Cockroach Concerto





その朝、衛宮士郎はいつものように起床し、朝食の準備に取り掛かっていた。
今日は学校がお休みであり、そのため藤ねえはまだ寝ている。イリヤも同等だ。
毎度ながらエンゲル係数の上昇が心配であるが、そうでもしないとあの赤いあくまがキレるので調理しなければならない。

忘れたらどうなるのであろうか。きっと、ガントの乱れ撃ちで、彼の体は蜂の巣ビーハイブになるだろう。

そんな時、衛宮士郎は何かに気付いた。
コンロの取っ手に手をかけようとした、その瞬間だった。

……日本人なら誰もが知っている。3億年前から絶滅する事なくこの世にはこびる黒き悪魔
その生命力は多細胞生物上最強。誰よりも強く、高く、そして人の手では決して滅ぼす事ができない存在。
もしも、その黒き悪魔の不死生物アンデッドがいたら、どうするだろうか。

三葉虫のアンデッドがいるのだから、黒き悪魔のアンデッドもいるであろう。
能力はなんであろうか。『アレ』の能力だから、「ACCELERATE」なのだろうか。

「………恐らく、『アレ』がいる」
「『アレ』って何ですか? 先輩」
「うおっ!?」

そこにはエプロン着用済みの間桐桜が立っていた。
衛宮士郎の後輩にして、彼の家に料理を作りに来た事もある少女である。

一時、士郎はこう思ったことがあった。

『こんなのでかくて可愛い後輩が自分の家に来て、料理を作ってくれるなんて、俺ってまるで、エロゲーの主人公みたいだぜ!』 と。

いや、確かに衛宮士郎はエロゲーの主人公なのであるのだが。
あながち、彼の思っている事は間違ってはいない。

「……いいか桜、良く聞け。俺のスーパーレーダーが感知した。恐らくこの近くに、黒き悪魔が潜んでいる」
「ま、まさか先輩。…それって」
「間違いない。奴だ。抜群の空中軌道修正能力人知を超える驚異的な生命力を持つ黒き悪魔」
「……………姉さんが知ったら、どうなるか」

考えるだけでも恐ろしい。士郎と桜は互いに頷いた。
姉さんというのは間桐桜の姉である遠坂凛の事である。

凛は虫が嫌いとかは良く判っていないが、恐らく『アレ』は駄目であろう。

「……桜、衛宮命令第568431号。『黒き悪魔の場合』だ」
「数字適当ですね先輩。元は『バルバロッサの場合』ですか?」

バルバロッサの場合とは、第二次世界大戦時におけるドイツ軍のソビエト侵攻の事である。
一気にロシアの大地に雪崩れ込んだドイツの北方軍集団、中央軍集団、南方軍集団はモスクワを目指し進撃した。
しかし、ロシアの寒波、俗に『冬将軍』と呼ばれる気候に、ナポレオンに続いて敗れ去ったのは、有名な話であるが。

そして、冬将軍ともうひとつ、ナポレオンとドイツ軍を襲ったのはチフスだった。
当時衛生状態が良く無い時代。寒さとチフスによって体力を奪われ、ナポレオンとドイツ軍はロシアあるいはソビエトを倒す事はできなかった。

ロシア連邦は毎年大寒波で死者を出しているらしい。その前に、ロシア極東は人間の住む所ではない。



さて、2人は完全武装を行って、辺りを警戒していた。
必ずいる。絶対にいる。黒い悪魔はここに潜んでいるはずだ。

「……先輩、わたし『アレ』はつぶしたくありません」
「俺もだ。…俺は前に『アレ』が学校でぐしゃっとされてから、更に嫌になった」
「ぐ、…ぐしゃって」
「そう。地を凄いスピードで這う『アレ』を、椅子の脚で……………」
「い、嫌ですよ! わたし絶対にそんなこ………」
「どうした? ……って」

その時、2人は見つけてしまった。
地面をカサカサと凄いスピードで這う、黒き悪魔のその姿を。
黒き悪魔は台所を突破すると、衛宮家の広い廊下に突き進んでいった。






「ぎゃああああああっ!!!!!」
「いやああああああっ!!!!!」







衛宮士郎と間桐桜の絶叫が響いた。



どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!




「シロウッ! 桜っ! どうしたんですか!? 何があったんですか!?」

と、駆けつけたのは頼りになる我らのアルトリア・ペンドラゴンだった。
つい数ヶ月前まで、衛宮士郎のサーヴァント、クラス<セイバー>として戦っていたサーヴァントである。

ドップラー効果を盛大に利用しての足音は、やはり迫力がある。
既に武装済みであり、風王結界インビジブル・エアまで出している。

「ア、アルトリア! で、出たんだ! 『アレ』が出たんだ!」
「で、出たんです! アルトリアさん! 『アレ』が出たんです!」

必死に状況を伝える2人。

「落ち着いてください2人とも。『アレ』とは何ですか?」
「……………………………ゴキブリだ」


その時、アニメだったら『ジャジャーン』という効果音SEが流れているだろう。
SEというのはSound Eeffectsの略で、音響効果という意味がある。

「ゴキブリ? …ああ、コックローチですか。あれがどうしたんですか?」
「どうしたも何も、出たんだよ! 台所に!」
「シロウ。シロウはゴキブリが怖いのですか?」
「当り前だ!」

