「理樹くーん、ベッドどっちの方がいい?」
「えーと……別にどっちでもいいけど」
「えへへー、じゃあ私こっちー。さーちゃんとのお部屋でも窓側だったの~」

 ばふっとベッドの上に倒れこむ小毬さん。
 何が楽しいのか、にこにことしながらベッドの上をごろごろしている。
 そのまま落ちないといいけど……

「でも小毬さん、その……本当によかったの?」
「ふぇ? なにがー?」

 のほほんといった感じで返してくる小毬さん。

「ほら、僕と一緒の部屋になっちゃって」
「んー? どうして? むしろ楽しみだよ~♪」
「いや、まあ小毬さんが良いならいいんだけど……」

 なんでみんな気にしないんだろう……もしかして僕が細かすぎるのかな?
 そんなことないとおもうんだけど。



『直枝理樹ちゃんの受難』
   ~初日、受難始まりの日・その4~



 部屋の引っ越しも一通り済んでひとまず解散して休憩することになった。
 (というか、一時的に移動するだけって前提で動いてるからやることは少なかった)
 小毬さんが突然何かを思いついたのはそんな時だった。

「そうだ」

 突然ベッドでごろごろしていた小毬さんが上半身を起こして手をぽんったたいた。
 やることもなく、というか変に緊張したり疲れたりして椅子に座ってた僕の方を向いて突然こう言った。

「お買い物に行きましょ~」
「……はい?」

 突然の提案に、思わず間の抜けた返事になる。

「よく考えたら、理樹ちゃんのお洋服がありません。制服は私の予備を貸せるからいいけど、私服はさすがに必要だと思うのです。
 それに下着も必要だし」
「下着!? というか、理樹ちゃんってなにさ!?」
「ふぇ? 理樹ちゃんは今女の子だから理樹君じゃなくて理樹ちゃんだよね? だから理樹ちゃん」

 うん、と満面の笑みで頷く小毬さん。

「いや、今まで通り理樹君でいいよ」
「うーん? でも理樹ちゃんは今女の子だから、やっぱり理樹ちゃんだよ」
「いや、でもほら中身は男だし……というよりちゃんづけは恥ずかしいよっ」
「だいじょ~ぶ。理樹ちゃんのほうが可愛いよ」

 何を言ってもホワンとかわしてニコニコと「理樹ちゃん」と連呼する小毬さん。
 来ヶ谷さんの気持ちが初めてちょっとわかった気がする……
 この状態になった小毬さんは、何を言ってもきっと曲げてくれない。

「はぁ……もういいや。でも、下着って?」
「うん、理樹ちゃんは今女の子なのです。だから、ブラとか色々必要でしょ?」
「ブラっ!? いや、別に今のままでもいいんだけど」

 というか、そんなの買うのもつけるのも恥ずかしすぎる……

「うーん……でもしないと形崩れちゃうよ? それに、理樹ちゃんの胸のサイズだときっと動くと擦れていたいよ?」

 よく分からないけど、そういうものなんだろうか……?
 でも、やっぱりそういうものをつけるのはさすがに抵抗があるというか

「それに、スカートを掃くのに男性用の下着っていうのもどうかと思うんだ……ほら、うちの制服スカート短いし」
「って、下も変えるの!?」

 少し照れた顔でそういう小毬さん。
 でも、確かにそう言われるとうちの学校の制服は少しスカート丈が短い気がする。
 階段とか歩くときみんな気にしてスカートの端、押さえなきゃいけないくらいだしなぁ……

「なにより、女の子は身だしなみをきちんと整えるものです。女の子なら見えないところもきちんとしなければダメです」

 少しお姉さん然としてそういう小毬さん。
 すたっとベッドから立ち上がってさっそく出かける準備を始める。

「ってちょっとまってっ! 買うの決定なの!?」
「だいじょ~ぶ。私達でかわいいの選んであげるよ」
「そうじゃなくて! って、私たち?」

 そう思ってる間に、小毬さんはすでに携帯をとり出して

「あ、りんちゃん? あのね、今から理樹ちゃんのお洋服とか買いに行こうと思うから、みんなで校門に集合~♪」
「ちょ、ちょっと小毬さん!?」

 なんか、普段の小毬さんと違って行動が素早い!?

