
最 澄(日本思想大系 4) 岩波書店 1974
日本人の思想と言えるものが確立されたのがこの大系に見るならば、聖徳太子
ということになるらしい。しかし、聖徳太子の出自を考えるとやはり中国・朝鮮
伝来の思想がその根であり栄養であったのではないだろうか。仏教に深く帰依し
た太子の中にどのように日本人という意識が出来上がっていたものか分からない
が、この大系ではその後律令国家の形成を経て平安京初期の最澄の出現まで思想
と呼べるものを見出すことができないようである。この大系の第1巻は古事記で
あるのはそれこそ編集上の思想的選択であろうけれども、古代の文学は同時に政
治思想的な色合いをも含んでいるからであろうか。聖徳太子といい、最澄といい、
大陸の思想に深く影響を受けて自己を確立したことは否めないであろう。その意
味では思想というものは民族や国家のではなく人間の思想と考えるべきものなの
だとここで初めて気がついた。
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