「りきちゃーん、ごめんね〜」
「スマン……理樹」
「……ふん、鈴も小毬さんも知らない」
「う、うわあぁぁぁんっ! りきちゃんに嫌われたぁ……」
「うみゅ……」
小毬さんと鈴が盛大に落ち込む。けど、これくらいは言ってやらないと気が済まないよ……もう。
天国のような地獄な時間が終わった後、ボクはやつれた姿で授業で使う道具を運んでいた。
そんなボクとは対照的に、他の人たちはみんなつやつやした笑顔でボールを運んだり、体育館を区切る仕切りネットを張ったりしている。
うう……ボク、おんなのこに汚されちゃった。もしあんなのが日常のスキンシップだっていうなら、この先身が持たない気がする。
「まあ、許してやりたまえ理樹君。君もキモチヨカッタだろう?」
「諸悪の根源が何を言ってるのさっ! それと、言い方がなんかヒワイだよっ」
「でも、直枝さんも感じていませんでしたか?」
「かんっ!? ないっ、全っ然ないから!」
しれっとした顔で西園さんはとんでもない事を言う。しかもか、感じ……だなんて!
「『と言い返しつつも、さっきまでの行為を思い出してボクは顔が赤くなるのだった』」
「わふー! これがいわゆる『嫌よ嫌よも好きのうち』なのですーっ」
「だから違うってば! 西園さんも、変なナレーションいれないでよっ。しかもわざわざボクの声真似までして」
「でもお前、現に顔真っ赤だぞ」
「〜〜〜っ!!」
鈴の一言にただでさえ熱い顔がさらに熱くなる。
なんていうかもう、みんなのいい玩具だった。
「もうっ! さっさと準備して練習始めようっ」
手にしたボールを落とさないように注意しながら、駆け足でみんなから離れていく。
「……逃げましたね」
「逃げちゃったねぇ……」
後ろからまだ何か聞こえてくるけど、突っ込み返したらまた弄られそうだから何とかスルーする。
大体、あんなのが気持ちいい……なんて……
って、だからここで反応したらみんなの思うツボなんだってば!!
直枝理樹ちゃんの受難
〜りとるばすたーず(一部)vs余り者チーム〜
なんだかんだで準備も終わって、10分くらい準備運動をした所で笛の音が鳴る。
今の体育の授業は選択球技だった。あらかじめ選んだ球技ごとに授業が始まるため、集まった人数は普段より少ない。
それでも、2クラスの三分の一くらいがこの球技を選んでるため他に比べれば人数が多い。
「よし、んじゃまー今日は前の予告通り、試合を実際にやってみるかんね。10分以内にチームを組んだらさっそく始めるよ。
一応トーナメント形式で最後までやるから、手早く準備をすること。人数が足りないチームは誰か助っ人を……っと、。
そういや一人増えたんだっけ。ならちょうどいいね。みんな、直枝を仲間外れなんかするんじゃないよー」
「はーいっ」
なんというか、ノリが小学生みたいだった。というか相変わらず順応能力高いなぁ、教師もみんなも。
「うん、いい返事だ。そしたら組み終わったチームからあたしの所に報告に来るように」
教師がそう言って壁際に置いた椅子に座ると、とたんにみんながざわざわと話し出す。
けど、ただ隣の人としゃべり出したっていうよりはいつもいるグループで固まって話してるような感じ。
もしかしたらみんな、仲間内で一緒の選択を取ってるのかもしれない。そういうのは、男子とはちょっと違うなぁと思う。
男子は結構好き勝手にやりたいものを選んでたし。
まあ、今はボクもみんながいるからバスケを選んだから一緒なのかもしれない。
「さて、チーム分けなんだが」
というわけでボクたちも6人で集まったわけなんだけど。
「バスケ、5人なんだよね」
「うむ、そうだ」
基本的に、というかバスケは普通5人でやる球技だ。
人数が少なかったりすれば、変速でハーフコートの3人とかいう人数わけもあるかもしれないけど、意外とバスケを選んだ人が多かった。
だから普通のルール、きちんとオールコートの5人チームで授業をするんだけど。
「こまったねぇ……」
既に完成してた所に、ボクという6人目が入ってしまうと一人あぶれることになる。
本当なら揃ってる所にボクが割って入るわけにはいかないから、当然ボクは別のチームに加えてもらわなきゃいけないんだけど。
「あと人数が足りないチームってどこなんだろう? 確か先生は『ちょうどそろった』みたいなこといってたけど」
「わからん。けど、理樹を他に回すわけにもいかないだろ」
「そーですねぇ……やっぱり入りづらいでしょうし」
ということで、こうして話し合うことになった。
ボクとしては、最初はこの5人でチームを組む予定だったんだろうから他にいれてもらっていいんだけど。
やっぱり心配ということでみんなが気をまわしてくれる。
「うーん、でもやっぱり悪いよ。だってここはもう選択を取った時にチームが決まってたんだから。ボクだったら別にどこでもいいし」
「けど、それでは直枝さんが苦労すると思います。相手の方々も、もしかしたら困るかもしれませんし」
「そう言われると、そうだけど」
「うみゅ……」
6人で顔を突き合わせて唸る。
やっぱりボクが他の人と組んだほうが簡単に収まるんだけど、相手のことまで考えるとちょっと足が鈍ってしまう。
基本的には受け入れられてるとは思うけど、やっぱり分からない部分も多いし……
