
日本のアウトサイダー 河上徹太郎 中央公論社 1959
河上徹太郎(1902−1980)
この本は気をつけて読むと当然ながら文芸評論の視点から書かれているのである
が、われわれがどんな社会に生きているのかもう一度でも二度でも考えてみること
を促す本である。この本が書かれてから半世紀に近いが、毎日のテレビ番組にみら
れるようなノー天気な明るさの裏側の底なしの暗い淵を抱えている日本なのである。
アウトサイダーの向こう側にはインサイダー、または正統と呼ぶべきものが立ち
はだかっているのであるが、日本の、少なくとも明治の近代化からこの方、真に正
統と名付け得るものが存在しないのではないか、とこの本の最終章「正統思想につ
いて」で著者はその理由を詳細に説いている。アウトサイダーと見なされた人々こ
そが、明治開化以来の立身出世主義者が西洋文化を取り込もうとしてその根底にあ
る正統思想の吸収しそこねたのに対して、反対側に立つことでかえって近代的正統
を見えるものにする役割を果たしたのではないか、と著者は言う。たとえば、中原
中也と河上肇と内村鑑三がその人たちであると言われたら少なからず衝撃を受ける。
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