
経験と思想(森有正全集 12) 筑摩書房 1979
表題となっている「経験」と「思想」という言葉の意味が通常われわれが
用いる辞書が説明する内容とはまったく違っていることはいうまでもないが、
このかなり長い論述の中で著者がくたびれ切ったような言葉を生き返らせる
使い方をされるのを見ると半睡半醒の生活に首までつかっている自分を恥じ
ないではいられない。そして、今からでも本当の自分(自分探しという最近のはやり言葉
とは違う意味である。それは失ってしまったか、どこかに置き忘れてしまった人間らしさ、
人間性のことを言う。しかし、何か適切に言い切れていないけれども。)を見出そうとす
る衝動を駆り立てるのである。