すぱいらるSSS


カノン

放課後…小夜子は久しぶりに図書館に赴いた。
図書館にはほとんど人はおらず、一人で独占しているような雰囲気であった。
適当に見ていたものの、何も無かったようで、図書館を後にした。
教室に戻ろうか…と、思っていた小夜子は数多くある音楽室の中で一番、人気の少ない
音楽室の前に通りかかった。聞きなれた雰囲気の音色が聞こえてきた。
「これは……」
小夜子は中を覗き込むと、見慣れた人がピアノの前で指を走らせていた。
“天使の指先”と謳われたその指先から流れる旋律はまさしく天使が舞い降りんばかりに
美しい音色であった。
小夜子は音を立てないように教室に入った。彼は気付かず指を走らせた。
演奏が止むと、彼は顔を上げた。まるで、入ってくることが分かっていたようであった。
「知っていたんですか?」
「ああ、だから弾いていたんだ。あんたなら分かるだろ?」
「歩さんらしい表現ですね」
「俺は素直じゃないからな」
「良いですよ。それでも…。歩さんの気持ちがわかれば」
そう言うと小夜子は近づいた。そして小夜子は歩を横目に鍵盤に指を走らせた。
それほど、得意ではないようで少しつたない指の動きではあったが、それでも綺麗な
旋律を奏でた。それの旋律が終わりを告げると、歩は小夜子を見つめた。
「それがあんたの想いか?」
「そうです」
「まぁ、一回くらいならな」
そう言うと、歩は小夜子を抱きしめた。
二人は音で会話をしていた。そう、それぞれが奏でた旋律に意味をこめて…。
歩が奏でた旋律はモーツァルト作曲カノン『心やさしく君を愛す』
小夜子が奏でた旋律はベートーヴェン作曲カノン『恋人の腕に安らかに憩う』
二人は光が満ちる音楽室で、仲良く旋律の中に身を沈めた……。


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