
文章読本 井上ひさし 新潮社 1984
言葉と文章とはどう違うのだろう?日常の生活や職業上の必要に迫られて(別
に迫ってくるものではないが)使っている会話の言葉でもその効果を大きくする
ために人は無意識のうちにもいろいろな表現を工夫している。それが文章となる
とその場で反応を見ながら対応する会話と違ってある程度のレトリックがなけれ
ばならない。そんなことは常識以前のことで今さら口にするのもおかしいと言われそうである。
文章は物理学者や数学者が書くものと作家や随筆家などの書くものとは性質が違うのだがだい
たいの文章読本は文芸作品などを多く例にあげてあるのはなぜだろう?
それはともかく、この本は読んでいてとても楽しい。「透明文章の怪」という章では、小説
の神様と言われた文豪の作品の中でも名文中の名文ととされる作品を例にして実に明快にこれ
までの定説を覆してみせる。そして、それがすでに文章読本となっている。