
フォークナー全集 16 行け、モーセ 冨山房 1973
独特の文体が米国南部の何か暑苦しく、重苦しい、人間が人間を保つことの困
難さのようなムードを小説全体を(というより、そこに描かれる土地と人間たち
を)覆い尽くしている。フォークナーの小説がおおむねそうであるように、この
巻の作品もまたある家系の年代記のおおわれた部分を克明に解読していくのであ
る。七編の連作によって一七七二年から一九四〇年にいたるある家系の物語であ
るが、錯雑した人間の絆をたどることで人間のたどる生き方というものが決して
その人の選択したひとつの偶然ではなく、何代もの人間の情熱や希望、あるいは
挫折とか絶望、あるいはささやかな成功といったものが家系の中で人をある必然
的な生き死にを選ばせるのであるとも言える。フォークナーの小説を読むとき、
そういうことをいつも考えてしまう。
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