続百代の過客(日記に見る日本人)上 ドナルド・キーン 朝日新聞社 1988
上巻では徳川幕藩体制が終わりを告げようとする時期、遣米使節としてアメリカに渡
った幕府の要人の日録から始めて明治初年の民権家植木枝盛のものまで18人の日記を
取り上げています。著者が注目するのは書かれている事象を通して日記の記録者がはか
らずも描き出した自己の人間像です。その意味ではどの記録者も日本近代の開化期に強
烈な個性を発揮した人たちばかりであることは興味深いものがあります。
中でも松浦武四郎北方日誌ほど人権尊重の近代精神をこの時代にすでに強く主張していたことは驚
かされるとともに、いわゆる近代化以前の日本人の中にこそ学ぶべきものが多いのではないかとさえ
思えるのです。つい最近のある新聞紙上で報ぜられたある知事が「年齢の高い女性はもう生殖能力が
ないのだから不要じゃないか」と妄言を発したというのを考えると現代の知識人らしき人間には最も
大切なものが欠けていることは明らかです。
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