
蝉の聲 上田桑鳩 教育図書研究会 1975
書家のエッセーというのはとても興味深いものがある。普通の人である私にとって
は書の書かれた作品の文字を読むのに精一杯で、せいぜい好き嫌いを言うぐらいがの
ものである。しかし、こうした本を読むと少しは目が開くような気がする。とは言え、
書家が「書は上手下手ではない、そこに書く人間の心が表れているかが大切」という
言葉の裏にやはり巧不巧をさまざまな言い回しで述べているのは何故だ?と言いたく
もなるのだが。それはそれとして書家の文章には書の古典についての解説や見解が必
ず触れているのでたいへん勉強になるのである。また書家の知られざる苦心について
も知ることがある。この本では、師の比田井天来の頌徳碑のために千五百字の碑文を
書き上げるまでの過程を述べた「天来先生碑銘」という一文がそうした書家の苦心を
あますところなく述べている。
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