
わが町 ソーントン・ワイルダー戯曲集 1 鳴海四郎訳 新樹社 1998
ソーントン・ワイルダー(1897−1975) 戯曲「わが町」(1938)
この戯曲の作者の名は1950年代にある出版社から出された「アメリカ文学全集」
の中に収録されていた小説「サン・ルイス・レイの橋」を読んだ時だった。人間は
運命の導くままに生きているのか、それとも無数の偶然に遭遇して生きているのか
というのが一つのテーマになっているその小説は自分にとっては一生忘れられない
作品なのである。人は日常そのようなことを意識していないけれども、それがある
時自分がこの時間に、このところで生きているということはどういう意味があるの
かを問われることがあるのだとこの小説から教えられたのだった。この戯曲でも、
その感が強く、誰にも知られないような地方都市のいわば非劇的な日常を描きなが
ら静かな声が問いかけてくるような気がするのである。