BGM:ともしび



「ただいまー」
「ただいま」

 しとしと、と雨が降る中、二人で家に帰ってきた。
 梅雨の今の時期、晴れてるからと傘を持たなかったのがいけなかった。
 結果、大学からの帰りの途中で盛大に雨に降らてしまった。

 あと少し、って距離も悪かった。

 雨宿りするより帰った方が早いと二人で駆けてしまうから。
 そのあと、借りてる部屋につくのとほぼ同じくらいに雨は止んだ。
 通り雨だったらしい。すでにしとしと雨に変わった空は、雲の切れ間から日差しがさしている。
 残念なことに、虹は見れなかったけど。

 「狐の嫁入りか」と隣で拗ねてる姿がちょっと可愛かった。

 タオルを手に取って、一つを後ろに投げる。
 空中で綺麗にキャッチすると、頭を拭き始めたので僕も頭を拭き始める。
 頭を拭いたあと、軽く服の水気も取る。
 そうしてから、濡れた服を脱いで直接体を拭く。

「シャワー浴びてくる」

 と一人で先に行かれたので僕は後回しだ。
 元々そのつもりだったから別にかまわない。
 脱ぎ捨てられた服をまとめて、洗濯かごに放り込む。
 自分の物もまとめて放り込んだ後、服を着替える。
 仕分けは僕の仕事じゃない。前に一度、勝手にやって盛大に怒られて以来、その仕事は禁止になっている。

「さて、それじゃあ鈴が上がってくる前に軽くお昼でもつくろうかな」

 キッチンに立って頭の中のレシピをめくりながら、調理手順を組み立てていく。



 大学2年。
 ……あの『事故』からそろそろ3年経とうとしている。
 僕は今、鈴と二人で暮らしていた。






Co-de 〜とじたせかい〜 一項目「同棲」






「うん、相変わらず美味いな」
「それはどうも。でも鈴も、もうちょっと料理上手くなろうね」
「理樹が上手だからいいだろ。あたしは向いてない」
「それには同意するけどさ。……でも鈴も悔しくない? 男の僕に料理で負けてたら」
「……それは偏見だぞ、理樹。そしてあたしは別に悔しくなんかない」

 そっぽ向いて鈴はカルボナーラをすする。
 ……すするの(それ)もやめようね、鈴。

 もっとも僕も、本気でそんなことは思っていない。
 今の時代、男の方が料理が上手くても別に変じゃない。
 ただ、鈴もできないと困ると思うってのと、単純にこう言えば鈴には効果的だから言うだけだった。
 きっと今日の夜、僕が寝てから鈴はこっそりと起きて練習するだろう。
 ……その成否は別として。


 鈴と暮らすようになってから、ちょうど1年が過ぎていた。
 高校卒業と同時に、同じ大学へ進学が決まってた僕らは、当たり前のように同じマンションに住んだ。
 周りからの反対はなかった。
 元々僕の周囲にはそういうことを言ってくれる人はいなかった。
 唯一、一人だけ遠まわしに節度は保つようにと言ってくれた人はいたけど、それだけだ。

 鈴も同じだった。
 家の人は何も云わなかった。
 今でも僕は、棗家の家庭事情は詳しく知らない。
 ただ、余りいい家庭環境ではなかったらしいことだけは知っている。
 唯一面識があるのはお爺さんだけだった。
 そのお爺さんに「……無理だけはしないようにな」と言われたのは今でも強く心に残っている。

「次の授業はいつだ?」
「明後日の4限だよ。鈴も少しは覚えておこうね」
「理樹が覚えているだろ。同じ授業を選んでるんだから問題ないだろ」
「大有りだよ。頼ってくれるのは嬉しいけど、少しは自分の事は自分で把握しようよ」
「むぅぅ……」

 バツが悪そうに唸って、鈴は立ち上がる。
 すでに食べ終わっていた皿をもって、流しにつける。
 ちょうど食べ終わった僕のものも持っていってそのまま洗いだした。
 しばらく鈴の洗い物をする音だけが流れる。



 平和、だった。
 少なくとも今は平和だった。
 流しの音を聞きながら、ぼうっとする。
 考えるのはいつも同じ。楽しかったあの頃のことだった。

 あの事故で、僕の周りは一瞬で壊れてしまった。

 転落するバス。
 目覚めた地獄。必死で鈴と一緒に這い出た森の中。
 ……もう微かにしか覚えてないけど、頑張ろうとした救助活動。
 パニックを起こしてた僕らは、何もできなかったに等しかった。
 やがて切り取られた僕の時間。
 いつもの発作。勝手に落ちるブレーカー。止められない眠り。

