※7,8話統合前から読まれてる方へ※
この7話は、仮状態の7、8話がくっ付いてます。





「ふぁ……」

 携帯が鳴る前に自然と目が覚めた。
 寝ぼけながらも、強い願いを込めながら体を確かめてみる。

 ……残念なことに、女の子の体だった。
 夢だったらよかったのにという希望は、あっけなく砕け散った。
 そもそも、見慣れない部屋だから起きた瞬間に分かってたんだけど……

 普段と違うベッドに慣れなかったのか、携帯を見るとまだ6時前だった。
 寝なおしてもいいけど……そうすると今度は起きれない気がしたから、二度寝の誘惑に打ち勝って起きることにする。

「ん……あれ?」

 ベッドからそっと抜け出して、小毬さんを起こさないように顔を洗おうと思ってふと見たら、隣のベッドは空だった。

「あ、理樹ちゃんおはよう〜。思ったより朝早いんだね」

 声がした方に振り替えると、タオルで顔を拭きながら小毬さんが出てきた。







直枝理樹ちゃんの受難〜初めての朝〜






「おはよう、小毬さん。朝早いんだね」
「そう? 普通だよ。女の子は色々準備があるから大体これくらいだよ〜」

 ゆっくり丁寧に、タオルを肌に押し当てるようにして水気を取りながら、小毬さんが部屋に戻ってくる。
 とりあえず、ボクも顔を洗うことにする。
 えっと、タオルはどこに仕舞ってあるんだっけ……

「あ、あった……って、しまった」
「? どうしたの〜」
「そういえば洗顔ソープ、部屋に置きっぱなしだった……」

 昨日荷物を取りに行った時はまだ混乱しててうっかり忘れちゃったみたいだ。
 どうしようかな、取りに行ってもいいけど……今日は別に石鹸でもいいかな。

「男子寮のほうに忘れたの?」
「うん、でもまあいっか。今日は寮の石鹸で洗うよ」
「だめだよ〜理樹ちゃん。寮の石鹸なんかで洗ったらお肌が荒れちゃうよ」
「まあ、寮に備え付けであるやつは安っぽいからそうなるけど、別にボクはあんまり気にしないし」

 一応、寮には備品として一通り道具がそろってたりする。
 洗顔用の石鹸から、ボディーソープ、シャンプー。ただ、質は物凄く安っぽい。
 だから男子でもあまり使ってる人はない。それくらい質が悪かったりする。
 毎日それで洗えって言われたら流石に困るけど、一日くらいなら別にどうでもいい。

「理樹ちゃん? 女の子がそんなんじゃダメです。お肌には気を使わないとダメだよ〜」
「でも、一日くらいなら別に……」
「だーめ。私の貸してあげるよ。だからそっちで洗いましょ〜」
「いいの? 小毬さん」
「うん。ルームメイトだからそれくらい全然おっけー、ですよ〜」

 はい、と小毬さんがチューブに入った洗顔フォームを持ってきて渡してくれる。
 CMでよく見る、最近出たばかりのものだった。

「ありがとう、小毬さん。それじゃあ借りるね」
「うん。あ、歯ブラシとかはちゃんと持ってきた?」
「そっちは昨日ついでに買ったよ。ちょうど買い換えようと思ってたし」

 ついでに新しい歯ブラシももって、洗面所に行く。
 とはいっても、備え付けの簡易キッチン……水道と流しだけの場所だけど。

 まだ少し寝ぼけた頭を、一度冷たい水で完全に叩き起す。
 そのあと一度水分を拭き取って、歯を磨く。
 よく真人は、人の歯磨き粉を勝手に使っては「スカスカして気持ち悪い」とか自分勝手に文句を言ってた。
 そういうのが苦手らしくて、真人の使ってるやつはあまり刺激のないタイプだ。
 だからこそ、真人が勝手に使わないようにボクはあえてそういうタイプのを選んでたんだけど。

 磨き終わって、歯ブラシ立てに入れようとして、そこで手が止まった。
 まあ、一緒の部屋だから当たり前なんだけど、小毬さんのものが先に一つ置いてあった。
 何となく気恥しくて、あえて一番離れた場所に置いた。
 この方がすぐに分かるし、どっちにしたって便利だろう。
 その後は小毬さんから借りた洗顔ソープを使って手早く顔を洗う。
 時間にして、10分もかかってない。
 女の子だと、もっと洗顔に時間をかけたりするのだろうか?

