
悪霊(つづき)
賭博者 ドストエーフスキイ全集 10 米川正夫訳 河出書房新社 1960
「賭博者」という日本語の題名が古めかしい。せめて「賭けに耽る人」くらいの
方が今ふうかと思うのだが。ドストエーフスキイの作品にしてはかなりスピード感
のあり全然深刻でなくわくわくさせる小説である。登場する人物の多くが借金で首
が回らない境遇にあるか、反対に金を融通する大小として他人の財産を根こそぎ抵
当に取って債権者の首根っこを抑えてぎゅうぎゅう言わせるかのどちらかなのであ
る。「作者は自らも賭け事に夢中になって自分自身をしばしば苦境に追い込んだ経
験からして賭博者の真理を深く抉って……云々」などという評論を読んだことがあ
るが、何のことはない、ある時代のある階級の閑な連中が財産を食いつぶしたあげ
く誰かの遺産をめぐって大騒ぎをくり広げるてんやわんやの顛末を描いた風刺小説
とも読めるのである。
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