
ライと涙とマリア様 小坂井 澄 図書出版社 1989
静岡県御殿場にあるカトリック系のハンセン病療養所「神山復生病院」の創設から
ほぼ現在にいたる間の多くの関係者たちの生活と働きの記録である。と言っても単な
る記録の羅列ではなくノンフィクションとして、この病院の創設にかかわったフラン
ス人神父や文字どおり献身的に間者に尽くした看護婦たち、そうした中で信仰によっ
て病苦の底から生きる力を得た患者たちのたどった道が書きつづられている。明治国
家が近代化をはかる国策の陰でハンセン病患者を公然と差別し、その後の国の施策が
それまであった社会的差別感情を助長した罪はどれほどのものであろうか。しかも、
こうした何重もの差別に苦しむ不幸な人々を救うことを外国人宣教師が最初に実践す
るのを待たなければならなかったというのは同胞として何という恥であろうか。最近
ハンセン病訴訟がはじめて国家の謝罪を当然とする判決が下されたとは言え、この病
気の患者たちはどんなにか長く苦しめられてきたかはかり知れない。
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