「お、きたきた……」
連れてこられたショッピングモールの入口をくぐると、恭介達がいた。
「恭介?」
来ヶ谷さんが呼んだのかな? と思ってると、恭介は白い布巻きを取り出して真人に持たせる。
そして、いつものようにだーっと走って横断幕が通路のど真ん中で広げられる。
「第一回! 理樹ちゃんファッションショー〜ドキドキコスプレ初体験〜 はい拍手ー」
『直枝理樹ちゃんの受難』
〜りきちゃんのふぁっしょんしょー〜
「恭介ー」
横断幕を広げた恭介を見て、堪らずボクは走りだす。
そのボクをみて、恭介もまた走り出す。
「理樹!」
頼もしい笑顔、といえばいいのかな? 恭介は「受け止めてやるさ」といった見るものを安心させる笑顔だった。
ボクはうれしくなる。
だから、遠慮なく恭介の許へ駈け込む。
精一杯の想いと力を込めて。
「り――」
「恥ずかしいでしょ恭介のばかああああああああああああああああああああああああ!!」
「きゃぶっ!?」
恭介の顔に全力で平手をぶち込んだ。
後で思い返せば駆け込みの速度も、腰のひねりも完璧な一撃だと自負できるものだったと思う。
今、ボクは鈴の気持ちを強く理解したと声を大にして言える。
これは、蹴りの一つでも入れたくなる。
「わふー!? 恭介さんがすっ飛んでしまいましたっ!?」
「うむ、今の理樹君の気持ちはわからなくもない。公衆の面前だからな」
驚いた声が後ろから聞こえる。
目の前にいる二人はボー然としてこっちを見ている。
恭介を叩いた勢いをそのままに二人のもとに駆け寄って、恭介から手渡されて横断幕を持ってる健吾から、それを奪い取る。
「り、理樹?」
唖然としてるのを目の前に、急いでそれを巻き取る。
最後まできっちりと巻き取って、同じように呆然としてる真人からもそれをもぎ取る。
「二人も! 恥ずかしいからこんな場所でそんなの広げさせないでよっ!」
「あ、ああ……わりぃ。つい何時もの流れでやっちまった」
「そ、そうだな……よく考えれば確かに理樹にとっては恥ずかしいな。スマン、そこまで気付かなかった」
「まったくもうっ」
怒り心頭で二人を目の前にして叱りつける。
二人とも分かってるのか、分かってないのか呆気にとられた表情のままボクの話を聞いている。
そんな僕の後ろから、みんなが近づいてくる。
「理樹、今のはいい一撃だった」
「うわわわわ! 理樹ちゃん〜、女の子が乱暴なことしちゃダメー」
「いや、今の理樹くんは十分『女の子』だっただろう。まさか理樹くんが平手打ちとは。いやはや感激したよおねーさん」
「はい、その後の恭介さんを顧みずにまっ先に幕を回収したあたりもポイントです」
「イヤハヤ、りっちゃんも完全に女の子してますネー」
みんなの言葉に、首をかしげる。
今のどこが女の子っぽかったんだろうか。
あんなことをされたら誰でも同じようなことをすると思うけど。
「理樹……」
「……ふん、帰るよみんな」
「ふぇええええ、り、理樹君!?」
盛大に落ち込んでる恭介をしり目に横断幕を片手で持ってくるりと踵を返す。
本当ならこのままどこかゴミ箱に捨て去りたいくらいだけど、こんな大きなのごみ箱に入れたら迷惑だと思うし、
なにより不審に思われて中を見られるなんて絶対に嫌だった。
「ん、帰るのか?」
「帰っちゃうですかー!?」
「しまった……恭介氏を呼んだのは失敗だったか」
「ですネ。あーあ、もったいないなぁ」
「楽しみというのは後々まで取っておくのもまたひとつの手だと思います」
「ん、それもそっかー」
慌てた声や後悔した声が後ろからぞろぞろと付いてくる。
