全然こちらを気にしていない。

クラッシュ直後に一応無線は飛ばしたつもりだったが、この情けない状況はうまく
伝わらなかったようで、樋口さん、栢さんは弱いサーマルで粘ってがんばっていたらしい。
でも、ちょうどよかった。しゃべるのもつらい状態で、とても動けなかったから。

それからようやく呼吸が落ち着いてきたころ、いいタイミングで助けに来てくれた。
救急車は呼ばずに 樋口さんの車で県立吉田病院へ送ってもらうことにする。
樋口さんはメチャメチャ速かった。さすがレガシィ。
途中 栢さんから電話で、先に病院に連絡しておいた とのこと。栢さんアリガトー。
が、病院に着いたら、どうも話が通じない。ハンググライダーでケガしたんですよ?

「いや、グラインダーで顔を切ったと聞いてたんですが・・・・」

グラインダー・・・・・・栢さんアリガトー。

そして顔面修復作業。なんか軽いノリの若い先生だった。
顔を16針くらい縫い終わったところで、手にも一ヶ所 やや深い傷をみつけた。

「んー、ここも縫っちゃおう! 一針だから麻酔 いらないや」
「え?麻酔なし?」
「うん、だいじょぶ、だいじょぶ。すぐだから」

で、ホントに縫うし。

「痛かったですか?」
「あ〜、ちょーーっと痛かったかな〜〜〜〜(半泣)」

ということで、私はフランケンシュタインになってしまいました。

まあとにかく、身体はこんなで済みました。筋肉は回復、神経、骨も異状なし。
治療費は薬代ふくめて8500円でした。
樋口さん栢さん、お世話になり有難うございました。

機体は不気味なほど損傷が無い。ムラサメの他はアップライトの下の切り口が
ちょっと歪んだくらい。これでいいのか?
でもヘルメットは耳の丸穴から下の部分が割れてたなあ。衝撃が全部顔に来たか。
しかしやっぱり痛かったのがムラサメです。ひとふり 9万9千6百円 だそうです。
さすが名刀。 ああ、呼吸が苦しい。


教訓:

○ランディングアプローチではスピードは多めに。
 人にもいつも言ってるのに、たるんでました。特に今の機体になってからだな、
 ヘンに低速がねばるんで、ちょっと感覚がマヒしてたと思います。反省。

○ランディングの気流が不安定な時は特に注意。
 これも当ったり前のことですが、ちょっと予想外の下降流でした。
 弥彦のランディングでもあんなシンクがあるというのは、初めての経験でした。

○ベースバーはよく研いでおこう。
 これはテイクオフでも有効だな。

○グラインダーとか、そこらへんを他人に説明する場合はていねいに発音しよう。
 おねがいしますよ、ホント。



追伸:

皆様のあたたかな嘲笑に支えられ、6日目にして抜糸。もう、ほぼ完治です。
顔を見られなかった人は残念でした。
抜糸のとき、軽いノリの先生。
「あ、眉毛切っちゃった」 「あ、また間違えた、ゴメン。糸 長めにしてたんだけどなー」
「先生、眉毛って伸びるんですよ」 「ああ、そうか 伸びるんだあ」
私は麻呂になるかと思いました。





レポート フランケン五十嵐