 眠り病。ナルコレプシー。

 気がついた時には、ベッドの上に横たわっていた。
 隣で泣く鈴。
 動かない体。
 全身打撲と、右腕左足の骨折。
 2週間ぶりに目覚めた僕の状態は、全治7か月だったらしい。
 当たり前のように、2年の残りは出られなかった。
 けど、特例なのか、同情なのか。
 成績が足りていたこともあり、僕は無事三年に上がることができた。

 復帰後の3年生は恐ろしく詰まらなかった。
 ただ授業を受け、鈴と二人で猫をかまって、寝る。
 時折病院に行ったり、ごく稀にどこかへ出かけたりする以外、後は繰り返しだ。
 大学は近場の無難な場所、けれど一番学歴が高いところにした。
 勉強しかすることがなかった僕らは、簡単にその門をくぐった。
 そして今に至る。

「理樹」
「ん……? なに、鈴」
「声をかけても返事がなかった。何を考えてたんだ?」
「……ちょっとね」

 言葉を濁して、僕は答えを曖昧にする。
 過去のことは、鈴のタブーのひとつだった。

 あの事故は、鈴にとって最大のトラウマになっている。

 当たり前だ。ぼくだって未だに引きずってる気がする。
 いや、引きずってるんだろう。
 だって。



 僕らは、



 あの事故で、



 みんなを、亡くした。



 恭介も、真人も、健吾も、クドたちみんなも。
 あの事故で、僕らを助けて、死んでしまった。
 恭介は生きようと思えば生きれた。健吾も真人も、僕らをかばいさえしなければ生き残ってあのバスから逃げれたはずだ。
 来ヶ谷さんだって、あの身体能力だ。人をかばっていなければ生存してただろう。
 みんなのおかげで、僕らは生き残れた。
 それが、僕らの背負った十字架だろう。

 みんなは犠牲だなんて思ってない、と思う。
 勝手な想像かもしれないけど、そう思ったらみんなは怒ると思う。
 仮に僕が逆の立場だったら、やっぱり同じ事を思う。
 だから、それはできるだけ考えないようにしている。



 けど、鈴はそれを負い目だと思っている。
 今でも『事故』の事を話すと、思い出すとパニックを起こす。
 数は減ってきたけど、夜に突然夢見て大騒ぎになることもしばしばだ。
 それで、最初のアパートは出ていくことになった。
 今は少し質の高い、アパートよりはマンションと呼ぶべき場所に居を移した。
 少し賃貸料は張ったけど、防音設備の高い所を選んだ。隣の人もいない、角部屋にした。
 幸いにして、僕らはお金だけはあった。
 僕は両親の遺産と、そして2人とも……いや、恭介も含めた3人分、あの事故の『慰謝料』としてのお金が。
 だから今でも僕らは、どこかで恭介に守られてる気がしている。

「……こまりちゃんの、ことか?」

 少しつらそうにして、鈴がそう言った。
 そういえば、そんな話だったっけ。
 違っていたけど、対して違ってもいなかったので僕はそれに頷く。

 僕ら以外に唯一、生き残った人が一人だけいた。
 神北小毬さん。僕らと同じ、リトルバスターズの最後の生き残り。
 最後の、仲間。

 必死の救出の中で、唯一小毬さんだけが助け出せた一人だった。
 来ヶ谷さんに守られたのか、怪我もほぼ大したことがなかったらしい。
 らしい、というのは僕が起きたのは彼女より後で、聞いた話だったからだ。

「こまりちゃんの様子は、その……どうなんだ?」
「……あいかわらずだよ」
「そう、か……」

 仲の良かった鈴と小毬さん。
 けど、あの事故から二人は会っていない。
 それには理由があるからだけど、ともかくそんなわけで今小毬さんと接点があるのは僕だけだった。

「……ん、そろそろ時間じゃないか?」
「あ、そうかも」

 壁にかかってる時計を見る。
 時間は4時ちょっとすぎ。今日は小毬さんと会う日だった。
 約束の時間は5時。ちょっと遅い時間ではある気がするけど、これにもやっぱり理由があった。
 ともかく、いくらそれなりに近場に小毬さんの家があるといっても、そろそろ準備しないとやばい。
 立ち上がって、僕は再び出かける準備をする。

