
ドストエフスキーへの旅 佐々木美代子 新潮社 1978
著者は現在のロシアが国号をまだソヴェートと称していた頃の1976年にドストエ
フスキーの生誕の地であるモスクワと、その作品に関係の深いレニングラード(当
時の名称、現在は帝政時代の名称に戻ってサンクト・ペテルブルグ)を訪ねてゆか
りの場所をたんねんに見てまわった記録である。どのページを開いても読者をさな
がらレニングラードの街のあちこちを歩いているような気分にさせてしまう。「貧
しき人々」「罪と罰」の読者ならその感がいっそう深いだろうと思う。著者が訪ね
る数年前にドストエフスキー生誕150年を記念して出来た博物館の訪問記の中で、
生涯に住居を何度も替わった文豪が最後の時期に住んだ部屋、最愛の妻であり作品
の口述筆記の協力者であったアンナ夫人の部屋の描写しているところなどは其処に
自分も立っているような気にさせられる。著者にとっては八年ぶりの再度のドスト
エフスキーもうでであるためか気負いもなく全体が穏やかな口振りで語られている。
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