夜と霧 V.E.フランクル みすず書房 1991 初1961
(ドイツ強制収容所の体験記録)
この本がはじめて紹介された時はまだ第二次大戦の記憶が人々の間に消す
ことのできない深い傷を残し、人間の行為の高潔と残虐とが明らかにされる
たびに人間存在の意味を問うということを人々はまだ真剣にやっていた時期
だった。90年代に入って一部の人間たちが声高に「事実はあったかも知れな
いが数字はもっと少ない」などとほざく始末である。それがどうしたのいう
のか?数字が小さければ罪が軽いとでもいうのか。それどころか、この日本でも(日本
だからか?)ナチの強制収容所での大量虐殺は事実無根のつくりごとだとまで言い切る
連中まで現れ、それが某有名雑誌に掲載されるとやっぱりそうかと喜んでしり馬に乗っ
て騒いだ者も私の周辺にいた。むろん、部数の売り上げが目的のこのようなヨタ記事が
世論の支持を得るわけがなく、その某有名雑誌もあえなく廃刊となりはしたが。しかし、
反省ではなく強弁で事実を枉げようとする連中を容赦してはならない。たとえば日中戦
争時の南京事件のごときも依然として「それは戦時の熱狂的な感情からのつくりごとで
あって、そんなにたくさんの人を殺していない、ともすると事実無根ではないか」など
という評論家が後を絶たないのだから。フランクルの記録は現実に見たことを冷静に述
べているだけに動かしがたい真実の重みをもって読者に迫ってくる。30年以上も読み
続けられるのにはそれだけの意味がある。
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