「それじゃー理樹ちゃん」
「な、なに……小毬さん」

 思わず身構える。
 いつものにこにこした小毬さんが、今は恭介や来ヶ谷さん並に敵わない気がする。

「お買い物に行きましょ~」

 結局、成す術もなく引っ張っていかれた。



-*-*-*-




 そして連れてこられたのは繁華街にあるランジェリーショップだった。

「って、いきなりハードルが高いでしょ!?」
「でもね理樹ちゃん、下着は必要だよ?」
「そうですね……今の直枝さんは残念なことに女性ですから、最低限の身だしなみは必要かと」

 何が残念かには、あえて突っ込み入れなかった。
 お店の前で最後の抵抗をしてみるけど、女性6人が相手じゃ勝てる気がしない。
 特にこういったときは……

「大丈夫だ。おねーさんが理樹君に似合うものを選んであげよう」
「紐とかどうっすかね姉御。こー真っ赤で過激なやつを」
「ヒモですかっ! とってもあだるてぃーなのです!!」
「理樹も……きょーすけみたいに変態になるのか……?」
「ならないよっ! 好き好んで着たくないよそんなの! というかそんなの提案しないでよ葉留佳さん!!」
「そうだぞ葉留佳君。それも捨てがたいが理樹君にはもう少し大人し目のほうが似合うだろう」
「あんたもなに真剣に考えてるんだっ!」

 ああもう、せめて謙吾を連れてきてブレーキ役をしてもらうんだった。
 でも、正直今の姿はあんまりみられたくない……

「とりあえず中に入りましょう~♪」
「そうだな。ほら理樹君、観念して新しい世界に身をゆだねるんだ」
「委ねたくないよっ!」
「はっはっは、嫌よ嫌よも最初だけさ。すぐに新しい世界も気にいるさ」
「理樹君……んー、今は理樹ちゃんかな? いやいやここはりっちゃんですネ。そんなこと言って、ホントは興味あるくせに」
「ないっ! ぜんっぜんないから!!」

 がっちりと両脇を固められて、逃げ出そうにも逃げ出せない状況のまま、騒がしく入店してしまう。

「いらっしゃいませー」

 笑顔で店員さんが挨拶をしてくれる。
 うわっ、どこみても女の人の下着ばっかり……って、当たり前なんだけど。
 けどやっぱり恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
 お客さんも女の人ばっかりだし。

「少しいいかな?」
「はい、いかがいたしましたかお客様」

 テンパってる間に、いつの間にか来ヶ谷さんが店員さんを呼んで近づいてくる。

「実はこの娘、こういう店に来るの初めてでして。ちゃんとしたサイズも何もわからないので調べてもらいたいのだが」
「はい、かしこまりました。ではこちらのほうへ」
「って、来ヶ谷さん!」
「なんだ理樹君。サイズがわからないと買うものも買えないぞ?」
「そうじゃなくて、計るって……胸を?」
「胸だけじゃない。トップとアンダー、それからウェストとヒップだな」
「あの、ものすごい恥ずかしいんだけど……」
「だが必要なことだ。いいからつべこべ言わずにとっとと行って計られて来いこのうすのろが」

 そのまま放されてとん、と背中を押される。
 ちょっと先では笑顔の店員さんが待っている。
 こんなに大騒ぎしているのに表情を変えない店員さんって少し凄いかも……

「理樹」
「ん、何鈴?」
「その、あれだ……頑張ってこい」
「……あんまりがんばりたくないけど、行ってくるよ」

 鈴に励まされ、覚悟を決めて店員さんの待つ方へと行く。
 笑顔で見送る5人(鈴だけは憐れんでくれてた気がする)を後ろに歩く先は、何故か13階段を上っている気分だった。