けど、よく考えるならこんなことはきっとこれからもたくさんあるかもしれない。すぐに戻れるわけじゃない以上、まわりと溶け込むことも必要だと思う。
そう考えて、やっぱりボクはどこかに入れてもらおうといいかけたとき、
「あの」
後ろからきれいなアルトの声が聞こえて、ボクは振り返った。背丈がボクとおなじくらいの、長い髪をした人こっちに近づいてきていた。
少し茶が入った腰くらいまでの長い髪はシンプルな赤い髪留めで止められていて、一部だけ前に流している。
それが少し邪魔なのか、右手で後ろに流す姿がさまになっていて、そこを切り抜けば何かのワンシーンに使えそうだった。
そんな人が、柔らかい微笑を浮かべながらボクらに話しかける。
「ん……? 君は、確か冬篠女史とよく居る」
「うん、和久津」
来ヶ谷さんは顔を知ってたのかそう言う。というか、一応ボクも顔と名前だけは知ってる。
隣のクラスにいる、ちょっと可愛いけど物静かで孤高の優等生として、対でいる冬篠さんと共にちょっとした有名人だ。
「えっと、僕たちのチームまだ4人しか集まってなくて。あと決まってないのここだけみたいだったから」
あ、もう他は決まったんだ。
見渡してみると、確かに二つのグループが集まって談笑している。
残ったのがボクたちと、この長髪な和久津さんたちのチーム。
どんな人かそれ以上はあまり知らない。ただ、通称『天災』さんって呼ばれる冬篠さんと唯一よく話す人、ということだけは知ってる。
つまり、この人も少し変ってる人なのかもしれない。
「それで、多分直枝くんがあぶれて困ってるんじゃないかなと思って」
「いや、別にあぶれてるわけではないが……まあ流石に元・男を余所様へ押し付けるのも悩みモノでね」
なんか扱いが酷かった。
「僕たちでよかったら引き取るけど」
「え、いいの?」
意外なことに、向こうから提案がきた。
「うん。元々僕たちも寄せ集めみたいなものだし、多分誰も気にしな、ってうわ!?」
「それにっ! 少しはみんなと触れあった方がいいよ直枝君。最初から身内に引きこもってたら、ずっと女の子に馴染めないよ」
「……いきなり人の上に乗っからないでね、椎野さん」
和久津さんの言葉を引き継ぐように、椎野さんがその背に飛び乗ってそんな事を言う。
いきなり飛びつかれて、和久津さんはで少し困った顔をしてどうしようかと悩んでる。
あ、あまりそういうスキンシップに慣れてないのか、少し顔が赤くなってる。やっぱり女の子でもあまり得意じゃない子もいるんだ。
「いや別に、あまり積極的には馴染まなくてもいいんだけど」
馴染んだら元に戻った時に困りそうだ。
でも、この提案は渡りに船かもしれない。馴染む、は置いておいてもやっぱり少しは他の人たちとのコミュニケーションも図っておきたい。
あまり仲間内に籠ってばっかりだと、いざという時に困りそうだし、少しでいいから他の人とのつながりは持っておきたい。
なにより、天災さんに変わり者委員長の二人がそろったチームなら、あまり気を使わなくて済みそうだ。
「ふむ、そういうことなら。理樹君が女の子の集団に慣れるのにもいいかもしれないな」
「ん、それじゃあ理樹は向こうのチームに行ってしまうのか?」
「うん。元々みんなはもうメンバーがそろってたわけだし。和久津さんたちもボクが入ってもいいみたいだし」
「うんうん、むしろ来てよっ。直枝君、いっつもみてるとなんだか面白そうだし」
満面の笑顔でそう言われる。なんか、軽く珍獣扱いみたいだ……
流石に重くなったのか、和久津さんは圧し掛かったままの椎名さんをひょいっと下におろした。
「まあ、というわけだからよろしく」
「うん、こちらこそ」
差し出された手を何となく掴む。優等生らしい、流れるような動作だった。
となりでは子供みたいにはしゃぐ椎野さんと、肩越しには頭を下げる天災さんと椎野さんの友達。
どうやら和久津さんと椎野さんのグループ同士が合体した所にボクが入った、まさしく寄せ集めのチームらしい。
「ふわ〜。それじゃありきちゃんと戦うのかぁ」
「わふー、面白くなりそうなのですっ」
「……手加減してくださいね?」
「なに、せいぜい遊んでやろう」
なぜか仲間に宣戦布告をされた。
あ、でもこの時間中は対戦相手だから別におかしくないのか……。
不敵に笑う来ヶ谷さんに笑顔の小毬さんにクド、何気に楽しそうな西園さんがこっちをみている。
「理樹」
「なに、鈴?」
「負けないからな」
「こっちこそ」
ふっ、と笑う鈴にボクも笑って返す。
普段はみんなで一緒になって何かと闘ってきた鈴たちと、今度は戦う。
そう考えると途端にやる気が出てきた。
「あははっ、みんなやる気だねっ! よーし。それじゃあ、あたしも頑張るよっ!」
隣で見てて触発されたらしい椎野さんが威勢よくそういって、先生の所へ報告するために走って行った。
なにやら楽しくなりそうな授業になってきた。
あとがき
色々苦労しつつ、なんとか11話です。
割とちょろちょろとリトバス外からキャラクターが出てますが、次の話くらいで椎野とかはフェードアウトしていきます。
本当はここまで絡む予定もなかったんですけど、クラス内でからませるキャラクターも欲しかったのでついでに使っちゃってますw
ちょこっとスランプは脱出できた、かも?

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