
貧しき人々 他 ドストエーフスキイ全集1 米川正夫訳 河出書房新社 1960
詩人ネクラーソフに見出され、当時もっとも権威(真の意味で)のあった批評家
ベリンスキーが激賞したドストエフスキーの処女小説「貧しき人々」の出現の事情
はほとんど伝説的でさえある。貧しい下級官吏のジェーヴシキンのあわれな恋の幻
想がテーマになっているが、そこには貧しさにさいなまれ、地を這うようにして生
きる人々の心の奥に保たれる人間の尊厳が描かれているのである。若い貧しい女性
が富裕な地主の後添えに望まれて行ってしまう。残された貧しく、若くもない下級
官吏の叫ぶような手紙を読むほどに帝政ロシアの社会的矛盾が否応なく浮かび出て
くる。この巻、ほかに「分身」「ネートチカ・ネズヴァーノヴァ」を収載。
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