
不知火海―終りなきたたかい 石牟礼道子 創樹社 1973
熊本・水俣の水銀公害が企業の専横と行政の怠慢によることが明らかになっても、
被害者救済がおざなりのまま裁判所までが被害者の痛切な訴えに耳を貸そうとしな
かった現実を追求した著者の詳細なルポに国際的な写真家ユージン・スミスの多数
の写真による告発がなされている。水銀公害は後に阿賀野川上流の工場からの廃水
による新潟水俣病の発生と告発があって、われわれはは産業公害の深刻さをあらた
めて知らされたのだった。70年代に書かれたこの本が今なお訴えるものがあると
いうことは、依然として自然を破壊し、人間の生活を犠牲にし続け利益追求を最大
命題とするわれわれの社会の政治や経済はまったく人間らしさを失った巨大な怪物
と化していることを直視することを要求するのである。
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