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コラム「コアジサシのデコイ」

コアジサシ子育て中

子育て中のコアジサシ

コアジサシのデコイが作れないかという問い合わせが関西の環境の研究所から来た

 装飾用のデコイではない。実際に現場に置いて鳥を誘うためのデコイ。まさに実用デコイだ。

ところでコアジサシってなに?

 コアジサシと聞いたとき、お恥ずかしながらピンとこなかった。アジサシならたしか高校生の頃見ていた、ご存じ宮崎駿監督の未来少年コナンで、ラナと心を通じ合う鳥として有名だが(さすが、第一世代オタク)コアジサシははじめて聞いた。つまり小さなアジサシなのかなと素人考えしたのだが、本当にそうらしい。大きさはムクドリくらい、ぎりぎり手に乗る程度か。とりあえず図鑑見て「こんな感じかな?」と作ったサンプルはNG。その後クライアントからサンプルにしてくれと送ってもらったコアジサシの割と精密な模型は、発送中に破損するといったアクシデント。まあ、とにかくいろいろな困難にもめげず、ようやく完成。納品したのは四月の半ばころ。四月の終わりにはコアジサシが産卵するので、それまでに何とか間に合わせるため、かなり無理なスケジュールをこなした。出来は...まあ、手作り木製品なのでとてもサンプルのような精密模型と言うわけにはいかなかったが、そこはそれデコイ。とりあえずコアジサシ達が「仲間がいる」と勘違いしてくれて、その近辺に巣作り、産卵、子育てという風にうまくいってくれればしめたものだ。
 製作したのは100体。これはかなり多い。発送用に梱包してしまえばダンボール2個に収まってしまう数だが、これを地面に並べたとなるとかなりの光景になるだろう。実際並んだ所を是非見てみたい物だ。

破損したサンプル

 プラキャスト成形された、かなり精密なコアジサシ実物大の模型。見たとこ海洋堂(リアル食玩でおなじみ)の製作みたいだ。残念なことに輸送中にシッポが破損。その後の運送屋さんとの善後策など、いや大変でした。

注文は100個

 さて、いつもの特注仕事なら作るモノは大抵一個か二個。それが今回は百個なので、百個作るやり方で仕事をしなければならない。そこで伝家の宝刀「コッピングマシン」の登場だ。と言えばかなり聞こえは良いが、そのじつこれは簡単な粗削りしかできないショボイ機械なのだ。何せこの機械の原型が出来たのが多分終戦(イラク戦争じゃないよ、第二次世界大戦だよ)の頃。そして、20年ほど前にNCというコンピュータ制御する工作機械が登場すると同時に廃れてしまった。今手元にある機械はその最終期に作られたものだ。この後この機械のメーカーはなくなってしまった。そして驚いたことにその基本的構造は終戦当時のそれと全くかわっていない。これじゃ廃れるわけだ。そんな機械だからまともに扱える職人も今はほとんどいない。実は自分も廃業する木工機械業者から格安で購入したモノだ。どの位格安かと言えば、コイツを工房に運んでもらう輸送料と同じくらい安い。

材料と製作途中の型 型を機械に取り付けたところ

 型はもちろん手づくり。帯鋸で切り取った材料をコアジサシの形に成形して、機械の取り付くようにいろいろ工夫する。この工夫が後の作業性の善し悪しを決める。

機械作動中 見る影もなく切断された本体

 実作業では、なるべくこの機械で粗削りしたままで仕上げができればかなりコストダウンできるのだが、まずそんな仕事はない。粗削りのあとには帯鋸で不要部分を切り取り(この時点でかなり情けないくらい変形したしまう)あとは地道にサンダーで削りながら形を整えていくしかない。この作業が大変なのだ。そうして100個全部形を整えるのに数日。ところがそれだけですむ話ではなかった。

エンドレスサンダー作業中 バフサンダーを使った成型作業

難問続出...たすけてくれ〜

 「デコイの裏に地面に設置するときの金具が入るような溝を掘ってください」溝ですか...穴だったらボール盤一発で簡単にできるが、溝となるとこれはフライス仕様のルーターで掘らないと無理だ。そんな機械はうちにはない。外注に出せるほどの予算もない。金のないときは知恵を出せ。

自作治具にて溝掘り

 そこで考えた。治具を作ってボール盤を使って開けよう。ルーターほど正確にはできないが、要は金具が留まればいいのだから精度は要らない。実際にやってみるとうまくいった...一個二個サンプル作るだけだったら...これを100個やるのに丸一日かかる。なんか完成までの道のりが長すぎてめまいがしてきそうだ。
 順番がかわってしまったが、この溝切り作業はまだ材料が四角の状態でないとできない。溝をあけてから粗削りとなる。溝の位置がずれないように毛引きで位置あわせしたのだが、それでもかなり豪快にずれる...なにせ手作りだから...(←おいおい)