「では測りますので、まず上を脱いでください」
「え……その、脱いで計るんですか……?」
「はい、そうじゃないと正確に計れないので」
「うう……わかりました」

 諦めて、上にきていた服を脱ぐ。
 パーカーとTシャツを脱いでハンガーにかけてると、なぜか驚いた顔をして店員さんが僕を見ていた。

「お客様……その、ブラはつけてないのですか?」
「え、あ、はい……まぁ」

 というか、昨日までは男だったんだからつけてるはずがない。
 いや、今の言い方だとまるでもう心まで女になったような気がして何かやだ。
 体は男だったんだからブラなんてもってるわけがない。うん、これならまだ……認めたくないけど……

「今までずっとですか?」
「はい……そうですけど」
「よく形が崩れずにすみましたね。これくらいのサイズですと、ある意味奇跡的ですよお客様」
「えっと、そうなんでしょうか……」
「はい。つけるのがお嫌いなんですか?」
「えーっと……まぁそんなかんじです」

 つけたことなんかないから感覚は分からないけど、どっちにしろつけたいなんて思うわけはない。

「服装もどちらかっていうとボーイッシュですし、やっぱり恥ずかしいのかしら」

 まるで思春期になって成長しだした女の子を見るような眼でみて、店員さんがくすくすと笑う。 
 ううっ……この時点でもうかなり恥ずかしい……

「それでお友達のみなさんに連れてこられたんですね。お友達の方の気持ちもわかります。
 このまま放っておくのはもったいないですよお客様」
「あー……うー……」

 鈴になったみたいに言葉が出ない。
 そうこうしてる間に、店員さんはてきぱきと腕を後ろに回したりしてサイズを図っていく。

「トップが79のアンダーが65ですね。Cくらいですね。ウェストは54cm……羨ましい体型ですよお客様」
「あ、あはは……」

 正直、言われてもあまりうれしくはない。
 ちなみにヒップだけは無理を言ってジーンズを履いたまま計ってもらった。
 正確なサイズが計れないっていわれたけど、流石に恥ずかしすぎるしなにより今はいてる下着は今まではいてたもの、つまり男ものだ。
 流石にそれを見られるのはまずいと思う。
 店員さんも、恥ずかしいからと言ったらなんとか了解してくれておおよそで出してもらった。

「ヒップが82くらいになるでしょうか。ただ、正確じゃないので細かい部分は実際に合わせて確かめてくださいね」
「はい……無理言ってすみませんでした」
「いいえ、まぁたまにそういうお客さまもいらっしゃいますので」

 にこやかにそう言われて、僕は店員さんにお礼を言ってみんなのもとに戻る。

「おかえり~理樹ちゃん」
「で、サイズはいくつデシタ?」
「えっと……」

 店員さんに言われたサイズをそのまま伝える。
 と、みんなに驚いた顔をされる。

「あたしより大きいのか……」
「男の人のはずのリキにかれーに負けてしまいましたっ!?」
「直枝さん……女の敵ですね」
「理樹ちゃんやっぱりスタイルいい~」
「ほう、着やせするという小毬君の評価は正しかったな。なかなかいいスタイルだよ理樹君」
「ホント、ちょこっと殴りたくなっちゃいますネ」

 みんなが口々に感想を言う。
 そのうち何人かの視線は少しどころじゃなく怖いものがあったけど……

「ふむ、ではさっそく理樹君に似合う下着を選ぶとしよう」
「うんっ。可愛いの選んであげるね、理樹ちゃん」
「ふっふっふ、ド派手な下着で姉御に負けないくらいせくしぃにしてあげますですヨ」
「わふー、私も選びます」
「そうですね……それでは私も今の直枝さんにぴったりの物を探しましょう」
「理樹、ぴったりのやつを探してやる。楽しみにしていろ」
「あはは……お手柔らかに」

