カフカ(筑摩世界文学大系 65) 筑摩書房 1972
不条理の小説というとアルベール・カミュの「異邦人」がまずあげられま
す。人間存在の不条理をもっと深みにまで表現したのはカフカをおいて考え
られません。短編「変身」では虫に姿を変えられた一人の若い男のその後の
惨めな生活を通して意識と存在という問題を、私などのように横目で見なが
ら逃げるようにその下をくぐり抜けて生きながらえて来た者を執拗にとらえ
て離さず、気が付くとそれが目の前に立ちはだかっているのです。しかし、長編「城」
こそはこの人間存在の不条理の謎を徹底的に考え抜くことを要求する作品です。物語の
ようであって物語ではなく、ストーリーそのものに意味のある小説でもない、城という
不可解なある種の行政組織とそれに支配されるさまざまな種類の村人(または市民とい
うべきか)が何ら展開しない状況の中で主人公とともにもがいているのは確かに読み通
すのも辛い作業といえます。でも、一旦ページを開いたら読み通さずにいられないでし
ょう。
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