ガタガタと揺れバスは進んで行き、やがて止まる。
そこは―――――――――
『第二話 修学旅行』
青い海、青い空。
完全なロケーションを持つ一週間滞在する旅館。
ここが修学旅行の目的地。
「やっと着いた〜〜〜……」
葉瑠佳さんがげんなりした雰囲気で呟いた。
そんなにバスの中は暇だったんだろうか。
「結構時間かかったね〜。それでも私はりんちゃん達とお話ししてたからあんまり実感なかったけど」
「あたしもそう思う。というよりはるかも十分はしゃいでたような気がするんだが…」
「それはそうですけど…。でも誰も相手してくれなかったじゃないですカ……」
「……バスの中であんなテンションでたら誰も相手にしてくれなくて当然です」
皆で葉瑠佳さんを責めている。
あ、葉瑠佳さんがいじけた。
「ぶぅー、もういいですヨ。私なんかいないと思っていてくださいヨ!」
「……わかりました」
「そこでわかっちゃ駄目でしょ!?」
流石西園さん。皆の予想の斜め上の答えを持ってくる。
「もぉ、西園さんもそんな事言ったら駄目でしょ?」
やんわりと西園さんに注意する僕。
それでも葉瑠佳さんの機嫌は直らない。
「葉瑠佳さんもいじけないで、ね?」
完全にいじけている葉瑠佳さんをあやす僕。
「うー、だってぇ……」
「それなら葉瑠佳さんの相手は僕がするからさ」
その言葉を言った瞬間、葉瑠佳さんの目は輝きを取り戻した。
ついでに周りの視線が冷たくなった。…………なんで?
「ほんと!? じゃあ理樹君、おんぶしてください!」
「……はい?」
昨日耳掃除をしたばかりなのに変な声が聞こえてきた。
幻聴かな? 幻聴だったらどうしよう……。
「だからおんぶですヨ。理樹君が私を背負うの」
「もう一度聞くけど、なんて?」
「だ〜か〜ら〜、お・ん・ぶ・ですヨ!」
「……なんで?」
「さっき私の相手してくれるって言ったじゃないですカ」
葉瑠佳さんの中では相手をする=おんぶをする事に変換されているらしい。
「確かに僕はさっき相手をするって言ったけど、おんぶをするって言ってないよ?」
そう、そのはずだ。僕はおんぶをするなど一度も言ってない。
それより恥ずかしくて出来やしない.
「別に私の相手してくれるっていうんならおんぶだっていいはずです!」
「全然よくないよ!」
僕と葉瑠佳さんの話がヒートアップしてくる中、神の仲裁が入った。
「ほら葉瑠佳君、そんな所で駄々をこねるな。皆の邪魔だ。
それより私の邪魔だ」
もはや威厳は神の領域に達している来ヶ谷さんが歩いてきた。
「うー、姉御酷くないっすか?」
不満顔で尋ねる葉瑠佳さん。
「全然酷くない、むしろ優しすぎだと私は思うぞ? なぁ、理樹君」
いきなり話を振ってきた来ヶ谷さん。
この場合、僕はどっちの味方をしたらいいんだろう?
「えぇっと、その……」
僕が返答に迷っていると来ヶ谷さんが手を肩に置いてきた。
「私の言っている事の方が正しいよな?」
そう言いながら僕の肩に置いている手に力を加えてきた。
これは明らかに肩を潰そうしている!?
「う、うんっ、来ヶ谷さんの方が正しいよ!?」
答えた瞬間、来ヶ谷さんは力を抜いてくれた。
力を抜いてくれなかったら絶対肩は潰れてただろうな……。
「ほらみろ。これに懲りたら理樹君にそんな無茶な要件を言わないで隅で虫みたいに静かにしていろ」
結構な毒舌を吐いて去っていく来ヶ谷さん。
来ヶ谷さんが去っていくのを見送った後、葉瑠佳さんの方を見てみるともの凄く怒ってた。
「ぶー、理樹君なんて知らないもん!」
怒りながら去っていく葉瑠佳さん。
今のは僕が悪いのか?