 さっそくといった感じで全員が嬉々として店内に散っていく。
 ……着せ替え人形の時間の始まりだった。




「では、さっそくお披露目会の開始だ。せっかくなのでこれもゲームにしよう。
 理樹君に一番似合うものを選んだ者が勝者だ。勝者は……そうだな。昼食を理樹君におごってもらえる権利にしようか」
「ちょっと来ヶ谷さん! なに勝手に決めてるのさっ」
「なに、昼食といってもひとり分、それもファーストフードだよ。それに、選んでもらったお礼のつもりでいいだろう」
「うー……なんか納得いかないけど、それならまぁ」

 無理やり連れてこられた気がしなくもないけど、これだってやっぱり必要なことなんだろう。
 そう思うとみんなの時間を使ってもらって僕に付き合ってもらってるんだから、それくらいはむしろ払うべきかもしれない。

「では、さっそく始めようか。最初は鈴君の選んだものだ」
「うむ。理樹は意外と恥ずかしがり屋だからな。だからあえてド派手なものを選んでみた」
「ちょ、鈴!?」
「おおっド派手なものですか。あたしの傾向とかぶってますネ」
「最初から楽しみな展開になってきたな。葉留佳君の分の楽しみは後に取っておくとして、鈴君が選んだものをみてみようか。
理樹君、それじゃあ鈴くんと一緒に入って着つけてくるんだ」
「うん……って、鈴と一緒に入るの!?」
「なにぃ!? あたしが理樹に着せるのか!?」
「理樹君は初めてだから着かたがわからないだろう。だが、鈴君ならわかるだろう?」
「あたしはスポーツブラだから、こんな複雑なブラのつけかたなんかしらん」
「おや、そういえばそうだったな……ふむ、ではおねーさんが着付けをしてやろう」
「えっ!? 来ヶ谷さんが……」

 もはや条件反射で身構える。
 来ヶ谷さんはそんな僕を心外そうに見つめる。

「……なんだその眼は。大丈夫だ、さすがに店のなかじゃ手出しはしないよ」
「……本当?」
「君も疑り深いな。ふむ、それともあれか。理樹君は公然の場所でいたすのが好きなのか?
 それはそれで興奮しそうだが、流石に場所は選んだほうがいいと思うぞ」
「違うよっ! そんな趣味ないから!!」
「なら大人しく着付けられたまえ。さすがに私も捕まりたくないので安心するといい」
「うん……それじゃあ……」

 しぶしぶと来ヶ谷さんに連れられて試着室の中に入る……ってその前に!

「ちょっとまって。先に下だけ着替えるから」
「チィッ……気づいたか」
「やっぱり下心あったのかよ!」
「なに、まぁそれも後々のお楽しみにしておくさ。準備が終わったら呼びたまえ」
「絶っ対のぞかないでよ……」

 念を押して試着室の中に入る。
 でも……これを穿くのか。
 渡された小さい布を見る。
 思ったよりは派手じゃないので安心したけど、なんだろうこの小さい布は。
 ほんとにこんなのが下着なのか疑問に思う。
 これでほんとに隠せるのかな……

「うう~……」
「凄い苦悶してるのが声だけでわかりますネ」

 悩んでる声が聞こえたのか、葉留佳さんのそんな声が聞こえる。
 悩まないわけがない。でも、どうせはなかきゃいけないなら……
 ええい、もうどうとでもなれ!
 自棄になって下着を着替える。うう……何か大切なものが壊れた気がするよ……
 サメザメとしたものを目から流しながら、なんとか下を履き替える。
 うう……天国にいる父さん母さん、僕、ダメな息子になってしまいました。

「……いいよ、来ヶ谷さん」
「うむ、布越しに聞こえる理樹君の苦悩する様子、とくと堪能させてもらった。それでは上の方も着付けてしまおう」

 シャッっとわずかにカーテンを開けて来ヶ谷さんが入ってくる。
 ところで、二人どころかみんなが入っても入っても十分なこの試着室は、
 あらかじめこういう風に複数人で入れるように考慮されてるんだろうか?