 そんな事を考えながら顔を拭いて、小毬さんに言われた場所に洗顔ソープを戻しておく。
 今日、学校が終わったら買いに行かなくちゃいけないかな。



「小毬さん、ありが、と――」

 お礼を言いかけて、ボクは動きが止まる。

「ううん、どういたしまして〜」

 ちょうど、胸の脇あたりでなにか手を動かしながら小毬さんがそう返事をした。
 慌てて後ろに振り返って、その姿を視界から外す。

「ご、ごめんっ」
「ん? どしたの理樹ちゃん?」
「だって、その、着替えてたみたいだから……」
「ふぇ……? 別に気にしなくてもいいのに」
「でもほら、悪いし……」
「うーん……でもそれだと大変だよ、理樹ちゃん」

 苦笑するように小毬さんがそう言う。

「だって、体育の授業で着換える時、理樹ちゃん女子の方だよ」
「……忘れてた」

 あたりまえだけど、体育の時間は体操着に着替える。
 そして着替えるってことは、みんな多少なりとも服を脱ぐってことで……

「どうしよう……というか、ボクはどっちで着替えればいいんだろ」
「ふぇ? 女子の方だよ〜。今の理樹ちゃんが男子の方で着替えたら大騒ぎだよ」

 確かに、この体じゃ男子の方では着替えられないけど……だからって女子の方で着替えるのもどうかと思う。

「んー……多分だいじょ〜ぶだよ」

 けど、小毬さんは実に簡単にそう言った。

「うん、理樹ちゃんは可愛いです。だからきっとだいじょうぶだよ」
「いや、でも……」
「どっちかっていうと、理樹ちゃんのほうが覚悟した方がいいかも……」
「え?」
「ううん、気にしなくていいよ。うん。とりあえず体育の着替えはだいじょ〜ぶ。理樹ちゃんは普通に着替えればいいのです」
「う、うん……小毬さんがそういうなら……」

 激しく不安だけど、小毬さんがそう言うならとりあえず信じることにする。
 最悪、トイレかどこかできがえればいいだろうし。

「それじゃー理樹ちゃん。着替える前に、お肌のお手入れしちゃいましょ〜」
「え?」

 気づけば、小毬さんがいろいろなものを手にして椅子に座っていた。
 手にしてるのは小さいボトルに入った色々な液体。
 化粧水とか乳液、というやつなんだろうか?
 ……それをボクがつけるの?

「えっと、ちなみにやらないと……ダメ?」

 一応ダメ元で聞いてみる。

「せっかく綺麗なお肌してるから、しないと勿体ないよね」

 結局、抵抗する間もなく、小毬さんに化粧水やら乳液の塗り方を1から教わる羽目になってしまった。



「はい、できました〜」

 小毬さんに色々塗られること、5分。
 ようやく終わったらしい。

「ね? 簡単でしょ?」
「うん、まぁ……」

 基本的に手に取った化粧水とか乳液を丁寧に顔に塗っていくだけだった。
 どんな効果があるのかイマイチ分からなかったけど、やることは簡単だった。

「これくらいなら時間もかからないし、今日から理樹ちゃんもしっかりスキンケアをしましょう〜」

 なんでもないように言う小毬さん。
 女の子って毎朝こんなことしてるのか……

「女の子って、大変……」

 そんな事を思う朝だった。



「それじゃあ、ブラのつけ方教えるね」
「あ……うん……」

 昨日付け方を知らず、今朝小毬さんに教えてもらうことになったんだけど。
 改めて考えなくてもやっぱり恥ずかしい。
 着替えと一緒に、下着を出す。
 ……なんかお風呂に入ってないのに下着を出すとか妙な気分だ。

「あ、私が選んだのだ」
「え、うん……なんとなく」

 小毬さんに付け方を教えてもらうから、その方がいいかなって思っただけだけど。

「えへへ、なんか嬉しいよ〜」
「そ、そう?」
「うんっ。それじゃあ、ばっちり教えちゃいますよ〜」

 やる気120%、教える気満々と言った感じの小毬さん。
 そんなに嬉しかったのかな。

「うーん……でも言葉だけだと説明しづらいかも」
「難しいの?」
「そうじゃないけど……どういえばいいのかなぁ……」

 うんうんと悩む小毬さん。
 後ろのホックの止め方だけ教えてもらえればいいんだけど、そんなに難しいのだろうか。
 確かに口では説明しづらいかもしれないけど。

「ふぇ? ううん、それだけじゃダメだよ〜。ちゃんとしないと意味ないよ」
「え、ただ肩ひも通して後ろで止めればいいんじゃないの……?」
「それじゃダメです。あのね、ちゃんとカップの中に胸を入れないとダメなんだよ」
「そうなの?」
「うん。胸を支えるためのものだから、ちゃんと入れてないと意味がないよね? 
 そうだねぇ……うん、一回実演してみましょ〜」

 そういうや否や、すでに着てたワイシャツのボタンとぷちぷちと外しだす小毬さん。
 って、えぇ!?

