
家
(藤村全集 4) 筑摩書房 1967
この長編小説は1910(明治43)年から11年にかけて前半が新聞に、および後半
を雑誌に発表された作品です。いま読み返してみるとかつての日本人はこんな生活をして
いたのかと何か父や祖父やその親たちの時代がしのばれる気がします。そこには現代のち
ょっと見にはそれぞれ個性的な生き方をしているようで実はいいように横並びの生き方を
強いられている我々とは違う気概や苦悩を抱いていた人々がいたことが分かります。
当時、藤村をツルゲーネフになぞらえた批評家もあったらしいですが、そう言われてみ
ると人物の紹介や性格の表現、外界の情景を絵画のように描写する文章はおしつけがまし
くなく作品の中にわれわれを引き込むところはなるほどと思わせるものがあります。