
木々は光を浴びて(森有正全集 5) 筑摩書房 1979
著者の随想風の文章を集めた巻である。随想と言ってもその一語々々、そ
のすべてのページの行間に著者の思想を知る手がかりとなるような言葉が次
々と現れてくるのである。人が自己の思想(これはその個人が生きる基盤と
なるものの考え方をいうと思う。)を形づくる経験というものを著者は特に
重要視する。そして自分の思想を形成の道程を導いたパスカルやデカルトにたびたび言及
する。それはドストエーフスキーや、キェルケゴール、さらにサルトルにおよぶ。そうい
う中から人間の実存を誠実に生きようとするこの著者の態度が読者であるわれわれに安易
に他人の思想にもたれかかることの空虚さについて警告しているのではないだろうか。