「プロローグ〜幻想の盟約〜」





 ひらひらと。
 ひらひらと雪が舞い降りてくる。
 深々と、音も無く静かに降りてくる雪は、
 同時に全ての音を消していく。
 廊下を歩く音も、窓の外を通る車の音も。
 ドアを叩く音も、昔大好きだった、今でも大好きな従兄弟の声も……

「……名雪、メシ、ここに置いておくぞ」

 聞こえているのに、でも私のいる所には声は届いてこない。
 いつの間にか、部屋にいたはずなのに私の体は雪に埋れている。
 ……雪? なんで部屋に雪が入ってくるの?

 ……どうでもいいや

 そのまま私は雪に身を任せる。
 そういえば、雪なのに冷たくない
 いつの間にか私は部屋ではなく何も無い、ただ広いだけの所にいた。
 いや、ここには何も無いけど私の目の前には私の家がある。
 周りにだって、見渡せばいつもの見慣れた家々が立ち並んでいる。

 でも、私のいる所には何も無い。

 私の周りに家はあるけれど、私はその中に入れない。
 なんでかは分からないけど、それは確かな確信だった。

「すごいね、もうそこまで分かるんだ」

 突然、でもあたりまえのように後ろから声が聞こえてくる。
 私は驚く事もせず後ろを振り返る。

「うん、あそこは私がいた場所」

 振り返った先には小学生くらいの白いワンピースを着た少女と、
 私と同い年くらいの男の人が立っていた。

「おまえも――を望んだのか?」

 男の人が私に話し掛ける。けど、私とはいる場所が少しずれているのか、少し声が聞き取りづらい。

「ううん、違うよ。もちろん、ここにいる以上少しは望んでいるのだけれど、
 あの子が望んだのは別のもの、例え幻だとしても欲しい、母親との……家族との幸せ。
 偽りの幸せ。虚ろなる家庭。虚像の日常。つまり、虚構の現実」

 ビクッ、と私の体が震える。
 少女の声は暖かく。
 けれど冷たく、やさしく、残酷に、楽しそうに、悲しそうに。
 矛盾の感情をはらんだ声が、私の中に入っていく。

「あなたが望むのなら、私はあなたに偽りの幻想をあげるよ」

 一歩前に出た少女が、そう言った。
 私ですら気付かないままに、自分より幼い子供に、私は助けてほしいと手を伸ばす。

「けれど、もしそれが終わったら、あなたは私たちと同じところに来るんだよ。それが幻想の盟約」

 少女と男の人はやさしく、けれど悲しそうに私を見る。

「ううん……私たちとも別の場所、かな。私たちと似た場所に。私はただの、案内人。
でも盟約主は別。私はその人とあわせるだけ」

 私はもう盟約を結んでるから、と少女は言う。

「たとえ幻でも、またお母さんと一緒にいたい?」

 少女が私に聞く。
 雪の降る中、少女はまるでお母さんのように優しい目をして私を見上げている。
 男の人も優しい、けれどやっぱり悲しそうな目をして私を見ている。
 私は……

「私は……またお母さんと一緒にいたい」

 迷うことなく、むしろ縋りつく声が喉から出てくる。

「幻でもいいよ、またいっしょに、お母さんと一緒にいくらしたいよ!」

 2人は泣き叫ぶようにいう私を見つめる。
 一瞬、悲しそうな、哀れんだような目をした気がするけどすぐに優しい目で私に近寄っていきた。
 少女は私のほおに手を伸ばす。
 届くはずが無いのに、少女は私のほおに手を添える。

「じゃあ、幻想の盟約を……」

 そう言って少女は優しく口づけをする。
 優しく、暖かく、少女と軽く口づけを交わす。
 それと同時に、私は夢から覚めていく感覚を覚える。
 その前に、聞かなきゃ……

「あなた達は、誰?」
「オレは」
「私は」

 けれど、私はその答えを最後まで聞く前に夢から覚めていった。







「名雪、名雪」

 ゆさゆさと、私の体が揺さぶられている。
 それと同時に、私は目が覚めていくのを感じる。
 それに、なんだか懐かしい声が聞こえたような・・・
 この声は……

「……お母さん?」

 目を開けると、そこにはやさしく微笑むお母さんがいた。

「お母さん!」

 気が付くと、私は嬉しくてお母さんに抱きついていた。

「あらあら、しょうがないわね」







 さっきここを訪れた少女の母親は、名雪と言う少女を優しくなでていた。
 それを近くで、でも遠くからオレたちは眺めている。

「……悲しいね」

 隣にいる少女は一人泣きじゃくる少女(・・・・・・・・・・)を見てそういう。
 少し気を緩めると、俺たちですらその母親は見えなくなる。

「あいつには、ちゃんと支えてくれる人たちがいるのにな」
「あなただってそうだよ。気が付いてるの……わかってるんだよ」
「ああ。でももう暫らくこっちにいるよ。お前の事もあるし、それに……」
「あのこのことが心配なんだよね」
「ああ、これからが大変だな」

 オレ達は泣きじゃくる少女を背に去って行った。







あとがき



古いSSを発掘したので、ちょこちょこっと手直ししてみました。
これもCo-de同様、シリアスものです。
Keyの名雪をメインに置いたSSです。ちょびっと他も交じってますが。

ネタは、Co-deみたいに授業中に電波受けてノートの端に書いてた記憶があります。
今も昔も、あたしはあんまり変わらないみたいです。

これも過去、公開してて完結しなかった作品のひとつです。
シリアス、苦手みたいです。
昔作ったプロットが既に失われてるので、完成させるのは無理かもしれませんね。

一から練り直してもいいんですけど、結構難しい気が。