「この店は水着も取り扱っているからな。見せ合いっこしたりするのにはこっちのほうが都合がいいのさ」
「へぇ……そういうものなの?」
「そういうものだ。それにしても……確かにいいスタイルだな。スタイルだけでいったら葉留佳君にも勝ってるかもしれないぞ」
「勝ってもうれしくないよ……」

 真剣な顔でそう評してくれる来ヶ谷さんが、余計に気分をへこませてくれる。

「後でまた付け方は教えよう。とりあえず……ふむ、こんなものか」
「うん、ありがとう……なんかすっごい微妙な感覚だよ……」
「だが楽になっただろう? 慣れないと少し窮屈感があるかもしれないが、動きやすくなったはずだ」
「うん、正直ちょっと楽かも。なんていうか、重心がぶれにくくなった気がする」
「さて、さっそくお披露目と行こうか。合図をしたら出てくるんだ」

 来ヶ谷さんがそういって出ていく。
 ……とたんに凄い緊張感が襲ってくる。
 見せる? この姿を? 下着しか着てないこの姿を? 女子に?
 うわあああああ!! 今思えばすっごい恥ずかしい事なきがする!!!

「さて、理樹君。出てきたまえ」

 呼ばれた? どうしよう、まだふん切りつかないんだけど!?
 ああ、でもきっとみんな待ってる。
 誇らしげな鈴が、純粋に楽しんでる小毬さんとクドが、ニヤニヤしながら好奇心全開な葉留佳さんが、
 おそらくカメラを構えてるかもしれない西園さんが。

「どうした、早く出てくるがいい」
「わくわく」
「ドキドキ……」
「……」
「じー……」
「まだかー! 焦らすなんてよくないぞーりっちゃんー!!」

 ああ、もうどうとでもなれ!
 自棄になってカーテンに勢いよく手をかける!!

シャアアアア……

 でも、結局直前で勢いが落ちてそろそろそろ、と隠れるようにカーテンを開ける。
 全員の視線が、僕に向いているのが分かる。
 ……やだ、なんか本気で恥ずかしい。
 思わず無意識に両手を隠すように胸や股の前に持っていく。
 うう……やっぱり恥ずかしい。
 じーっと無言で見てくるみんなの視線がすっごい痛い。

「あの……その、そんなに無言で見られると、すごい、恥ずかしいんだけど……」

 何も云われないのがかえって恥ずかしい。
 うう、やっぱり元が男だし、こんなの付けてる方がおかしいし変だと思う。
 そう思うと余計に恥ずかしさが増してくる。

「き――」
「……き?」

 誰かが口を開いた。そう思った瞬間

「「「「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」

 突然みんなが叫んで思わず耳を塞ぐ。
 な、なに!?

「理樹ちゃん理樹ちゃん、すっごくかわいいよ~!!」
「思った通りだ。理樹によく似合ってるぞ!」
「思ったより派手じゃないですけど、むしろこっちのおとなしい感じの方がりっちゃんには似合ってますねー」
「淡いオレンジ色が今のリキにぴったりあってます! スタイルもいーですし、自信を持ってくださいリキ!」
「その唖然とした顔と綺麗な体。更に、今までの直枝さんとはまた違ったパステル調のオレンジ色の下着をつけたその姿
 ……直枝さん、今の直枝さんはとても輝いています。記念に一枚」

 小毬さんとクド、葉留佳さんにもみくちゃにされて、鈴は誇らしげに頷いている。
 その様子を撮っている西園さんと、「だから言っただろう? 似合っていると」と言った感じでこちらを見ている来ヶ谷さん。
 予想してなかった展開に、頭が付いていかない。

