2002年9月 14期生下條善磨先輩と 平井1術校校長

五省への質問
謹啓
 初秋の候、平井校長におかれましては、恙無く、勤務に御精励の事とお喜び申し上げます。 17期安中氏より平井校長のMail Address を伺いました。突然、お手紙を差し上げる御無礼をお許しください。
 元14期水測生徒、下條と申します。
昭和50年に101航空隊を最期に退隊し現在、都内で通信関係の仕事を営んでおります。
17期生のHome Pageで平井学校長の仙人部落便り、江田島の様子、四季折々の写真、訓練行事等、私の江田島体験を振りかえりながら懐かしく拝読させて頂いております。
この度は、17期生Home Page開設1周年、特別訓育、有難うございました。
江田島卒業以来の学校長訓示、身が引き締まる想いで拝読させていただきました。
訓育の中にございました、五省に関し数年来疑問に思っていることがございます。

Five Reflections
1. Hast thou not gone against sincerity  ?
2. Hast thou not felt ashamed of thy words and deeds  ?
3. Hast thou not lacked vigor ? 
4. Hast thou exerted all possible efforts ? 
5. Hast thou not become slothful  ?

数年前、偶然、Internetで五省の訳文に接し驚きました。 このような訳し方があったのかと、 そして、この訳文は正しいのだろうかと疑問に思いました。
今まで使ったことのない言い回し Hast thouの言葉の持つ意味が識りたく、知人の日本語が達者な英国人に尋ねました。 彼によりますと、現在はほとんど使われていない言葉で、古い言いまわしというより、古語に近い分類で聖書に引用される神との約束のような時にこの Hast thou が使われたそうです。彼が実際に声に出してこの訳文を読みあげましたが、全文をとうし古雅の趣があるとのこと、それは我々が初めて五省を読んだ時、なかりしか という言葉に感じた伝統の重みのようなものではなかったのかと想像します。 
この訳文について、彼と一語ずつ対訳をしました。彼は私より一回りも若く、海軍経験もない技術者です。対訳をとうし、彼がこの訳文から受けた感銘は、私が座右の書としての五省より与えられた感銘と非常に近いものであることを確認しました。 
これは五省の自律規範としての完成度の高さ、時代、国境、人種を超える普遍性によるものと再確認した次第です。
 我々の対訳による結論は、この訳文は原文の内容、趣を忠実に再現した名訳である。
そして内容を熟知した訳文と、韻までも含む英語力の達者さから鑑み、この訳者は海軍
経験のある英国人であろうということでした。
 ところが、最近、訳者が まつい やすのり氏という日本人であると判明しました。
漢字名は不明です。 英訳した年代は五省が松下兵学校校長により創始された昭和7年頃より敗戦後の23年頃の間であると推測されます。 まつい氏のような英語の達人がおられたということに驚きました。 若し、氏が 海兵出身者であったとしたら当時の江田島における英語教育の質の高さが偲ばれます。訳文から端を発し、色々想像が膨らみました。

 それ以来、折りにふれ、五省の原文、訳文を暗誦する度、まつい氏とはどのような方だったのかと疑問を感じてまいりました。 まつい氏の件、何かご存知の事がございますでしょうか ? 
お忙しい職務の中、誠に恐縮ではございますが、ご教示頂ければ幸いに存じます。

 江田島はそろそろ金木犀の香りにあふれる頃ではないでしょうか。
今でも、秋になり金木犀の香りがすると、夏休暇も終わり、訓練が目白押しの江田島の秋を思い出します。 
江田島の後輩達の活躍と、平井校長の御健康を祈念いたしまして筆を措かさせていただきます。

敬具
下條 善麿



平井校長よりの返信 1
9月16日
いつも17期HPを愛読して頂き、心から御礼申し上げます。そして、早速のご質問ありがとうございました。
当地は、松の緑が輝く中、江田内に射し込む陽や流れ来る風に秋の気配が感じられるようになりました。そのような収穫の秋を迎えようとしている今、我が愛弟子達は、勉学に部活に精を出しております。いつ見ても爽やかな彼等に元気・若さを貰っている仙人です。
さて、ご質問の件、即答できない内容ですので、秘伝の巻物を捲ってみることに致したいと存じます。したがいまして、しばらくの猶予を頂きたくお願い申し上げます。
貴兄のご活躍を江田島の地からお祈り申し上げます。       平井