さっきの騒動で周りの視線も集めちゃったし、出来れば走り去りたいところだけど、
こんなのをもって走ったらさらに目立つのは確実だ。
だから、できる限り早足で、不自然にならない速度でさっさと入ってきた入口を再び出ていった。
「……なんだったんだ一体」
「……まぁ、悪ふざけが過ぎたといったところだろう。正直、少し驚いたが」
「理樹……」
「ああ、理樹があんなに怒るのなんて珍しいしな」
「それだけ、恭介のあれが癇に障ったのだろう」
「理樹……なぁ、俺は一体どうすればいいんだ……」
「さあな。とりあえず、謝ってくればいいんじゃないか?」
「そ、そうだな。理樹ー!」
恭介が思い立ったが吉日、と言わんばかりに立ち上がり、一気に最大速度まで加速して走り去っていく。
その後、二人の眼に白く長いもので見事に打たれる恭介がエントランスのガラス越しに見えた。
「すまんっ理樹! このとーり!!」
ぱんっ、と両手を頭の上で合わせて謝ってくる恭介。
今は買い物から帰って、食堂に集まっている。
ボクの部屋は今は(不本意ながら)女子寮になってるし、かといって部室は今の時期まだ暑くて日中好き好んで溜まる場所でもない。
お昼もとうに過ぎた今の時間は食堂に人も少なく、集まるには持ってこいだった。
「ほんとに反省、してる?」
「ああ、本当にすまなかった。流石にあれはやりすぎだったな」
苦笑いしながら、恭介がそう言ってくる。
後ろの二人も、それなりに反省はしてくれてるらしい。
「はぁ、わかればいいよ。次からは絶対にしないでね?」
ため息をつきながら、結局服を買うのは流れちゃったなと思い返す。
特に差し迫って必要、ってわけでもないから別にいいんだけど。
でも、付き合ってくれたみんなには少し悪かったかもしれない。
「みんなもごめんね。せっかく付き合ってくれたのに」
「ううん、別にいいよ〜。元々、声をかけたのは私だったしね」
「また別の日に、買いに行けばいいと思います。普段は制服なので、あまり私服は着る機会はありませんし」
「うむ。なにより、とても女の子をしている理樹君が見られて、おねーさんはとても嬉しいよ」
「いや、特に女の子ではないと思うけど……」
不敵に笑ってる来ヶ谷さんはどこかちょっと不気味だ。
けど、実際のところ特別来ヶ谷さんが喜ぶようなことはしてないと思う。
「ふむ、気づいていないのか。それはそれで萌えるな……」
弛みきった顔で笑う来ヶ谷さん。
その表情は正直怖いからやめてほしい……
「気づいていないのにでるという行動が、より女性っぽさを出していますね」
「つまり、りっちゃんは体だけじゃなく心も女の子になってるってことですネ」
「いやいや、別になってないから」
怖い事を言ってる二人に、ボクは手を振りながら否定を入れる。
けど
「……平手打ち」
ぼそっとそう言った西園さんの言葉にピタッと動きが止まった。
「確かに、あれは女の子っぽかったですねー」
「はいっ。あの時のリキはとても女性らしさが出ていました」
「い、いや。別にそれくらいで女っぽいとかは……」
「男ならふつーは平手うちはしないんじゃないのか?」
「うむ。たいていは右ストレートでボディだろう」
いや、それは少し偏見だと思うけど……
「でも、あの時の理樹ちゃんちょっと可愛かったよ〜」
小毬さんまでそう言いだす。
自然とあの時のやり取りを思い返す。
一目散に恭介に向って走っていくボク。叫び声と共に右手で全力のビンタ。
たぶん、その時のボクは(理由はなんであれ)顔を真っ赤にしていただろう。
……あれ、そう言われると確かに?