コアジサシの嘴(くちばし)はかなり細い

 名前の由来「アジを刺す」ということだからなのだろうか?それはいいのだが、ここまで細いと加工がかなり困難を極める。嘴まで一体の材料で製作するのはコスト的にも作業的にも余りに効率が悪すぎる。そこで嘴は別パーツを接着してサンダーで成形する事にした。

くちばしの部品を接着 部品付け完了

 接着剤は普通なら木工用ボンドを使うのだが、今回は実際にデコイとして野外に設置するモノ。当然雨風にさらされる。万能に見える木工用ボンドの弱点は「水」だ。水溶性なのである。そこで今回は木工用の瞬間接着剤を併用する事にした。これで大丈夫なはず。接着箇所は段差がないように入念に削る。それにしても細い。刺さりそうだ。これだけ細いと模型サンプルを送った時みたいに発送中に破損してしまいそうだ...まあ、そこはそうならないよう工夫して梱包した。慣れているんです。

くちばし完成

 嘴の部分の成形完了。先端恐怖症の人には目の毒。自分も制作中は目と目の間がもしょもしょしました。

今回の絵付けのテーマ、野外展示での耐久性

 問題の絵付けである。坪源のデコイは全て「アクリル絵の具」で絵付けしてあるが、今回はくどいようだが野外展示である。それならそれようの塗料を使わなければと、乾燥後は耐水性になるビニール系の絵の具をはじめて使ってみた。そこでまた困難が発生する。サンプルはいつものようにアクリル絵の具を使って作ったのだが、それに相当する色がないのだ。色出し作業をしなければならない。そこでタッパをたくさん百円ショップで買い込んできて、絵の具をこねくりまわし、なるべくサンプルに近い色を作る。全く同じって訳にはいかないが、ある程度似せることに成功。

色あわせ作業中 仕上げの絵付け作業

 この仕事を受けるに当たって発注者から野外展示しても絶対大丈夫なんでしょうかと聞かれたが、そのようなモノはどんなペンキを使ってもないです。何年か使っていれば必ずボロボロになる。そこで今回は修理する事を前提にして作った。装飾用デコイの場合、仕上げに表面をウレタンリルでコーティングする。室内鑑賞用ならこれでかなり美しさが保てます。これが室外になると数年でアクリルがボロボロ剥がれ出します。雨風はともかく、ひょっとしたら太陽の紫外線なんかが災いするのかも知れない。このウレタンがボロボロになった表面を修理するのはあまりにもコスト高。何せ一旦ウレタンを綺麗に剥がさなければならないから。この作業にはかなり時間がかかる。そこでコアジサシのデコイにはウレタンでのコーティングはせず絵の具の表面そのままにした。これならどんなに破損しようが絵の具が剥がれようが、比較的簡単に修理可能。同じ絵の具で上から重ね塗りすればいいのだ。いつも言っていることですが、私の作ったモノは、私の生きている限り必ず修理致します(修理代実費いただきますが...)
 ここ1〜2年、私がつくる商品や製品ではなくて作品に当たる物。そのなかでも絵付けされたものは特に表面処理をせずに絵の具そのまま。なぜなら作品の破損、修理を前提としているから。また後になって「もうちょっとこの辺に絵付けしてみたいな」と思っても問題なく重ね塗りができる。
 そんなわけで100個のコアジサシの絵付け作業。もっとも目や嘴、羽根のイメージなどをベタ塗りするだけだから時間こそかかるが作業自体はそんなに問題はナシ。ただ今回使ったビニール系の絵の具はアクリル絵の具に比べ乾きが遅く、その分時間がかかってしまったくらい。それにしても絵付け作業も数日で完成。こうして完成品を並べてみるなかなか壮観なモノがある。

完成

 いざ完成してみると、やはり一番気になる「本当にこのデコイでコアジサシがあつまってくれるのであろうか?」実を言うと今回の様に実際にデコイとして使用するモノを作ったのは初めて。装飾用や標本用と違い、これを鑑賞してくれるのは本物の鳥だ。その鳥たちの気を引くことが出来なければ、うまくない。とはいえ鳥に「どのような形にしたらお気に召していただけますか?」と聞くわけにもいかないし...後は実際にコアジサシがこのデコイを設置した近辺に巣を作り産卵してくれることを願うばかりです。

2003年5月16日