スペインのある農夫へのレクイエム ラモン・センデール 西和書林 1985
短編ながらどのような大長編にも優る傑作です。冒頭から終わりまでおそろしく胸を
しめつける緊張と憂愁、民衆を苦しめて正義ヅラをするファシストへの激しい怒りに満
ち、何度でも読み返したくなる本です。短編の主人公の一人である司祭の自らの裏切り
についての追想と悔悟の思いが全編を流れるのですが、そこには聖職者と呼ばれる者の
抜けがたく染みついた腐った体質が裏切りを悔悟しながらも自分の犯した普遍的な人間
に対する罪を自覚することを出来なくさせているその偽善ぶりをを激しく告発しているのです。
ラモン・センデールの作品はほとんど翻訳されていないのでその全貌をうかがい知ることは出来ませ
んが、この本の訳者(浜田滋郎)がかなり長文の解説を添えて詳細に作家の生涯と作品について述べて
あるので、この作 家が他のすぐれた画家や文学者たちと同じようにスペイン内戦を経て国外に亡命し、
祖国を踏みにじったファシストだけでなく、それを擁護したえせ民主国家の国際的なファシスト同調者
を告発する作品を書き続けたことがわかります。この作品に匹敵するものはおそらくピカソの「ゲルニ
カ」ではないかと私は思います。
|