平井校長よりの返信 2
9月18日
当地は、前線通過後、秋晴れとなり、爽やかな一日でした。貴兄におかれても爽快な日を過ごされたものと拝察致します。
さて、ご質問の件、孫引きの戒め(物事の解明に際しては、原典に当たること)破りの誹りも省みず、手持ちの心もとない資料を参考にして、お答え致します。
英訳文は、W.P.Mack米海軍中将が、第七艦隊司令官(1971.6-1972.5)当時、江田島を訪問、五省の説明を受け、感銘を受けられ、これを米海軍兵学校の教材に取り入れるべく、公募され、多くの訳文の中から、松井康矩氏の訳した本文が採用されたものであります。
同氏は、海兵76期、戦後、慶応義塾大学を卒業され、第一回フルブライト留学生となり、渡米、そのまま米国に永住され、現在は消息が分からないとのことであります。
版権は米海軍が保有し、現在、この英訳は米海軍兵学校資料館に掲示されているそうです。
とりあえず、分かる範囲でお知らせ致しました。更に、参考になるものが入手できればお知らせ致します。
貴兄のご健勝、ご多幸を心から祈念申し上げます。     平井
追伸:米国での同期愛の話には、胸の中が熱くなるような感銘を受けました。有り難うございました。



平井校長よりの返信 3
9月18日
御地はぐずついた天候のようですが、お元気で何よりと存じます。当地は、秋晴れと言える爽やかに日でした。
さて、前報を訂正する頼りなさをお許し下さい。
メモに残っておりましたので、松井氏は海兵76期とお知らせ致しましたが、再度正しい名簿をチェックし、同期の方に確認致しましたところ、見当たりません。更に、知人を通じ、アナポリスに確認しているところですが、正しい情報が得られるか分かりません。お許し下さい。その結果は、またお知らせ致します。
ますますのご健闘をお祈り致します。   平井



下條 五省英訳_送 3
9月 18日
拝啓

 当地、柏では、秋雨前線の影響、1週間ほど、ぐずついた天気が続いております。
御多忙中にも拘わらず、お調べ頂き、誠に有難うございました。
松井康矩氏、やはり海兵御出身の方で、しかもフルブライトの第1回留学生、予想していたとうりの経歴に 潮の香り溢れる訳文への永年の疑問が氷解いたしました。
有難うございます。
フルブライトの第1回留学生と言えば、評論家の竹村健一氏等、現在の日本の第一線で活躍される優秀な方達と伺っております。 松井氏はそのまま米国に残られたとのこと、
きっと米国で御活躍の事と推察いたします。私、昭和50年に渡米いたしました。当時、
ベトナム戦争直後の厭戦感は漂っておりましたが、軍人に対する尊敬は米国社会の基幹を成していると感じました。大学のカウンリングで私の22歳で軍隊経験7年という履歴に
驚いたカウンセラーに、単位の取得等で思いもかけぬ便宜をはかっていただきました。
日本での税金泥棒扱いとは大きな違いと驚いた次第です。松井氏も戦後の旧軍人に対する公職追放の中で米国民の寛大さに感じるものがあったのかもしれません。
そして、異国の地で江田島を思い出しながら五省を訳したのかもしれません。
平井校長の御教示を受け 又、想像の輪が拡がりそうです。
W.P.Mack 中将の件に関し、71年から、72年に江田島へ参られたとの事、ちょうど我々14期は部隊実習の時で江田島を離れており残念でした。米国海軍兵学校にも五省の英訳があると、以前、聞かされ、Annapolisに問い合わせましたところ、そのような事実はないという返事でがっかりいたしました。平井校長の仰るように米海軍に訳文の版権があるのであれば必ず存在すると考えられます。 機会がありましたら訪問し確かめてみたいと考えております。

 17期 Home Pageに投稿いたしました、拙文、お目を汚し、汗顔のいたりです。
まだまだ、修行中の若輩の身、今後とも宜しく御指導の程 お願いいたします。
本当に有難うございました。

敬具

下條善麿