「理樹ちゃん理樹ちゃん! 次は私が選んだの着て~」
「私のもおねがいしますっ! きっとリキに似合うと思うのです」
「ちょーっとまったー! はるちんが選んだのも忘れてもらったら困りますヨ! 結局鈴ちゃんが選んだのは全然過激じゃないですよ」
「なにぃ! そうなのか!?」
「ですから! 今度はこの真赤で紐なこれをつけるのデス!」
「おねーさんが選んだ真黒でアダルティなこれと、チェック柄のこのあどけなさの残るライトグリーンの下着も付けてもらおう」
「みなさんわかっていません。ここはあえて純白で攻めるのも一つの手かと思います」

 状況に翻弄されるままに、あれやこれやととっかえひっかえ着せ替えをさせられる。
 チェックやストライプ、真っ赤なのから真っ黒に真っ白、他にも青やら紐やらもう用をなしてるのか分からないものまで次々と持ってきてはつけさせられ、
 その度にみんなが叫んで写真を撮られて、最後にはお店の人に怒られて気がついたら紙袋を持ってお店の外に立っていた。


-*-*-*-




「何だろう……なんかものすごい疲れた気がする……」

 さっきのお店からこのファーストフード店に来るまで、持っていた袋はずっしりと重かった気がした。
 入ってるのは布でしかないのに、やたらとずっしりと来る。精神的なのも十分大きいけど、今回は肉体的にも疲れてるからだと思う。
 改めて思い出すだけで、今すぐに封印して抹消したくなる光景が繰り広げられる。
 ……うん、今すぐ封印して抹消しよう。あれは思い出しちゃいけない類の記憶だ。

「いやー、流石にちょっと暴れすぎましたネ……」
「ふえぇぇ、お店の人に怒られちゃったよ……あのお店気に行ってたのに、しばらくいけない~」

 ポテトを食べながら苦笑する葉留佳さんと、盛大に泣きが入ってる小毬さん。
 流石にやりすぎたと反省はしているみたいだ。

「わふー。リキがあまりにきれいで可愛かったのでつい騒いでしまいました」
「クド、あれはしかたないと思う。あの理樹はしょうじき反則だと思う」
「ああ、思わずおねーさん理樹君を押し倒してそのまま食べてしまいそうだったよ」
「って、来ヶ谷さんどさくさに紛れて本当にしてたでしょ!?」
「何を言うんだ。押し倒してはいない。ただ後ろから手を伸ばして手の赴くままに揉みしだいただけだ」
「似たようなものだよっ!」

 ほんと、油断も隙もない人だ。
 前から気を抜くと何をしてくるか分からない人だったけど、今後はもっと気をつけるようにしよう。

「でも、直枝さんも最後の方はノリノリで着替えてたと思います」
「ノリノリじゃないよ!」
「でも、楽しんでましたよね?」
「うっ……それは、その……」

 痛い所を突かれて、思わず勢いが弱くなる。
 確かに、最後の方は開き直ったのもあって楽しんでた……かもしれない。
 正直、最初鈴が持ってきたのをつけて鏡を見たとき、自分の姿なのに一瞬ぼーっとしてしまった。
 その後、みんなが持って来るのがまた狙ったように自分の体に似合ったりセンスが良かったりで、だんだん着せ替え状態でも楽しくなってた部分はあっった。

「ふむ、理樹君もようやく現状を認め、自分が女だという自覚ができたということか」
「出来てないよそんなの!」
「いやいや、今の君は立派に女の子だ。自信を持ちたまえ」
「そんな自信もちたくもないよ……」

 ため息をつきながらストローを吸う。
 冷たい、少し酸味の効いた味がすぅっと喉を通る。

「さて、勝負の勝者は鈴君だったわけだが」

 ちりん、と音をさせながら頷く鈴。
 結局、散々着せ替えをさせられた挙句、全員一致で選ばれたのは鈴が選んだものだった。
 といっても、直接鈴が選んだものじゃなかった。
 最初に鈴が持ってきたものの色違いをみつけて、それを試したらそれが思いのほか好評だった。
 よりにもよって自分で選んだものが一番になり、僕としては複雑な心境だった。
 それでとりあえず勝負の結果は、選ぶきっかけを作った鈴ということになった。