 今度は傘を忘れないように、カバンに折りたたみを入れておこう。

「理樹。今日も……帰ってこられないのか?」
「小毬さんの安定度によるけど、もしかしたら。雨が降ってるし、結構不安定かもしれない」

 雨は、色々思い出させられる。
 僕も鈴も、小毬さんも……

「そう……か。理樹」
「なに……んっ」

 不安そうな声に振り返ると、鈴に口を塞がれる。
 暖かくて、柔らかい。優しい感覚が伝わってくる。
 短い口付けのあと、鈴が唇を離す。

「出来れば・・・…早く帰ってきてくれ。耐えられなくはないが、あたしも少し、寂しい……」

 素直に表してくれる弱さ。
 事故のあと、鈴が変わったところの一つだ。
 微笑んで、今度は僕から鈴に口付けをする。安心するように、優しく。

「ん……」
「うん、なるべく頑張るね。僕も安定してる小毬さんが見たいし」
「そう、だな。理樹……ごめん。こまりちゃんを頼む」
「わかった。鈴も、なるべく頑張ってね?」
「……努力は、したい。けど、もう少し……もう少しだけ待ってくれないか? 必ず、頑張るから。だから……」
「うん。信じてるよ。ゆっくりでいい。鈴のペースで、無理しないでいいんだよ」
「理樹……ん」

 もう一度キスを交わして、僕は家を出る。
 鈴は扉が閉まるまで見送ってくれた。



 自動ロックの扉をでて、マンションを見上げる。
 廊下の窓から、鈴が見送ってくれていた。
 軽く手を振って、しとしと降り続いてる街へと歩きだす。

 罪悪感を胸に抱きながら。せめてもの贖罪に傘をささずに、僕は小毬さんの家を目指した。











あとがき



BGMは「ともしび」が最適でしょう。
こんばんわ。あるいはおはようございます、こんにちわ。
筆者のスイです。

……テンション上げていいですか? 描いてる間はテンション落とさないとなんで、あとがきくらい……!
というわけで、Co-de第一項目「同棲」です。
まだ冒頭といったところなので、物語はさして進んでません。なので今回は軽く設定の確認をしましょー♪

一応、事故後二人が生き延びるEND後です。
但し、違う点は小毬が生きています。結構悪意ある方向に状況が弄られてますね。
鈴も理樹も、おそらく小毬も事故がトラウマになってる感バリバリです。
そして二人は決して強くはなってないのが見て取れますねー。
プロローグをみて「理樹*小毬」ものと思われた方はいらっしゃったでしょーか?
そうそういないとは思いますが(ぁ
まぁ、どんな人間関係なのかは想像できると思われるので、放置しましょう。
この想像できる人間関係から、そして事故後の各キャラの状況からどんな物語になるのか。
それをお楽しみに読みいただければ幸いかなーというのが、スイさんの心情です。


で、ここからは少しお願いなのですが。
このSSに関しては出来るだけ感想がほしいところだったりします!
正直初めて書くジャンルな感じですし(SHUFFLE! の過去っぽい奴はあくまでゲーム内の想像補完ですし。今は非公開の作品だけど)
どう思われるのか、どんな反応があるのかすっごくとってもかなり気になります!
というわけで、暴言以外の感想、批判、これはこうのほうのがよくないか? 的感想をじゃんじゃんください。
BBSでもメールでも結構ですので。
メールに関しては、メニューフレームの「mail」からお願いいたします。
スパム回避のため、全角表示だったりするので手打ちになってしまいますが……
BBSも左側からお飛びください。もしくは↓から。
ではでは、「Co-de〜とじたせかい〜」。なるべく止めないように頑張ろうと思いますのでよろしくお願いいたします。ぺこり



PS:恭介も謙吾も真人も来ヶ谷も葉留佳も美魚もクドも出てこず、ファンの方は申し訳ありません。
  いくら待ってもきっと出てきません!
  奇跡は、起こらないから奇跡って言うんですよ? ゆーれーで登場とか法術で復活とかはしないのです
  ……光の球もなければ、えいえんの世界に行ったわけじゃないので絆でも戻ってきませんよ?
  不可視の力なんてないのですっ
  リライトもされません。

PS2:本文のどこかに隠し文字で各話のイメージBGMが書いてあります。楽な位置です。
    それを聞いて読むと雰囲気アップです。それを聞いて書いていますので。
    なお、今回は「ともしび」です

追記:aosanzさんにご指摘頂いた小毬の誤字、および理樹の言い回しを一部訂正いたしました。
    ご指摘ありがとうございまー♪







戻る(Co-deメニュー)  戻る(リトバスSS)  TOP