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       太古に馳せる

植物の中でも下等に位置する。種子ではなく胞子となって大気の流れに身をまかせ安住の地に根ざしてわずかな木漏れ日を浴びながら成長し確かな生命力を宿すまで数十年かかる。
彼らは、ゆっくりと時間をかけて世代を繋ぎながら、大地の創生から山々の変遷を見つめてきた。彼らの近くには必ず山河の清水が流れる。自らが大地を潤す水の濾過媒体となっているのである。
奄美の目映い海も、珊瑚礁も彼らの存在が大きく荷担している。
幹は保湿性や加工のしやすさから天然の鉢植え用として重宝された。
治山事業や道路整備などで伐採され年々減少の一途をたどってきた。
人の足を拒んできた彼らの絶対的守護神「毒蛇ハブ」も開発が進むにつれ山林深く追いやられ容易に人の手が入るようになってしまった。
近年ようやく、採取禁止の条例が施行された。
人の寿命の数百倍のタイムスケ−ルで奄美大島そのものを造ってきた彼らの成長を憂う。

まだ間に合う。


                   2002年3月5日        奄美大島 橋本