「じゃあ、アルテミファに留まる間だけでも・・そしたらあなたも違うことを見つければいいわ。
何も花屋を手伝ってもらうことはないのよ」
「どっちにしろ、同じだよ。それにそんなことになったら別れづらくなっちゃうし・・」
オルレアはルージャンが、もう決めてしまったのだと分かって口をつぐんだ。
そしてその考えは、どうしても理解できない。それだからこそオルレアもむきになっているのである。
「私に、これから一人で生きて行こうとしている子を止めるなって言うの?」
ルージャンはオルレアが泣きそうな顔をしているのを見て困ったような笑みを返す。
全然似ていないのに、ルージャンはその顔がペチカと重なって見えた。
「おれは、ひとりなんかじゃないよ」
オルレアの方をまっすぐ見たまま、ルージャンは言う。
「大丈夫だから」
あふれた涙をぬぐうとオルレアはルージャンを見る。
とてもよるべをなくした男の子には見えなかった。ルージャンもペチカ同様、前とは変わっているようだったが目の光がその言葉を信じてもいいよう伝えている。
オルレアは、やっと微笑んだ。目の前にいる男の子はペチカを救ってくれていた。過去のことは知らなかったがその事実だけは確かなものだった。オルレアは自分が心配してやるほど、この子が弱くはないと初めて気がついた。
外では月が黄金色に輝き、星たちがその光を歓迎している。
いい夜だった。一つ、星が流れていく。月が太陽の光に照らされているように自分も、ペチカを支えられるような存在になれるだろうか。いつの日か、ペチカと一緒に―――
汽笛の音が響いてルージャンは、はっと我にかえった。少しの間、夢をみていたような気がする。
それがどんな夢だったかは、もう思い出せなかったけれど。
ルージャンは立ち上がると後ろの座席の方へ歩み寄った。オルレアはペチカとハーティーの反対側の席で安らかな寝息をたてている。
「おばさん。おれ、もう行くから」
見るとペチカはさっきと変わらぬ位置で眠っていた。するとその時、口が微かに動く。
「ルージャン・・」
ルージャンはとてもびっくりして息を止める。どうやらそれが寝言であることが分かるとルージャンは固まっていた体の緊張をやっと解いた。
「元気でな」
そう言うと、ルージャンはペチカが寝ている座いすに手をかけ、体をかがめると素早く口づけた。
それをやるのには少々戸惑ったが、これでしばらく会えないと思うとそうせずにはいられなかったのである。―おじさんにでも見られたらやばいんだろーな。
ルージャンはペチカの隣の席を一回も動こうとしなかったハーティーを思って自嘲気味に笑った。
そして静かな汽車の中を、運転台の方にむけて歩いていった。