「さて、では続いて第二回戦といこうか」
「って、また僕が奢るの!?」

 さっきのお店では、とりあえずその一番に選ばれたものを買った。
 けど、それだけで足りるはずもないから他にも数点、みんなが選んでくれたものを一つずつ買うことにしたんだけど(葉留佳さんと来ヶ谷さんが選んだものだけは拒否した)、
 ……まさか女性用の下着があんなに高いとは思わなかった。
 一つで男の下着が下手すれば4、5枚は……ううん、絶対もっと買えると思う。
 結局、手持ちのお金じゃ足りないから初めて口座から直接お金を払うやつを使うことになった。
 うう、あんまりこういう事でお金は使いたくなかったんだけど。
 父さん母さんごめんなさい、残してくれたお金をこんなことに使ってしまって……

「いや、流石にあれだけ買っては理樹君も大変だろう。この後服も買うのだしな」
「はぁ……せめて今までの服が着れれば良かったのに」
「えー。せっかく可愛くなったのに、女の子の服を着なきゃもったいないですヨ」
「別に着なくていいよ。だって、下着であれだけ高かったんだから服なんてもっと高いでしょ」

 下着と違って女の人の服ならお店で目にすることもあったけど、やっぱり基本的にどれも高かったように思える。
 既に5桁単位でお金を使っちゃったから、できるだけ安く抑えたい。

「まぁ、良いものを安易に買おうと思えば確かに高い。下着は初めてということもあってちゃんとしたものを揃えるためにも
 専門店を使ったが、服なら多少は何とかなるだろう」

 この後で聞いたんだけど、下着は全部が全部あれくらいの値段というわけでもないみたいだった。
 それこそピンキリで、安くても自分に合う良いものもあるらしい。
 もっとも、やっぱり男のものよりはそれなりに良いものを揃える必要はあるらしいけど。

「次のバトルは全員参加だ」
「全員って、僕も?」
「君だけじゃない。全員と言っただろう。まぁ連絡は入れてある。続きは現地に着いてからとしよう」

 全員がはてなマークを浮かべてる中、来ヶ谷さんは「はっはっは」と楽しそうにしながら残った紅茶を飲みほして立ちあがった。


-*-*-*-

来ヶ谷さんによるあとがき



うむ、今回のあとがき担当は私だ。
なお、作者は今ここにはいない。簡単な手紙を預かったのみだ。
よって、ここは私の空間ということだ。

さて、まずは一応作者からの手紙を読んでおこうか。

『今回はやりたかったことの一つ、理樹の下着選びでおろおろするシーン。
 けどぶっちゃけ、上手く書けてませんでした……もっと長く騒がしく書けばよかったかなとちょっと後悔』

だ、そうだ。
うむ、私もあんなものじゃなく理樹君にあんなことやそんなことをして楽しんだのだが……
後悔してるくらいなら上げる前に直せと言ったところだ。
みんなも見たいだろう?
例え文字だけでも真っ赤な紐や黒でアダルティな下着をつけた理樹君の様子を。
更にはパステルグリーンでストライプやチェックな下着、ふりふりでひらひらな下着姿の理樹君。
そしてそれをつけて恥ずかしがり、もじもじとする理樹君を。
……あぁ、思い出しただけでよだれものだったよ、あれは。
おねーさんも思わず理性を失うかと思ったくらいだ。

っと、そろそろ放送終了の時間か……
次の話は言うまでもなく、理樹君の私服選びだ。
まぁ、あのメンバーが提案する衣服だからな。
なに、どこかの部活メンバーが提案する衣服に負けるつもりはないラインナップをそろえよう、とだけ言っておこう。
では、次の話でまた会おう。







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