そう言うなり、アルトリアは首をかしげた。
士郎は思った。何故此処でアルトリアの方に疑問が浮かぶのだと。

「あ、あの…、アルトリアさんは怖くないんですか?」
「私は怖くありません。むしろ黒死病ペストが怖いです」

ペストというのは、古来欧州で度々大流行を繰り返した、ペスト菌の感染によって発生する急性伝染病の事である。
突然悪寒を覚え、高熱を発し、頭痛・倦怠・めまいを起こし、やがて死に至る伝染病だ。

「まったく、シロウは情けないですね。ゴキブリくらいに怯えていては、男として務まりません」
「うっ……。それとこれとは別だろう?」
「ふぅ……。仕方ありませんね。私がやりましょう」
「「おおー」」

そう言い、アルトリアは風王結界インビジブル・エア片手にゴキブリが逃げた方向へ歩いていく。
ゴキブリ如きでそれを使うのかと突っ込みたくなるのは、全読者がそう思っているだろう、と士郎は思った。

「アルトリアがやってくれるなら大丈夫だろうな」
「そうですよね、先輩」

アルトリアがやらねば誰がやる。
士郎と桜がそう言っていた、次の瞬間。



約束されたエクス―――――――――

        ―――――――――勝利の剣カリバー!!!!!」




ちゅどぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!





「なあ桜」
「なんです、先輩?」
「今、アルトリア宝具使わなかったか?」
「気のせいでしょう」

そんな会話が繰り広げられたとか。
ちなみに被害は屋根の一部と、地面を温泉を掘り当てるのかというぐらいえぐり、壁の一部を消し飛ばしただけで済んだ。
他のおうちに被害が出ていないのが幸いだった。

約束された勝利の剣エクスカリバー。天を斬り割く最強の剣。残艦刀もびっくりな威力である。


どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!



「シロウッ! 桜っ! 奴は意外と手強いです! 私の約束された勝利の剣エクスカリバーが避けられました!」
「腐っても相手はゴキブリだからな。素早さの高さははぐれメタル並だし」
「先輩! どうするんですか!?」
「こうなったら皆でやるしかない。……桜、ゴキジェットかコンバット持ってきて」

士郎の提案により、3人で協力して買い置き(家に偶然あった)していたと思われるコンバットを衛宮家の床下に仕掛けた。
士郎は何処からかゴキブリホイホイを調達し、隅っこという隅っこに配置した。







「これで何とかなるだろう」

士郎は最後のゴキブリホイホイを設置し、そう言った。
その時、士郎の背後から妙なオーラを発した、赤いあくまが立っていた。
遠坂凛である。

「何だ、遠坂か」
「遠坂か、じゃなーい! 一体何なのよ!? うるさくて起きちゃったじゃない!」
「お前の体内時計がそうしたんだろう? 今日は朝から酷い目にあったんだ。今から朝飯作るからちょっと待ってろ」
「何よ、酷い目って」

そうか、遠坂はゴキブリだって事知らないんだっけ。士郎はそう思った。
けれど、素直に遠坂凛にゴキブリが出たんだ、なんて言っていいのだろうか。

ゴキブリはお年頃の少女にとっては怖い物である。
恐らく、怒り狂った凛は、ガントの乱れ撃ちで、ゴキブリを17個に分割するだろう。

「シロウッ! ついに捕獲しました!」

そこに現れたのは、なんとアルトリアだった。
その時、士郎と凛は目を疑った。

アルトリアの剣に突き刺さりしは、黒い悪魔、すなわち、コックローチ。





「いやあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」





その場で凛が倒れたのは言うまでもない。
後ろでは桜がオルフェノクのごとく真っ白な灰になっていた。……見たのだろう。

今日は朝から災難だった。
そんなこんなの、衛宮家の朝。
        



















<あとがきみたいなもの>

如何でしたでしょうか。あなたの心の無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス。月影蓮哉でございます。

さて、実はこのお話は、Fate/stay nightの二次創作小説処女作だったりします。
いろいろとどんなネタを使おうかと悩んだ結果、ありがちなゴキブリネタ。
AIRでは観鈴ちんがごきごきの歌で笑わせてくれましたね。
……あの声が両儀式と同じなんて信じられません(笑)

そして、私は中学生の時、2度教室にゴキブリが進入された事があります。
1回は先生がどうでもいい紙越しに踏み潰しました。その紙にゴキブリの体液が……。
2回目は友達が椅子でゴキブリを見事につぶしました。……ゴキブリのパーツが四散したんです。うわあああっ!!!(笑)

今回はフォント多用してますね。
まあ、フォントは使うために存在しているのだから、使えば使うほどいいのかなと思ってますが。

何かしょうもない話となっていますが、とりあえずは個人的には普通の出来と思ってます。
これからもっともっと二次創作小説が書ければいいのですが。
アルトリアがやらねば誰がやる。という所は、まあ皆様知っていると思いますが…。

「たったひとつの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体、鉄の悪魔を叩いて砕く、キャシャーンがやらねば誰がやる!」

そこからもじってます。実写版の戦闘シーンは迫力ありますね。CGであそこまでリアルに表現できるのは凄いと思います。

他には仮面ライダーブレイドとか。ゴキブリのアンデッドなんて嫌です(笑)



それでは、あとがきはこの辺りで。
また別の作品でお会いいたしましょう。