紅 岩(現代中国文学 10) 羅広斌・楊益言 立間祥介訳 河出書房新社 1970
一冊本のこの河出版が出る数年前に別の出版社から赤い表紙の完訳の三巻本が
出ていたのを読んで強烈な印象を受けたのが記憶にある。今、読み返してみると
模範的な革命闘士はこのようであると教科書的な人物像が並び、その人たちの交
わす言葉の一つ一つも何か型にはまったような感じがしないでもない。しかし、
自分の明日の生死もわからぬ状況の中で解放闘争をたたかった人々の現実はその
とおりだったのかも知れないとも思う。この本が発表されると空前のベストセラーとなったのは
その時代を考えると不思議ではない。しかし、この河出版が出た頃は中国では文化大革命の嵐が
吹き荒れ、いわゆる紅衛兵による文化人の突き上げが頂点に達していた。共同作者の一人である
羅広斌は裏切り者の汚名を着せられて自殺に追い込まれたといわれる。現中国の様相を見聞する
とき、この小説に登場する人たちの生と死にもう一度深く思いをはせないではいられない。この
小説は決して単なる政治的な宣伝文学などではないのである。
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