人に会いたい…というのは唐突にやってくる。
その会いたい人物が………過去に決別したはずの人でさえも……。
私が普通に高校を卒業して……そのまま現役で大学に入学して……。
当てもなく私はM駅周辺を歩いていた。
つまり、暇なのである。折角の日曜日なのに、別にやる事がなかったのだ。
1週間を終える日曜日として、自室の掃除など…まあそんな事ぐらいはできる。
暇なのではない。自分が孤独だからやる事がないのだ。
外見ではけらけらと笑ったりしているけど、実はすっごく傷付きやすいタイプなのだ。
……なんで素直になれないのだろうか。
なんで人との係わり合いをあれほどまでに受け止められなかったのだろうか。
彼女との決別で、私は変わってしまっていた。
「雪………か」
流石に寒かったので喫茶店へ入った私は、お気に入りであるブルーマウンテンを注文した。
何も入れずにストレートで飲む。私はこれが一番好きなのである。
「なーんかこう…、雪ってのは人間を憂鬱にさせる力があるんだろうねぇ…」
煙草を吸うかの如く、私はふーっと息を吹く。
窓から見える大空からは、白い雪がちらついていた。
「随分とお暇みたいね、佐藤聖さま」
「えっ?」
途端に声をかけられた。不意打ちなのかと思ったけれど…。
とにかく、私にこう気前良く声を掛けられる人物は………。
「よ、蓉子!?」
「はい。随分とお久しぶりね」
その人物は紛れもなく水野蓉子、その人だった。
確か、わざわざ別の大学を受験して見事に合格。法学部とは聞いていたが。
蓉子はホットコーヒーをオーダーすると、再び私の方を向いてきた。
ついこないだまで一緒にいた人だが、やけに大きく変化したように思える。
「御無沙汰とまではいかないけど、これって偶然?」
「私だったらあなたがいつ何処にいるかぐらい、見当はつくわ」
おいおい。あなた一体何者だよ。私のストーカーですかい?
本気でそう突っ込みたくなったのだが、この人物はこういう女性である。
「それで? 今日は何の御用で?」
「…………会ったわ」
蓉子の表情が変わった。
…その前に、誰に会ったのかが気になるが。
「…会ったって………誰に?」
「……あなたならわかるわよ。私が言わなくとも」
蓉子は上品な仕草を醸し出しながらコーヒーを飲む。
私は右手を丸めて唇につけ、思考する。
「……………栞?」
「当たり」
私と蓉子が話す話題とはこれしかないのかもしれない。
再開して、過去に私と何かがあった人物ぐらい。
ある意味、ワンパターンなのだろう。私と蓉子の会話とは。
「そう………それで?」
「会いたくはないの?」
直球だった。カーブやシュートではない。ど真中のストレート。
それは私の肝臓をえぐるようなボディブローみたいな味がした。
いきなり会いたくはないのと言われ、当然のように私は困惑した。
「……そう……言われたって」
「弱気ね」
「なっ!」
思わず立ち上がりそうになったが…いけないいけない。
ここで蓉子に…いや、流石に殴りはしないけど怒鳴ったら周囲からどんな目で見られるだろうか。
怖かった…違う。人間として…何だ? 思考がおかしくなってきた。
窓から見える景色はさっきと同じ。
ただ、雪がさっきよりも多く降ってきたのは確かだった。
「まあ落ち着いて。私が彼女と……」
「…会ったの?」
「ええ。あれはつい最近。ちょっと私用で本州に行ってたら偶然」
栞って…本州にいたのか…。
当時、転校すると聞かれ……あれっきり私は久保栞という人物の姿を目撃していない。
以前、長崎の叔父で世話になっていたと聞いているので、多分、一人立ちしたのか観光に着たのかのどちらかだろう。
ここは東京。さほどは遠くない。飛行機で1時間でついてしまう距離だ。
「へぇ〜……」
私がアイスコーヒーを注文していたら、きっと私はそれをストローでぐるぐるかき混ぜていただろう。
そうやって気分を紛らわす。ぐるぐるかき混ぜて、混ぜて混ぜて混ぜまくって全てを封じ込めてしまうように。
「…どうだった?」
「いい顔してたわよ。伊達にシスターはやってないわね」
そうだった。久保栞は神に仕える職務に就くと言っていた。手っ取り早く言えば修道女。
「栞さんは全てを知っていたわ…聖が弱い子だって」
「ははは。私は弱っちいわよ。どうせ………どうせ他人にすがる事しかできない…」
何だろうか。私は悔しさと悲しさが同時にこみ上げてきそうな感じだった。
全てが逆流して…心に抱え込んでいたのが一気にドーンとはじけそうで。
例えるなら噴火。例えるなら濁流。例えるなら地震。
「泣かないの。いくつになったのよあなたは」
「ふーんだ。人間感情はいくつになってもあるんですー」
言い返してやったが、私は蓉子の覇気には負ける。
昔から水野蓉子とはこんな人だった。
伊達に、小笠原祥子のグラン・スールをやっていたわけではない。