「待った小毬さんっ」
「ふぇ? どしたの理樹ちゃん」
「いきなり目の前で脱がないでよっ。ほらその、目のやり場が……」
「うーん? やっぱり恥ずかしい?」
「恥ずかしいっていうか……うんまあ、それもあるし……やっぱり女の人の着替えをみるのは……」
「理樹ちゃん? なれないとダメだよ〜。うん、この際そっちも練習しちゃいましょ〜」
「うわっ、こ、小毬さんっ!!」

 あわててばっと後ろを向くけど、一瞬だけワイシャツを脱いだ小毬さんが視界に映った。
 意外と大きかった……じゃなくってっ!!
 ボクのバカ! 何考えてるんだ。

「ほら理樹ちゃん、こっち向いて〜」
「わっ」

 くりんと肩を回されて、元の方向に視線を戻される。
 って、うわわわわ!?

「もー、そんなんじゃこれから困っちゃいます。だから、慌てないようになれちゃいましょう」

 ぱくぱくぱく、ともう声も出なかった。
 だって、その……上に何も着てない小毬さんの、それとか……もう言葉にするのも恥ずかしい。
 頭がどうにかなりそうなボクをよそに、小毬さんはブラジャーを実際につけながら教え始める。

「本当はもうちょっと簡単なつけ方もあるんだけど、とりあえず正しいつけ方は」

 肩ひもに腕を通しながら前屈みになる小毬さん。
 もう殆ど直視できなかったけど、肝心な部分は隠れてなんとか目線をそらさずに済んだ。
 顔は絶対耳まで真っ赤だろうけど……
 小毬さんにお風呂に連れて行かれた鈴の気持ちって、こんなだったのかな。

「それで、カップの中に――」

「後はストラップを調節して、最後にちゃんと――」

 たぶん、丁寧に小毬さんは説明してくれたんだと思う。
 けど、正直殆ど頭に入ってなかった。
 ああ、でもこういうことで動揺できるってことはまだちゃんと心は男ってことなのかな……

「それじゃあ、理樹ちゃんもやってみましょー」
「ふぇ……?」

 小毬さんに声をかけられて、現実に戻ってきた。
 気づけば小毬さんはブラジャーをちゃんとつけていて、すでにワイシャツを着始めていた。

「分からなかったら私もその時また教えるから、とりあえずやってみて」
「え、うん……わかった」

 正直、よく覚えてないけど小毬さんがやってたようにやってみる。
 えっと、まず前屈みになって肩ひもに腕を通して、ホックを……

「ぶっぶー! 違います、理樹ちゃん」
「え、な、何か間違えた?」
「ホックを止めるときに体起こしちゃダメ。前屈みのままなのです」
「う、うん……わかった」

 早速ダメ出しをされた。
 その後も。

「ぶぶーっ。またまた不正解っ」

「ちゃんとストラップ調整しないとダメだよ〜意味がなくなっちゃいますっ」

 とりあえず、小毬さんはめちゃくちゃ厳しかった……



「うん、おっけーだよ。これで理樹ちゃんも、また一歩女の子♪」
「つ、つかれた……」

 思わずベッドにぐだっとへたり込んだ。
 なぜか、小毬さんはすごく厳しかった。ちゃんと教えようとしてくれてるってことなんだろうけど……
 ブラジャー一つでここまで疲れるとは思ってもみなかった……

「慣れれば難しくなくなるから、それまでの辛抱なのです」
「でも、できればホックの楽な止め方は先に教えてほしかったよ……」

 前で止めてから回すなんて、考えてもみなかった。
 きっとボクみたいに後ろ手で止められない人が考えたに違いない。
 その人は偉い。思わずそう褒めたくなった。

「それじゃー、あとは髪の毛のセットだね〜。ね、私が梳いてもいい?」
「あはは……うん、もう小毬さんの好きにしていいよ」

 疲れ果てて、もう何もする気力もなかった。

「わーい、やったー」

 ちょっと大きめの鏡を立て掛けた机のイスに座らされて、小毬さんはルンルンと鼻歌を歌いながら、ボクの頭をいじり始めた。






あとがき

 やっぱり短い区切りってなんか変に感じたので、7、8をつなげました。

 えーっと、ちょこっと作者が迷走しだしてます。
 なので、やっぱり起承転結で理樹ちゃんの受難にもちゃんとストーリーでもつけようかと思います。
 ……驚くことに、今までなかったんですよ。○●のネタを入れるか―、くらいしか。
 なので、次はちょこっと更新が遅れるかもしれません。

 が、飽きてしまうとそのままストーリーも組み立てず、思いの向くままに書きすすめます。
 どっちにしても転と結は一緒なんですけど。
 つまりプロットだけないので、今さらながらプロットでも作りますw









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