「う、うわあああああああああああああ!!」
「うむ、状況を正しく理解したようだな」
「だいじょーっぶ。可愛いから問題ないよ〜。でも、暴力はあんまりよくないよ? 理樹ちゃん」
にこにこ笑顔でいう小毬さん。来ヶ谷さんもにやにや笑顔でこっちを見ている。
二人は当たり前のように受け入れてるけど、これは慣れちゃダメなことだ!
しっかりと意志を持ってないとなんだかダメな人間になってしまいそうだ……
「うん、大丈夫。ボクは男。立派な男の子だ。決して女の子じゃ――」
「でも、体は女性で無意識に平手打ちをするくらいには女性ですね」
「うあああああああああああ!!!」
このあと、ボクはしばらくみんなの(主に二人の)おもちゃにされて悩んだり落ち込んだりすることになった。
妙な役柄が板についてきた恭介のあとがき
「……なんか俺、このSSじゃ散々な役ばかりじゃないか?」
――ですねー。殴ってぶたれて蹴られてばっかりだねぇ
「納得がいかない! なんで俺がこんな役回りなんだ!? こういうのは普通真人の役目だろ!」
――んー、でも書くとこうなるんだよね。何でだろ?
「そんなのこっちが知りたいわっ! でもまぁ、なんだか進みの遅いSSだな」
――うっ、それは……実はやりたいことの大半って理樹が女になった最初のほうにかたまるんだよねぇ
「ま、変わった瞬間ってのが一番イベントが多くなるだろうしな」
――なにより考えなしに書いてるからねぇ。これができそう、以外は流れとか全く組んでないし
「……ちゃんと進むのか、コレ?」
――運と努力と感想しだい? 今日の人気SSを見てる限り、それなりに人は見てくれてるっぽいんだけど
「感想0だしな」
――ううー……まぁ、まだ書きづらいレベルでしかどのSSも進んでないけど
「一話もの以外はやっぱり感想書きづらいものなのか?」
――いやーどっちかってと単純に実力不足だからじゃないかなーあっはっはー
「自分でいってて落ち込まないか……?」
――あー……うん、軽く。でもだいじょーぶ! それでも書くのです。なぜならー、書きたいから
「……ま、それもアリだろう」
――うむ。やっぱ基本はそこだからねー。というか、あたし自身滅多に感想書いてこないから人のこと言えない!
「ちゃんと書いてやれよ……」
――気に入ったのは何作かあるんだけどねー。つい
「まずは自分で感想をキチンと書く、話はそれからだな」
――うむ。時間ができたらぼちぼち書かせていただく所存であります
「ちなみに、おススメはどこだ?」
――やっぱり「花盛りの〜」かなぁ。あれが読んだ中で一番おもしろい。作者mさん
「サイト構成もおしゃれだったな」
――うん。近々感想をかきに行きたいなんばーわんです
「まぁ、お前も頑張れ。そして手を広げすぎるな。また新しいの手出しただろ?」
――あははー思いついたら書きたくなる。それが性分ってやつです
「ま、そっちはちゃんと終わらせろよ。今ある三部作と違って完成させないと意味がないやつなんだから」
――うぃ! 了解であります。はじめて描くジャンルだから保障はしないけど〜
「しろよ! 保障!! まぁ、無駄に長くなるのもアレだからそろそろ終わらせるか」
――前から思ってたけど、これもはやあとがきじゃないよね?
「今更だな。さて、次回は理樹の洋服選びだ。ホントはこの話で一気に書き切るつもりだったが、予定がずれたらしい」
――ぶっちゃけ「さてどーするかなー」って感じですが、まぁ楽しんでください
「そろそろ書きたかったものとズレだしたな。軌道修正はしとけよ?」
「さて……無残にも無理やり書きなおされたわけだが」
――だって思いつかなかったんだもん。しょうがない。そして出来れば、というかぶっちゃけ小毬君と理樹で遊べればそれでいい
「ぶっちゃけすぎだろう」
――いいのだ。ではでは、次回もよろしく〜なのですー
PS:薄水色背景はもしかして目が疲れるでしょうか? 作者書いてて疲れました(ぁ

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