強く気高く気品のある女性の姉は、更に強く気高く気品があるということか。
「それで、それで?」
「あなたについて訊かれたわ。何処に進学したとか。妹はちゃんとつくったかとか」
久保栞が転校したのは私が2年生の時。
つまり、私が藤堂志摩子を白薔薇のつぼみとして任命する前の話である。
「志摩子について、何か言ってた?」
「訊かれたわ。あなたとは全く正反対の性格だって言った」
「うんうん。そうよね。私と志摩子ってぜーんぜん性格違うからね」
「そうそう」
会話が進む。
「栞さん。…凄く嬉しそうだった。あなたが今のような性格になったって言ったら」
「そっか…あの時の私。笑う事や他人に抱きつく事なんてしなかったからね…」
つまり、私は孤独感を解放するためにあんな性格になったしまったのだ。
今はちょっと軽減されたかもしれない。それは、大学にはかつてのメンバーがいないから。
とはいっても、高等部の所に行けば、その性格が露わになるかもしれない。
「その嬉しそうな笑顔……あれが栞さんの強さなのかもしれないわね」
「そう。そして私はその強さに惹かれたのでした」
確かに私は好きだった。
久保栞の強さだけではない。全てが好きだった……。
……今となっては、かりそめの愛なのかもしれなかったけれど。
「行くの?」
会計を済ませて、私は先に外へ出た。
蓉子が私にそう言った。
「ええ。私は歩き続けるわ」
―――――――雪というのは全てを白に染めていく……人の心でさえも、凍らせてしまう。
「会うのなら私がアポ取るけど?」
―――――――どうしてあなたは変わってしまったの?
「いいの? じゃあ蓉子に任せる」
―――――――その心は結晶のように冷たく、脆い。
「そう、じゃあ任されました」
―――――――私の心も雪のように白く、弱く、そして融けてしまいそうで………。
「蓉子」
―――――――灰色の空から降る雪は、全てを終結させた真っ白な灰のようで………。
「なあに?」
―――――――……それは、儚いひとつの愛の終わりを告げました。
「……………ありがとう」
―――――――そして、私は新しい愛を見つける旅に出る……………。
<あとがきみたいなもの>
これは一体何ですか? と尋ねられても私が困惑するだけです(何)
どうもこんにちは、旅の3流芸人、月影蓮哉です。
実は、私が『マリア様がみてる』を知ったのはつい最近なんです。
確かニュータイプ2003年1月号。マリみてがアニメ化するとの記事で全てを知りました。
そして、原作小説を一気に購入。その時名探偵コナン(44巻)と特撮ニュータイプまで買ったので、一気に8000円近く使いました(本当)
まさか、書籍だけで福沢諭吉(1万円札)を出すとは。ああ、だから福沢祐巳と福沢祐麒なのだろうか(意味不明)
最初はロサ・キネンシスだのロサ・ギガンティアだのロサ・フェティダなど、謎の言語の羅列に驚いたのですが。
特にギガンティアなんて強そうな名前だなーって(笑)
ギガですよ。略してロサギガ。…ロマサガかよって(謎)
あれ、列記とした花の名前だなんて知って仰天しましたね……。ちゃんと花が存在するのかって。
そして、ブゥトンというのはフランス語でつぼみ。スールというのはフランス語で姉妹なんですね。
…いや、興味があるのがラテン語とドイツ語ぐらいの私に、フレンチなんてわからないんです(笑)
さて、私が惹かれました佐藤聖さま。彼女は原作読んでいるだけで笑える行為を連発してくれます。
抱きついたり抱きついたり抱きついたり(何)
ですが、『いばらの森』でかなり悲しい過去を味わっている事がわかるんですよね。
その時、心の支えとなったのが水野蓉子さまだったのです。そのわけか、二次創作サイトさんで聖×蓉子が多いのだろうか。
当初は聖さまと栞さんが再開する……というプロットで書こうと思ったのですが。何故書けなかったのだろう。
そして蓉子さまが会っているのだろう…それについては永遠の謎という事で(何)
むぅ、これが私の初マリみてSSとなると、まだまだですね…。
ちゅうか(海堂さん風に)超弩級シリアスなんじゃないかと思います。
私、ギャグ・コメディがどうしても書けないんです。
そのせいか、いつだったか誰かに『正統派SSとして良くできていますね』なんて褒められてしまいました。
そっか……私はシリアス専門だったのか。だからギャグとかコメディが書けないのか(謎)
というか、どうしても、どうやってもギャグができないんです。理由として、読者を爆笑させるようなネタを作れないんです。
ですから、他の方が書かれる小ネタとかに激しく反応してしまうんです。
と……あとがきだけでこんなに書いてしまったのか、私は。
こんなしょうもない物を掲載していいのでしょうか、管理人様。
基本的に短編が苦手だったりするんですが、私は長編も苦手です(何)
2004 3/1 月影蓮哉