
ダンテ(筑摩世界文学大系 11) 野上素一訳 筑摩書房 1973
恋愛詩編「新生」をよほど以前にある文庫で読んだ。若い心に染みとおるような
詩編と散文とが交互に綴り、全編にわたって一人の女性をすべての女性を凌駕する
理想の女性としてとして描き出すのである。内容をほとんど忘れてしまっているの
に、この本を呼んだ時の感動が残っているのが我ながら不思議である。ダンテとい
えばもちろん「神曲」である。地獄篇・浄罪(または煉獄)篇・天堂(または天上)
篇の三部から成る全編韻文の作品である。その中でも地獄篇は政界や宗教界のスキ
ャンダルにかかわった人間たちを思う存分に断罪している。政治家としてのダンテ
が政敵を容赦なく地獄の苦しみに遭わせるのである。政治と深い関わりを持ってい
た教皇庁もその追求を免れることが出来ない。しかし、霊界を巡行するダンテ自身
は理想の女性ベアトリーチェの導きによって天上界をみることが出来るのである。
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