
キャパ その死 リチャード・ウィーラン 沢木耕太郎訳 文芸春秋 1988
出会う人を誰でも喜ばせる陽気で憎めないキャパは死んだ。地雷を踏んで。あ
のディエンビエンフーの陥落の数日後、再集結をはかるフランス軍に同行して行
く途中のいたるところの水田で何事もないかのように働く農民たちの姿に驚いた
り、それをカメラに収めた。瀕死のフランス軍に対して戦うヴェトミン(解放軍)
はどこからでも攻撃をかけてきた。キャパはその数日前まで東京にいた。ライフ誌の要請を受
けてヴェトナムの戦場を取材するために急遽東京を離れたのだった。人間の運命というものが
あるならば、キャパのヴェトナム行きがそれをもっともよく証明すると思えるくらいその間の
編集者とのやりとりやキャパが再び戦場に向かおうとする心理の推移はあまりにもドラマティ
ックである。