マタイ福音書 下(希和対訳脚註つき)  岩隅 直訳註   山本書店 1989                   新約聖書全27巻のうちの最初の書。新約聖書は収録されたそれぞれの書が   書かれた順に並べてあるのではなく、結集作業に携わったひとびとの熱い意図   が結果的に現在のような形態にまとめられたといわれている。福音書は四人の   著者またはそのまわりの書き手、編集者の手によって書かれたいわゆるキリス         トの生涯を描いた一代記である。正確な記録というものではなく、仏教の祖師         伝などにみられるものと同様な信仰上の情熱の所産という性格のものである。          新約聖書はもともとギリシア語で書かれたものであるので、原典を読むには         ギリシア語の素養が求められるが一般の読者やたいていのキリスト教徒にとっ         てはそこまでできるものではない。この本はギリシア語辞典を一冊用意できれ         ばかなり読めるように書かれているのでありがたい。原典の本文と著者の訳文         に脚注をほどこしてあって読者を福音書のより深い理解へと導いてくれる。  

     安息日の後に、週の第一日へと一日が始まろうとしていたときに、マグダラ       のマリアーともうひとりのマリアーは墓を見るために来た。すると突然大きな       地震が起こった。というのは、主の使が天から降りて(墓に)近より、石をこ       ろがしてのけ、その上に座ったからである。彼の顔は稲妻のようであり、その       着物は雪のように白かった。見張りをしていた者たちは、彼に対する恐れのた       めに震え、死人のようになった。                      
     δψε σαββατων 「安息日におそく」つまり安息日の終わりごろの意       にも解される。                                     M‘Neile,Moffat「……の終わりに」、Holtzmann、E.Schweizerら。その場合       δψε σαββατων(複数形だが単数の意)は部分を示す属格。