「ん〜、一応後で葉瑠佳さんに謝っておかないと……」
悩んでいると後ろから声がかかった。
「理樹、早く行こうぜ」
「そうだな、さっきのは理樹は悪くないのだからそんな悩む必要もあるまい」
声をかけてきたのは親友の二人。
「うぅん、そうだとしても怒らせちゃったことは事実だからキチンと謝るよ」
「そうか、理樹らしいな」
謙吾は少し笑いながら僕を見つめた。
僕も謙吾に笑って返した。
「ほら二人とも早く行こうぜ。他の連中はもういっちまったぜ」
周りを見ると僕ら以外誰もいなかった。
「ほんとだ、それじゃ僕達も行こっか」
そうして僕達は旅館の方に歩きだした。
少し歩くとふと思ったことがあったので二人に尋ねてみよう。
「今ごろ恭介は何してると思う?」
僕達は2年生で恭介は3年生。
僕達の学校は2年生の時に修学旅行に行く事になっている。
恭介は去年に修学旅行に行き、変なお土産を買ってきたことがまだ記憶に残っている。
「どうだろうな。いつも通りマンガでも読んでるじゃないか?」
「でもあいつどうにかして俺達の修学旅行についてこようとしてたぜ?」
ほんと僕達のリーダーは変なところで子供っぽい。
修学旅行前日は皆で恭介を説得するのは苦労した。
「実は僕達のバスの荷台の中に入っていたりして?」
「「さすがにそれはないだろ」」
二人の声が重なって僕達は笑った。
三人で笑っているとまた後ろから声が聞こえてきた。
それは僕達の身近な人物の声だった。
「流石理樹だな。俺が隠れている場所を言い当てるとはな」
後ろから颯爽と歩いてくるのはここには絶対にいない筈の恭介だった。
「なんで恭介がここにいるの!?」
「なんで恭介がここにいるんだ!?」
「なんで恭介がここにいるんだよ!?」
三者三様の驚きをする僕達。
そんな中恭介はさも当然のように、
「お前らが修学旅行に行くのに俺だけが行かないなんて不公平だろ?」
「いやいやいや、恭介は去年行ったでしょ?」
「去年は俺一人で行ったんだ。お前達とは一緒に行ってない」
「その考えはおかしいでしょ!? だいたい学校はどうしたの? 恭介は今年で学校を卒業するんだよ?
就職先もまだ決まってないのに……」
二人も困惑顔で恭介を見る。
けど恭介はそんな事はどうでもいいと言わんばかりの感じで、
「俺はお前らと一緒に修学旅行に行きたかったんだよ!」
唖然とする僕達。
「俺だってこんな事はやっちゃいけない事だとはわかってるさ。
でもな? 学年が違うからお前らと一緒の思い出を作るにはこういう事をするほかなかったんだよ……」
「でも―――――」
僕が次の言葉を言おうとした瞬間に謙吾が止めに入った。
「理樹、わかってやれ。俺だって恭介と同じ立場なら同じことをしたさ」
「はぁ…………学校の方は大丈夫なの?」
僕は諦めてため息をつきながら恭介に聞いた。
「その点について抜かりはないぜ」
さっきの落ち込んだ顔が一転して輝かんばかりの笑顔で答える恭介。
僕もこうは言っているが本当はうれしいのだ。
「なら先生に見つからなければ大丈夫かな?
でも恭介、泊まる場所はどうするの?」
一番問題がありそうな事を聞く。
そしたら恭介はまたもや当然のように、
「それはお前らと同じ部屋に潜入するに決まってるだろ?
幸いお前らの部屋にはお前ら以外の人間がいないんだからな」
なぜか僕達の部屋割が知られている。
まぁ恭介だからあんまり気にしないけど。
「まぁ大体の事も決まったことだし……。
それじゃ行こっか」
「「「おう!」」」
そうして僕らは歩きだした。